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今、私はミハル君の目の前で正座している。いや、気分としては正座している。だって球形スライムだもの、そんな器用に形は変えられない。
「ラス、いいか。俺は大抵のことはされても怒りはしない。神様から貰った能力でほとんど解決できるからな」
耳元がりがり攻撃も特定の音声がシャットアウトできるから意味なかったみたい。ちくせう。
「でもな、これはいかんと思うんだ。お前の名前がセクハラスライムになってんだが一体何をした」
実はさっきまで眠るミハル君と一緒に居た。男と思われてるからか、女性陣の中に入れて貰えなかったんだよね。
だから仕方なく、ミハル君の体についてちょっとした開発をしてあげたんだけど、お気に召さなかったらしい。
ああ、またぐらは触ってない。そんなとこ、もんでもおいしくならないし。
「なあ痴漢スライムになったんだけど本当に何したんだよ……」
意外と感度良好だったよ。素質あると思う。
それにこんなことスライムじゃなきゃできないんだもん! 現実でやったら立派に犯罪だからさ。
「お前恐いよ……ホモなの?」
断じて違う。
なんか知らんが今生では男女関係なく胸の部分が気になるだけだ。
「キレスライム……ホモではないって事か」
当たり前だ。逆立ちしたってホモにはなれないんだからな。なりたいと思ってもまずは性転換という関門が待っている。
後戻りできないんだから迂闊に踏み込める領域じゃない。
あと、ホモって蔑称と思ってる人がいるみたいだからゲイって言ったほうがいいよ。この世界じゃ関係ないと思うけど。
「本当お前、自由だよな。まあ、料理上手いからいいんだけどさ、そうじゃなかったら消滅させてるところだよ」
物騒なこと言わんといてください。
現代っ子によるスライム殺人事件! ばばん! 単なる初心者の狩り風景ですね。
「はあ。まあ、お前がいるだけで見張りにも退屈しなくてすむからいいか」
野宿だから夜番を立てていて、最初はミナさん、次にミハル君、そしてリタさんの順番で見張りをするらしい。真ん中ってどちらにせよ中途半端な時間しか寝れないから一番疲れると思うんだけど、自分から買って出てたし、一応はパーティーリーダーの自負があるんだろう。
ちなみにスライムは寝なくても大丈夫だけど戦力外だから見張り番にはなれません。ごめんね。
「そういえばよ、お前も転生者だよな。なんかチート能力貰ってねーの?」
ねーよ。
「ノンオプションスライム……そっか、何もないんだな」
よく生き残れたなー、と笑われつつかれる。
その指がかぶれますように。
「それにしてもお前さ。アミに懐きまくってるよな。もしかして好きなタイプとか?」
にやにやしながら語りかけてくるミハル君。思春期男子め、実は誰かと恋バナしたくてたまらなかったんだな? よろしい、この私が相手をしてやろうじゃないか。
ミハル君の思い人が王様だろうがアリオーさんだろうが受け止めてやろうじゃないの。
「おまえこそどうなんだスライム……名前で会話すんなよ」
それ以外に聞きようがないんだよ。
「俺は……なんていうか、まだこの世界に馴染めないっていうかなぁ。寿命も延ばして貰ってて、長生きする分、連れ添いが先に死んじゃうだろうなって考えると、ね」
そのくせ一人が嫌だとか訳わかんないこという奴かお前。
第一において長寿は孤独だろうに、飲めない時点で望むべき能力じゃない。
「だからさ、アミが慕ってくれたり、リタが信頼してくれたり、ミナが、まあ熱愛してくれたりするのはすごい嬉しいんだけどさ、一歩引いちゃうんだよね」
ミナさんに関しては一歩じゃなくドン引きだと思うけど。
表面上は拒否してるようにみえるけど、内心じゃあウェルカム状態なのね、はいはい。好きなだけ優越感に浸っていたらいいさ。
しかしこうなると……やはり、人員不足だな。
ラブコメ筆頭というか本命はイェルミナさん、そして彼女に対抗するようなライバルが不在。だからコメディなラブが出てこないのか。
アミちゃんは精神が幼すぎて恋愛の前に養育が必要だし、リタさんは頼れる戦士、どちらかといえば男友達レベル。ワンチャンあるならリタさんだろうけど難しい気がする。
うーん、やはりテコ入れ要員が必要か。
「陰謀スライム……何考えてるんだよ」
おっとダダ漏れだ。
思考がすぐステータスに反映されるんだからもっと慎重にならないとね!
「長命種ならどうだってか。前のエルフの村でだいぶ嫌われてただろ、そういうことだ」
どういう事かは分からんが、先天的に嫌われるんだろう。残念ですなぁ。
「で、俺は喋ったぞ! ラスはどうなんだ、ん?」
ちっ、覚えてやがった。
しかし恋愛なぁ。このスライムボディで人間の相手ってエロ同人みたいな展開しか思い浮かばんぞ。
それに今は雌雄同体、繁殖というか分裂で増加するから伴侶って考え方がまずない。よって相手を探す必要がない。証明終了。
「ミハル、交代の時間だ」
回答を先延ばしていたらリタさんがやってきた。
ナイスタイミングです。
「もうか? 早くないか」
「あまり眠れない質なんだ。外だと余計にな」
「ああ、そういえばそうだったな……分かった交代だ。おいラス」
呼ばれたので近くに座ったリタさんの肩に飛び乗った。
野郎よりおなごがいい。
「おいラス……」
「ミハルは休め。ラスは寝なくても平気なんだろ、私が面倒を見ているさ」
さっすがリタさんわかってるぅ!
明日から砂漠横断っていうのに体力を温存しない手はない。つまり休めるときには休んでいた方が良いってことだ。ミナさんの結界のお陰か温度の高低はほとんど気にならないんだけど、足場が悪いのはどうにもならないからね。砂の上を歩くのって消耗半端ないだろうし。
まあ私は誰かの肩の上に鎮座するつもりだから関係ないけども。
「……わかった。リタ、ラスが変なことをしたら砂漠に放り出して良いからな」
「変なこと? まあいい、わかった。それなりの措置をとる」
おおう、行動に制限がついてしまった。
でも変なことをしなきゃいいんでしょ? おっけおっけ。
一回だけこちらを振り返ったけれど、ミハル君は大人しくテントに戻っていった。
中で仕切りを作って男女別にしてるのね。眠るときだけの措置らしいけど。まあ、布製だけどミハル君が何かしらの手段を用いて鉄よりも硬くて侵入不可状態にしてる。ミナさんの夜這い対策ってんだからヘタレこの上なし。
それはさておきリタさんだ。
椅子代わりにしている薪の束の上に座り、熾火を見つめている。
満天の星空に小さな篝火、月は細くて心許ない明かりしかないが、砂の丘陵は藍と青の絵の具で塗りたくった空のように濃淡がはっきりしていて、その姿は折り重ねた羅紗のように浮き上がっている。
こうしてみていると、その中に入ってもなんてこともなく進んで大陸の逆端にさえいけそうな気がしてくるが、その魅惑に抗わなければもれなく乾いたミイラに成り果てて、砕かれた大地に音もなく溶け込んでいくことになるのだろう。
そんな景色の中、ただ一つ刻印されているような現実感。
「どうしたラス」
幻想を引っぺがす声に呼び起こされて、思わず肩から飛び降りた。
その場でばよばよすれば、彼女が微かに笑う。
これが髪の長い女性なら女神に見えたかもしれないが、リタさんの印象はどうやっても頼りになる騎士だ。どんな仕草でも格好良いというか、姉貴って呼びたくなる姉貴!
「ラスはミハルに信頼されているんだな」
何でそういう結論に至ったんだ?
「私達には話さないようなこともラスには話していただろう? ああ、すまない、立ち聞きするつもりはなくて聞こえてきたんだが……」
ああ、それはどっちでも良いよ。ミハル君の独白ってだけだから損するとしたら彼だけだし。
しかし信頼っていうか単なる同族意識だと思うけどね。
「まだ時間もあるし、少し話をして良いか?」
んむ、こっちは喋れないので独り言でよければ。
合いの手の代わりに激しい動きをすることはあるかしれないけど気にしないでいただきたい。
ぐにぐに動けば肯定と取ってくれたらしい、リタさんが話し始めた。
「私がミハルと会ったのは、彼が白銀の乙女を解雇した後なんだが……」
そこからの話を聞くと、どうやらミハル君はこの国と周辺諸国に訪れる数々の災厄に対抗するために召喚されたってことらしい。まあ、その災厄ってのは神託からわかったから、つまり神様のマッチポンプって訳だが、とりあえず危機への対抗イコール英雄行為ってことで、異世界からの来訪者が国に居着くようにと、王様はとにかくまず美人の従者をあてがったらしい。
騎士団から凛々しい乙女、教会から癒やし系巫女、魔法省から指折りの秀才。とまあ、豪華絢爛な三人組がミハル君を取り囲んだらしい。
そして最初の冒険から帰ってきた後、三人とも冒険に向かないとしてミハル君に以降の同行を拒否されたらしい。
何があったかは推測でしかないが、帰国後すぐに財務管轄の大臣に申し入れをして、かつその地位に実直な人間を押し上げたことからして、散財に腹が立ったんじゃないかとの事だった。
つーかミハル君やるときはやるんだな。大臣のすげ替えとかどうやって王様を説得したんだよ。やっぱ体をなんでもない。
「その後、ミハルは一人で旅に出たんだが、次に戻ってきたときは疲労困憊でね。派手な傷は途中で出会ったミナに治してもらったようなんだが、やはり同行者が必要だと思ったらしいんだ」
その少し前から剣術指南をしていたのがリタさんの上司でもある乙女騎士団の副団長で、武者修行の意味も込めてリタさんを同行者に指名したらしい。
その後、別の仕事でアミちゃんに出会って、四人で行動することが多くなっていった。そのままパーティーとして認められたのか、国からの任務は四人を指名することが自然になった、という歴史を聞かされた。
そういう経緯でこのメンツなのね。実利優先だからラブコメ起こらないのか、納得。そんで神様が外注すると。なるほどミハル君が元凶か。アイツゆるさん。明日は耳元で肉の焼ける音を発してやろう。
「それで今はラスが加わった。と、そんなところだな。夜が明けそうだ、そろそろ出発した方が良いだろう。砂漠だと昼間は動けないからな」
遮るものがないので直射日光が当たる。日の照る時間が長くなれば、その分だけ暑くなるのは当然の話だ。
日本でも二時がピークの暑さでしょ、だから洗濯物は二時頃に取り込むのがベストなんです。日が傾いても空気は熱されてるからしばらくは暑いんだってさ。
とにもかくにもやっとこ出発だ。
今度こそ幸運が働いてくれることを密かに祈っておこう。




