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とりあえずメルディナちゃんへの渡りを付ける件については昼食時にでも行うことにして。
そのままお互いにどうでも良いことに嫌味と皮肉を乗っけて会話をしていたら、十分かそこらでパパーン男子がやって来た。
え、大物釣れたんだけど。ギュスくん辺りで全然間に合ったんだけどなんでお前が来た。
「アカネ! 無体なことはされていないか!?」
「平気です」
速攻で冷たい口調で返してから、一瞬だけしまったという表情をするアカネちゃん。
ランディアルも驚き目をむいているが、次に怒りの形相でこちらを睨み付けてきた。なんか用か。
「アカネに何をした」
「会話を」
これまた端的に答えたら、相手は相当いらついたのか顔が赤くなった。
アカネちゃんが俯いて震えているのは笑いを堪えているためだろう。
「アカネ、寒いのか?」
それを勘違いするランディアル。え、そこ? と思わんでもないけど、怒っていても、ある種冷静でいられたことには素直に感心する。恋は盲目とは言ったものだ。クソ面倒くせぇ。
しかし、ふむ。
どうしたものかなぁ。本人が来たならそれでも良いんだけど、本人に伝えても良いのかな?
まぁいいか、駄目だったら何かと理由をつけてギュスくんやミズホくんが出張ってきてただろうし。こんな目立つことをして、この対応って事は、このまま突っ切って良いんだろう。
「ランディアル様、お時間はございませんか」
「ない」
そこをなんとか。
と、口から出そうになるところを堪える。
「今後のアカネさんの進退に関わることで話し合いの場を設けたいと考えております」
「そんなものは我々が決める事じゃない。アカネ自身が決めれば良いことだ」
いや、この国の重鎮がアカネちゃんをあんたの嫁にしようとしてるから話しをしたいんでしょうが。
違うな、正確にはランディアルか。後々イズイナートにもランディアルが入り込むし、当主が何考えてるか知らないけどイズイナートは完全負け戦するんだよなぁ。こいつにアカネちゃんをあてがう事を優先する理由が意味不明だ。
まあ、そこら辺の事情は省いたとしても、逆ハーレム軍団が集っている時点でアカネちゃんにそれなりの自由はないかな。こんだけ周りを囲まれていたら、アカネちゃん自身の身分といわず、一挙手一投足注目が集まっても仕方ない。良い言い方をしたが、つまり粗探しをされるって事だ。
「無理でしょうね」
だから正直に伝えた。
それに嫌そうな顔を向けるパパーン。なんなのこいつ。
「それはお前達がアカネを拘束するからか?」
いやいやいや! なにいってんの?!
それこっちの台詞なんですけど!!
「それよりも教えていただきたいのですが、なぜランディアル様はアカネさんにまとわ……ううん、保護しているのでしょうか」
「そんなもの、アカネが優秀なのに身分一つで嫌がらせを受けているのが道理に合わないからだ」
まあ、それは正しくもあり間違ってもいる。
少なくとも公爵という立場の人間が口にしていい理屈ではない。せいぜいが黙認する、むしろ、できるとしても黙認まで、というレベルの話だろう。
誰だ? こいつに啓蒙活動をしたのは。
というか、あれ? なんかおかしくない?
「無理が通れば道理が引っ込む、失礼、それは会合を断る理由にはなりませんね。なぜなら、私達の行動を制限するだけであり、アカネさんが居なくとも話ができるからです」
「そういって、お前達はアカネに不利なことをしようとしているのだろう」
「そうならないために、あなた方を交えて話をすると申し上げております」
「何故お前ごときに口出しをされなければならない。本当にそれを望むなら、イズイナートを出すべきだな」
明らかにおかしい。最初からおかしい。
女に狂ってまともな判断ができないのかと思っていたけれど、それにしては話に筋が通ってない。彼だってランディアルの嫡子なんだから、それなりに優秀で公平な判断力だって持っているはずだ。
あれ?
ちょっと待て。
「………」
「ふん、本来ならばお前程度が俺に話し掛けるなど不敬なのだがな。アカネが居てよかったな」
え、ええー……。
マジか。勇者の父親っていうから人格者と思い込んでいたけどコイツ面倒くさいのでは?
いやいや諦めるな。これは操られているフラグが立っている。え、誰が操るの? 嘘だろ、もしかしてイズイナート様ってばここまで見越してなんかしてるの? 情報網がすごすぎるんですけど。
さすがにリシア辞書にもランディアルの現状がどうであるかまでは載っていない。しかし、イズイナート様の手管を考えると……もしや、ランディアル当主さえも手玉に取っているのではと思えてくる。
嘘だろ、どうしよう。さすがにそこまでは考えてなかった。普通に二柱だと思ってた。影から国を操作してるのはイズイナート様だけだった!
衝撃の事実に言葉も出ない。そんな私の様子に気が付いたのか、アカネちゃんがランディアルへと顔を向けた。
「ランディアル様、私のことを思ってくださるなら、この申し出を受けていただけませんか」
「アカネ? 何を言っているんだ。コイツらはアカネを貶めようとしているんだぞ」
「いいえ、カルディア様からは誠意を感じました。そんなことはなさいません」
「騙されている」
「違います。そうですね、この話を受けないのであれば、私は二度とランディアル様とは関わりません」
「なぜだ!」
告げられた言葉にショックを受けたのだろう、ランディアルが目をむき、そのままこちらを睨んできた。
いやいや、あんたが悪いんだから、罪のなすりつけはよそうね。
「お前のせいだな。アカネがおかしな事を言っているのは」
ぐっと握りしめていた拳を開き、こちらに手の平を見せるようにして。
「『天の怒りに触れざるなかれと──』」
「!? リシア、避け……っ!」
「ランディアル様!」
アカネちゃんに体当たりされ覆い被されるのと同時に、ランディアルぶつかった何かが彼を引き倒した。
うほぉ結構大きい実りが二つ……じゃなかった、横目で倒れたパパーン男子を見れば、親戚と部下に押し倒されている。三人とも見た目がいいので、いわゆるご馳走様です。三次元は駄目だと思い続けていたけどこれなら大丈夫かもしれない。
「カドウ、ミズホ、なにをする!」
「見境ないなぁ、ダメでしょ、学園で許可なく魔法を使うのは」
「ランディアル様、これ以上のご面倒はおやめください」
結構容赦ないね君達。
「さすがに上級魔法は証拠も残るからねぇ」
「相手はイズイナート様のお気に入りですよ、相手を考えないと」
もっと容赦なくやっても良かったんじゃないかな?
「そうやって甘やかすからつけ上がるんです」
私に抱きつき、冷めた目で三人を見るアカネちゃん。
豊かな胸囲に顔を半分埋めながら片眼で彼らを見れば、しまったという顔をするカドウ氏と困ったように笑うミズホくんがいた。ランディアルは二人にマウントを取られても暴れている。それなりに美形なのにどうしようもねぇ野郎だ。
「そうはいってもランディアル家の次期当ですから」
「廃嫡決定ですね」
ミズホくんの取りなすような言葉に、バッサリ切り捨てるアカネちゃん。
ぎょっとしたのは発言者と当事者以外で、周囲に耳目がないか素早く冷静に目を走らせる。
結構な性格をしたおなごだとは思ったけどそれはさすがにマズイ。悪ければこの場に居る全員が共犯として捕まる。
まあ、あんなやつをかばおうとは思わないからフォローの言葉が出ては来ないんだけど。逆に、あんなやつが育ったって事は親がモンペとしか思えない。モンペに睨まれるのは面倒くさい。それが無駄に権力があるのでなおさら。私達だけが罰せられるなら良いけど、それが親類縁者に及ぶとなると果てしなく面倒くさい。
「私の、この学園で初めてできた友人を害なす人なんて、死んでしまえば良い」
ちょっと待て巻き込むな!
あんた前からランディアルを嫌ってただけじゃないか! これ見よがしに理由にして責任を共有してこないでくれませんか!!
したたかもここまでくると可愛げねーぞ!
しかし言いたいことは分かる。私が逆の立場だったら言ってる可能性がある。言わなくとも思ってるだろう。
だからか、胸が押し付けられる。くそう、性癖まで似通ってしまうとは。
「カドウか? あの女を退学にさせろ!」
「黙ってて」
「もがっ?!」
口に何かを詰め込んだんだろう。中々の処置だ。処理した瞬間を目撃したかった。
と思ったら、向こうの茂みが少しだけ揺らいだ。ギュスくん居るわ。なんか動揺したらしい。こんな所にも同士がいただなんて。この学園の生徒は大丈夫なの? そういう子が集められてたりしない?
「それで一体、何があったの」
「……私とアカネさんが交友を楽しんでいたら、いきなりランディアル様がいらっしゃいまして。アカネさんの今後について話し合いを提案しましたら、このような有様に」
「なるほど……なるほど? アカネさんの今後? それに今は授業中なのでは?」
それについてはそっちもそうだろう。確認の必要はあるのかね。
そう思ったが、視線がアカネちゃんに向いているので彼女立場を考慮してのことだろう。
「はい、今後です。私はイズイナート様の代理として話をさせていただきました」
「……そうか」
少し考え、納得したように頷くカドウくん。
こっちの思惑まで読み取ったらしい。
そうかぁ……それもあって直系の息子にアカネちゃんを当てようと思ったのか。それがランディアルの思惑であれ、イズイナートの深慮であれ。双方の合意だとしたら哀れなもんだよな、失態を期待されるなんて。まあ、殺されかかったのでこれ以上の同情は致しかねる。
しかし親戚筋の子を養子にする理由にアカネちゃんを使おうとするのは理解できてもいらだたしいとは思う。でも何ができるってわけじゃないし、なんならこの子は逆に利用するくらいだから平気か。あとで少し、それっぽいことを匂わせておこう。
「その場は俺が取り仕切ろう。構わないだろうか」
「……まあ、大丈夫でしょう」
公爵家同士が出席するならそれに準じた身分か、もしくは役職が必要だろう。
明らかに私じゃ足りない。カドウ氏ならなんとかなるんじゃないかな。だからこそ声を上げてくれたんだろうし。
というか、私が許可する立場じゃない。それに対して確認をしてきたって事は、配慮してくれたのだろう。傍流じゃなかったら、変に息子ができていなかったら、こいつが次の当主になっていたかもしれない。少なくともそこにいるパパーンよりはマシだ。変態だけど。
もがもがやっているパパーン男子を立たせ、さりげに拘束しながらカドウくんがこちらに微笑みかけてくる。
「詳しいことは後日にでも言付る」
「はい」
結構な大物釣れちゃったけど、そのおかげでいい話のネタができた。
既に知っていることかもしれないけど、イズイナート様に情報として渡しておこう。っていうか、誰かが見て報告するだろうから、私の手柄って事になるように手紙でも書いて老執事さんに訴えかけておこう。
娘付きの使用人が役立つとなったら、メルディナちゃんの見る目も変わってくるだろうし。
さて、これにて本日の目的は達成。
メルディナちゃんの所に戻って、今度は幼女に癒やされましょうかね。
上機嫌になった私の頭に何かがぶつかり、飴細工のように壊れやすい容器だったのか中身がぶちまけられ、もろにそれを食らった。
「……れ?」
「な……お、おいお前!!」
「ひっ……ば、ば」
「うっそだろ」
「うひっ、ひゃひゃ……!」
「う、そ……ちょっと待って!!」
視界に映った自身の手が溶けているのが見える。
それに煙が出ていて……これは蒸発しているのか?
痛覚がないからこれがどれだけのものかはわからない。キョトンとして、目の前にあるアカネちゃんの顔を見れば、冷静な彼女に似合わず焦って目の前に手の平を翳してきていた。
「『ヒール』!」
ほわんとあたたかくなる右の二の腕。
治癒術ってこんな感じなのか、と思うと同時に、肩が軽くなった。腕が落ちたらしい。
……あ!! アンデッドだった!
治癒魔法は逆効果なのでは?!
やべぇと思ってアカネちゃんを見たら察したらしく目を丸くしていた。
だが、次の瞬間にニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。そして耳元でぼそりと呟かれた。
「任せておいて」
何がだろう。
ボンヤリする頭では何もわからない。
「回復魔法が効かない! 重傷だわ!! ああ、この溶解液は危険よ、近付かないで!」
「そ、それは聖水……」
「はあ? 人間に効くわけないでしょ!! なんて危険なものを持っていたの!」
「ひーっ、お前……溶けてら」
いつの間にか近くにギュスくんが来ている。超笑ってる。
声がするからそうだと思うんだけど、視覚情報が断絶していてわからない。聴力だけは残っているみたいだが、それも時間の問題だろう。
聖水と聞いて、もはやどうにもならないことは悟った。アンデッドであれば多少の無茶は愛嬌の範囲だけど、それで得た肉体的欠損は決して修復されることがない。
つまりは、死ぬ。
ああ、やっとこここでもうまくいきていけるだけの素地が出来上がったところだったのに。まだまだここからだったのに。
座り込んだ尻の下から振動が伝わってきて、他に誰かが慌ただしく駆けつけてきたのだとわかる。
それすらも遠のいて、ふくらはぎがぴくぴくとこむら返りのように動いたと思ったら、足の指から爪が剥がれて、そのまま何も感じなくなった。




