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戦線復帰だー!
気合いを入れないとやりたくなくて引きこもってしまいそうなので無理矢理テンションを上げてみる。今日からまた学生だよやったね!
ペントハウスの厨房は修繕が終わったようだ。ついでに、本家から使用人が数人派遣されてきたことから、完全に家内でのメルディナちゃんの地位が向上したと見て取って良いだろう。
そこら辺の変化についての噂話がクラス内とかで出ているようなら注意した方が良いかもしれない。が、しかし、そこまでの伝手もなけりゃあコミュニケーション能力も……あ、リシアちゃんと一緒になってイジメ実行犯やってた子達に聞けばいっか。
「戻ってきましたわね」
本家でもべったりだったメルディナちゃんは今日も今日とて腕に絡みついてきた。
やはり人目があると気になるみたいだったから、日中はなるべく誰かが居るところに退避してたけど。夜ばっかりはどうにもならなかった。
部屋に入るなりこれだもの。特にこれといって何をするわけでもないんだけど、メルディナちゃん的にとりあえずひっつければトークも必要ないらしい。上機嫌にニコニコして、たまに紅茶を楽しんだり、お菓子を食べたりしている。
これを、無駄、と切り捨てるのも悪い気がして、中々叱れないでいるのも良くないんだろうとは気付いているけども。この時間を堪能したいとか思ってるわけじゃないです。本当です。
「明日からまた学校ですわね、お姉さま。この数日、授業を受けていないけれど、ついていけるかしら」
そんなん私も同じ条件ですな。
というかむしろ、基礎を知らないだけ私の方が不利ですな。
「まあ、なんとかなるんじゃないかな」
「お姉さま……少し、その、一緒に勉強しませんか?」
あ、ああ。勉強会のお誘いだったのね、気付かなかった。
とはいえなー、どこまで進んでいるかもわからないし。かといって誰かを呼ぶわけにもいかないし。ミケリアちゃんでも無理となるとー、いや、男子部の方がないわ。
「何の勉強が良いでしょう」
「魔法学がいいですわ!」
言って目をキラキラさせるメルディナちゃん。うわぁ可愛い。
魔法使えないんだけどどうしたもんかね。
「概念であれば……」
「魔法は実践ですわ、お姉さま! 私、お姉さまに魔法を見ていただきたいんですの!」
おう、どうしてそんな思考に至ったかはわからないが、それ最後に私も魔法を使わなきゃいけない流れだよな?
阻止するわそんなもん!!
「勉強も大事ですが、それよりもイズイナート邸から新たに使用人が来ているのでは……ああ、ええと、屋敷の主人としての采配を見せなければならないでしょ?」
「お姉さまとの時間が……」
「これはチャンスよ、メルディナちゃん。公爵様からの課題よ。上手く人を使うこと、それを覚えるようにって事だわ」
しかもその指導を私にやれって事だよな。
今までお付きが誰も居なかったところにこうだもん。アドバイスできる人材もなしにいきなり人を突っ込むとか修羅の道過ぎる。
確かにメルディナちゃんも人並み外れた頭の良さを持っている? 持っているかこの子? 言動はちょっと怪しいところはあるけど、飛び級入学するくらい才能がある。だからといってノーヒントは無粋の域だ。
ついでにだろうけど……ここに来た使用人達の様子をちょっと見たけどさ。
あんまり良さそうではなかったんだ。なんていうか、静かなんだけど……いや、たぶん優秀なんだけど一癖も二癖もありそうっていうかね、嫌な予感しかしなかった。
つまり、だ。公爵様は自分の経験則から、メルディナちゃんもしくは私に、彼の持つ心理戦のノウハウを学ばせようとしてる。
そんな風に言ったら大袈裟だけど、ようは言いくるめるなり行動を制限するなりして、無意識動作で人を動かして望む結果を導き出せと無言で伝えてきているわけですね。無茶振りか。
まあ、それができたら後が継げるって事なんだろうけど、それができたら苦労しないって話な訳で。無理だろう。
この学園の生徒ですら上手く拐かせる自信なんてないよ。
「そう、なら仕方ないわ。彼らはどうしているのかしら」
「一階の掃除をやらせています。終わり次第、声を掛けるように伝えてあります。まずは自分達の持ち場の把握とこれからの住まいを覚えて貰うためですね」
「なるほど、そうね」
一石二鳥作戦であるが吉と出るか凶と出るか。
まず悪い方向には行かないはずだ。むしろ、ここで問題が出てくれた方が後々やりやすい。
などと考えていると、下階から何かが倒れた音と怒鳴り声が聞こえてきた。久々にスキル発動した気がする。
おろおろするメルディナちゃんの手を取って立ち上がり、にたりと微笑む。
「さあ、実践と参りましょう」
「お、お姉さま……顔が怖いですわ……」
これは失敬。
朝からアカネちゃんに出くわした。
その周辺にはパパーン男子を含めた彼女の逆ハーレム。これはメルディナちゃんじゃなくても言いたいことが出てくるだろう。しかし、それを言えるのはメルディナちゃんだけだ。なるほど、ある程度は需要を抑えていたのか。
ということは、私は余計なことをした。メルディナちゃんが注意を促さなかったら、この異常な光景が日常になりかねない。
いや、恋愛のれの字もピンとこない娘に乙女ゲーのライバルキャラになれって言ってる周りもおかしいんだけどさ。
とりあえず、ランディアルが舌打ちをした。
アカネちゃんが目を伏せる。なにか面白いことがあったらしい。肩が揺れている。
剣呑な雰囲気を醸し出すハーレムメンツ。それに向かってメルディナちゃんが口を開いた。
「ごきげんよう、皆様。アカネさんも」
周りの人達がざわっとする。
少し離れてあとを着いてきたハスティフォのお嬢さんも。
あ、今日からだけど、メルディナちゃん親衛隊はイズイナート肝いりの生徒達で固められています。私の場所は当然のようにメルディナちゃんの隣だけど。いやー出世が過ぎるわ。
「おはうようございます、イズイナート様」
明るく元気に挨拶を返してくれるアカネちゃん。
周りのぼんくら共はポカンとしたまま声を上げやしない。それで貴族の子弟だってんだから間抜けも道化、地位に見合うリアクションを期待したこちらが馬鹿を見てしまった。
ニコリと笑みを残して教室へ意気揚々と進むメルディナちゃん。一晩でこうも立派になって……私に執着する姿から想像できないけど、やっぱりこの子は希代の天才だわ。うちの子です。
脳内で娘自慢を展開しているうちに教室にたどり着いた。
アカネちゃんの机は新しいものになっている。前のやつは物証だもんな、下手に細工される前に確保しておくべきものだ。
そういえば事件はどこまで調査が進んだんだろうか。メルディナ嬢の取り巻きに変化がないことと、さっきの出会いで何もなかったことから、進展はないんだろうな。
「リシア」
「失礼しました」
小声で忠臣の子に注意される。
メルディナちゃんに椅子を引いて、社交的な笑みを浮かべる。淑女の振るまいをなぜ教室で披露しなければならないのかはよくわからない。
彼女が席に着いたらそのまま傍らで待機だ。その間に、何事か目で話し合った肝いり娘達がミケリア嬢達に交渉に向かう。席順についての最終打ち合わせだ。向こうは苦々しい顔をしているが、こちらは淡々と無表情だっていうから恐ろしい。いつの間にこんな子飼いを育てていたんだよあの当主。しかもメルディナちゃんが相応しくないままだったら仕込みが無駄なまま終わるところだったんだろ? 先読み大将というより堅実を好む感じなのかね……。
「リシア、久し振りの学園ね」
「そうですね」
「あの子もランディアルも変わりないようね」
「目に余る状態ですね」
「良くないわね」
「はい」
つまり、どうにかしようということだろう。
これまでは父親に言われるがまま、ただ方策もなくアカネちゃんを孤立させようとしてきた。それはメルディナちゃん一人でやっていたことであり、勘違いをしたミケリア嬢が暴走して見当違いな方へ進もうとしていた。
しかし、今回の件で一歩引いた目で見られるようになったのだろう。問題は、イズイナート当主が一体何を考えてそのような命を下したかにあり、現実問題として公爵家の跡継ぎが平民に熱を上げ、あるべき姿を歪めているところにある。恋愛は好きにすりゃ良いけど、節度を持てって事ですね。
言い換えればこうだ、いらん問題を起こすな面倒だから。誰が尻拭いすると思ってんだ。
親でも後見人でもないんだからさ。まあ、そのお陰で責め立てる格好のネタにはなってるんだけど。
「あの子に問題はあるのかしら」
「多少は。ですがそれも、ランディアルに起因するものかと」
「そうね」
はっきり言ったので周辺がざわついた。
大袈裟にすれば内戦の火種だ。それをどこまで縮小して解決させられるかは当事者達の力量にかかってくる。
「ランディアルに取り次ぐように」
「はい」
新しい部下の一人に目をやれば、お前がなんとかしろと返された。
いやいやこういうときのために君達がいるんでしょうが、と返したら、そんなことでこの先やっていけるのかみたいな顔をされた。おいおい……なんでそこまでこっちの心情を読み取ることができるんだよ……。
さすがはイズイナート当主のお墨付きというか、隠し部隊である。怖い。逆らうことができなかったので、授業無視してギュスくん辺りを尋ねようと思う。たぶん、あっちもサボってるだろうから。




