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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
4.貧乏令嬢

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18

思った以上にヒロインがサイコパスだったので、余計な心配をするのはやめた。というかこれ以上関わり合いになりたくない。だって私はまともな人間なんだもの。疑問に思うヤツは訴える。そして勝つ。どんな手を使っても。こういうのを負けフラグというのだろうか。

さて、一人でも大丈夫というアカネちゃんを残してメルディナ寮に帰る途中、黒髪男子に行く手を阻まれた。帰り道の真ん中に陣取っているのが見えたわけだ。

奇しくもここは中庭につながる渡り廊下。逃げ道はいくつもある。


だが、目が合ってしまった。

その上で微笑まれたということは、私に用があるという事なのだろう。無視したいな。

すっごい嫌そうな顔をしたら、右手からミズホくんが出てきた。視界に入るなり残像を見せながら近付いてきて、間合いに入った瞬間に手を取られた。


「これはこれはリシア姫、いずこまでいらっしゃるのでしょう」


「帰るところです」


今日はもう授業ないし。

部屋に引きこもって勉強したって良いじゃん。学生の本分は学業でしょう、そうでしょう。間違ったことは言ってないはずだ。


「つまり、お時間があるという事ですね。どうでしょう、これから私とお茶など楽しみませんか」


うん嫌だ。

即答しかけた口を閉じる。ちらと視界に映った黒髪男子が憮然としていたからだ。どうやら予定外だったらしい。

そうか、スケコマシを取るか目に見えた罠にはまるか、二つに一つなのか。本当にそうか? 第三の選択肢だってあるはずだ。それも、この二人から逃げられて、かつ後を引かない方法が。あるかもしれないけど思い付かないや。私の知能ざまぁ!

誰か交換してくんねーかな。頭良い方でお願いします。


「それは素敵なお誘いですね。貴方の相方はいらっしゃらないんですか?」


「おや、私より彼が気になると……残念ながらおりますよ」


ああ、つまりお茶のお誘いじゃなくて作戦会議的なやつなのね。

なら出向いておいても良いだろう。確認したいこともある。口裏を合わせないと、飛び火してきそうだし。


「それと、我等が親愛なる御方も」


その言葉で頷くのをやめた。

喚問招集じゃねーか!


「恐れ入りますが、用事を思い出しまして」


「それはそれは……あちらの?」


チラリと黒髪男子を見るミズホくん。

上手く誘導された感が否めない。

一応は両方とも公爵家に繋がる身分、それを放り出すほどの用事が他にあるのかと言われれば……正直、メルディナ嬢に呼び出されたと言っておけばいい気もするが、騒動後の別行動の理由がない。

うん、わかったよ。行くよ。行きたくないけど。


「そうですね」


「そうでしたか。男女の間のことを邪魔するなど無粋なことは致しません。どうぞお通りください」


すっと身体をひいて、さりげなく退路を断つミズホくん。お前……。

一体誰の味方なんだと疑いの目を向けたら、人差し指を口元に立ててウインクをかましてきた。見た目は良いんだけどさ。ナルキッソスって知ってる? 知らないよな、異世界の神話だもん。


彼の仕草に鳥肌を立てながら黒髪に近付く。

俯き加減でげんなりした顔の私に引いていたが、目の前で立ち止まれば気分を立て直すように咳払いをして人の良い笑顔を作ろうとして失敗していた。顔が引きつっていらっしゃる。


「カドウ=ランディアルだ」


はい、そうですか。

だけで終わらせられないのが面倒なところである。


「リシア=カルディアです」


カドウくんはミドルネームとか色々すっ飛ばして名乗ったんだろうな。わざわざ公爵ネーム出す必要ないでしょ。

そんで目的はなんだ。早くしろと視線で促せば、また咳払いをされた。声を整える以外に別の意味もありそうだ。


「あー、アカネの様子はどうだった」


声をうわずらせ、視線をさまよわせる黒髪男子。

そんなに気になるなら自分で様子を見に行けば良いのに。色んなしがらみがあるのか気恥ずかしいのかは知らんけど。

気分を害さないように、こちらも無表情から笑顔に切り替える。


「お元気そうでした」


「そうか、やはりそうだよな。アカネがあの程度のことで挫けるとは思えん」


おや、つまりアカネちゃんはこいつの前では本性を見せていたと。

あんだけ打たれ強いって中々ないよね。

あ、そうだ。


「アカネさんとランディアル様が仲良くなったきっかけを教えていただけますか」


「と、唐突だな」


「そういえば知らなかったので」


「お前も変わったヤツだったんだな……。まあいいか。俺とアカネの出会いは図書館だった」


ん? あ、こいつもランディアルだ!

私が知りたいのはパパーン男子の方なんだけど!

お前のエピソードは知ってるよ! 勉強して仲良くなったんだろ!


「あそこの一角にいわゆる春本があってな、それをこっそり読んでいたらアカネが来て、こう言ったんだ。その本の女の子は妹ヒロインとはかくあるべしと思わせてくれますよね、と。心を読まれたかと思った」


この世界には変態しかいない。

どうして君達はそう簡単に性癖を暴露できるの? そういう社会で生きてるの? じゃあ仕方ないか、巻き込まないでくれ。

っていうか図書館に何の本を置いてるんだよ。しかもそれ春本じゃなくてライトノベルじゃねぇかな!?


「名前を聞いたらアカネという。運命を感じたよ」


もしかして第六感。


「我等が一族の血脈を思わせる名前だ。俺には妹がいない……あれだけ理解力に溢れ、理知的であれば、義理の妹としても問題ないと思った」


サイコパスまで同じじゃねーか。

本当に義理か疑われるレベルで似通ってるよ君達。


「ということは、ミズホくんは最初から貴方の仲間だったんですね」


「今の話でわかるのかい?」


「血族のお名前が特徴的なんでしょう?」


アカネちゃんの名前を聞いたときから疑問でしかなかった。

やっぱ過去に誰かしら来てたんじゃない? またかよって思うけど。


「それで、用事は以上でしょうか」


変態にはあまり関わり合いになりたくないんだよなぁ。


「もう一つある。犯人は君か?」


何故誰も彼もが私を疑うのか。

確かに状況や証言を集めたら私が一番怪しく見えるだろう。明け方に教室に入ったときも証拠隠滅や偽装工作の一つもしていない。堂々とやった。

でも、ここで自白するわけにはいかない。まだ必要なことを終えちゃいないからだ。


「……どうでしょうね。なんだか、皆様に疑われたので、そんな気もしてきてしまいました」


「そんなわけなかろう。違うなら違うと言えば良い」


「記憶とは自己を守るためなら改ざんされるものですよ。都合の悪いものは忘れられる。もしくは美しい思い出になる。心を守るための機構は、理解すらねじ曲げるものです」


自分に有利であれと願えば願うほど。言葉の揚げ足取りばっかりしてくるやつもいる。

アレ本当に正直にやってる周りの人の神経削れる行動なんだけどね。他人のエゴで鬱になる人を見たことあるけど、可哀想というよりマジでやりきれない。そんで自分優位のヤツがのうのうと、あの程度で引きこもるとかありえないっていうんだぜ。神罰下ってもかばいようがないなって思うわ。っていうか弁護する義理もない。自己愛を貫いてさっさと自滅すれば良いのに。


「……わかった。やってないんだな、信じるよ」


曲解あざっす。

自己弁護とはかくあるべきだな。


「感謝します。それではこれで」


「ちょっと待て」


なんだよ、話は終わっただろう。

眉間に力を入れて睨みあげる。カドウ氏はこっちを見てはいなかった。睨み上げ空振り!


「アカネと……仲良くしてやってくれ。俺が言える義理じゃないんだが……義妹に友達ができるのは、俺としても嬉しい」


……ねえ、その義妹設定って公式なのかな?

どっちかわからないから、とりあえず小さな声で頷いておいた。害にはなるまい。

それにそうしておけば、いざという時に助けてくれそうな気がする。犯人じゃないって信じてくれるみたいだし、棚からぼた餅ですね、これは。

今度こそその場を辞し、メルディナ寮へと帰途についた。


その夜。

寮の厨房でボヤ騒ぎがあり、メルディナ嬢は侍女として一人の同級生を伴って実家へ帰省したのだった。


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