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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
4.貧乏令嬢

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19

うっかりしちゃったよね。

夕飯をメルディナ嬢に振る舞うために厨房を使用したのは良いけど、ドジっ子なもんだから消火を忘れてた。

更にうっかりしたことに、設置されてる自動鎮火の魔方陣の模様を消しちゃったみたいで、鍋を空焚きしちゃったんだ。

運が悪いことに鍋にもたせかけるように絹の房飾りがついたテーブルクロスが置いてあってね、発火しちゃったって訳。


うっかりって恐いねー。

なんか嫌な予感がして厨房に戻ったら火の手が上がってるんだもん。運良く近くに水瓶があったから消火できたけど、建物に燃え移ってたらひとたまりもなかった。

正直に言おう、私はちゃんと手加減した。あのサイコヒロインは寮を全焼させれば良いって言ったんだぞ。さすがに被害がでかすぎるし、予測できないことも起こりそうでやめておいた。私が会いたいのはイズイナートであって、ランディアルでも王様でもない。

いや、それよりなにより、良心も良識もあるからやめたんです。本当です。


消火作業のあと、メルディナちゃんに泣きじゃくりながら抱きつかれた。

さすがに恐い思いさせちゃったかなって慰めようとしたら、火の手に立ち向かう私を見て、死ぬんじゃないかって気が気じゃなかったらしい。

戻ってきてホッとした、もう二度としないでほしいと泣きつかれ、頷くことしかできなかった。不覚にもうるっときたけれど、そういやもう死んでたわと思った瞬間に引っ込んだ。感動を台なしにする自分の思考が憎い。


そんなこんなでボヤ騒ぎの翌日、メルディナ嬢は実家から呼び出しを食らったわけだ。

こんなに早く上まで報告がいくだなんて超優秀な配下をお持ちで。というか、一応は娘だから心身に欠損をきたしてないか気になったんだろうか。

ともかくこちらは呼び出し前提で問題行動を起こしたわけだし、上手いこと向こうから接触してきてくれたので尻馬に乗ることにした。というか、ここで乗らなきゃ他では機会がない。


あっさりメルディナ嬢を言いくるめ、同道する権利を取得し、イズイナート家まで。ここまで最短三日だぜ。自分の才能が恐いわ。

普通にアポとってもそれぐらいじゃないだろうかというツッコミはいらない。自分の力で成し遂げたことに意味があるのだ。ということにしておこう。ほら、身分が低かったら門前払いの可能性もあるわけですし。自らに詐欺師の才能を垣間見てちょっと落ち込んでいたけれど、メルディナ嬢の自室についたらそんなことも考えていられなくなった。


なんで客室とかじゃなくてお嬢様の部屋なんだよ。しかもここ、日も当たらないし部屋自体も狭い。寮にあったベッドが入ったら良いよね、くらいの広さしかない。

メルディナ嬢が自分で案内すると先導してくれてたときから変だなぁとは思ってた。いやその前に、学園並みにでかい屋敷へ勝手口から入っていくのも違和感あったけど、それは緊急の呼び戻しだから周囲の目を気にしただけかと思ってた。

埃っぽくないのが唯一の救いか。

いや、つーかここ本当に自室? 使用人の部屋じゃなくて。


「驚きましたでしょう? 私、公爵家の娘ですけど、後継者じゃありませんもの」


いや、だとしてもおかしいでしょ。

むしろ娘だったら優秀な他家の男子を引っこ抜いてくる口実ができる。自分の血を継がせようとしたらどんな馬鹿でも使わなきゃなんないけど、他家の子ならほとんど選びたい放題だ。ならば、娘は着飾って教養を詰め込んで最上の宝石と思わせる居ずまいを身に付けさせる。

価値があると思われれば、より優秀な者を引き寄せる。いわばステータスだ。地位もあり綺麗な嫁もいる。そんなの一般的に勝ち組じゃん。

そんな原石の扱いがこれ。さすがにどういう事だって思うわ。


「私は確かにイズイナートの娘ですけれど、所詮は愛人の子。他に同じ血を持つ方はいらっしゃいませんが、それで扱いが向上することはありません」


そういってシングルベッドに腰掛ける幼女。

あとは机と椅子が一脚、それだけでこの部屋はいっぱいだ。


「狭い世界、でも私だけに与えられた空間……今はお姉さまもいらっしゃいますわ。何を望むものがあるのでしょうか」


使用人がいないからボヤ騒ぎも起こせたけれど、そもそも仕える人員がいないってお嬢様への仕打ちじゃないしなぁ。

本当にこの家の主人は何考えてるんだか。


「お父様に呼ばれましたけれど、会えるまで時間はかかりそうですわ。他の部屋をいただけないか交渉はしますけれど、それまでは私の部屋で一緒に過ごしてください」


すまなさそうに微笑むメルディナちゃん。

なんだかぐっとこみ上げてくるものがあって、思わず足下に跪いた。

歳を取ると涙腺が弱まって仕方ない。演技ができるわけでもないから、俯いて隠すくらいが関の山だ。だからこの動作に意味はない。


「え、お、お姉さま」


「私にできることは限られます。ですが……」


人生を賭けて? 違う。それは保証できない。

吹けば消えてしまう灯火よりも薄っぺらいのが今の私の立場であり、覆すことのできない事実である。子女にできることは限られる。私は女傑でも戦乙女でもない。


「貴女の友人として。できうる限りの協力を惜しまないつもりです」


「お姉さま……」


恩着せがましいだろうか。

というか、何故私はこんな事を言ったのだろうか。

やはりリシア嬢の思念が影響しているんだろう。華やかな身分の娘がこんな扱いを受けていたのだ。嫉妬や怨嗟を思うには相手が幼すぎる。同情が一番近いだろう。このような仕打ちを受けるいわれなどないはずだ。

俯いたままの私の頭に手がのせられた。おそるおそる触れてきたそれは、どうして良いかわからず微かにふるえている。


「貴女の忠義受け取ります。生涯変わらぬ忠誠を尽くすよう」


え、騎士の誓い……ま、まあ、おままごとのようなものだろう。

顔を上げて、差し出された手をおしいだく。あれだ、心臓を捧げるみたいなやつだ。

一通りの動作が終わって、お互い気恥ずかしくなって苦笑いを漏らした。そこにノックの音が響く。


「ご主人様がお呼びです。すぐに参上するように」


「……行きましょうか」


「はい」


瞬時に切り替わる表情。

その横顔は、とても年相応には見えなかった。


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