12
足元にあった下草が減ってきて礫砂漠になった。そのすぐ向こうの地面が砂になっているのを見てビックリした。こんなにすぐに変化するものなんか地形ってのは。
ミハル君が指摘してきた通り、料理スライムになったら熱さ耐性ができたけれど今度は料理がしたくて仕方ない。だから、ずっとクルミを割っては取り込むというがりがり音が出る作業をしている。ミハル君の耳元で。この衝動をおすそ分けしてあげるんだ。
「ふう、やっと砂漠に出たな」
「しかし、ここから目的の人物を探し出すんだろう? どうすればいいのやら」
見渡す限りの砂、砂、砂。地平線の向こうまで砂。ってか。
丘陵はあるけれど、目印になるような建物も木立もオアシスもない。生物の気配もなく、本当に死にゆく大地って名前が相応しい風情だ。
「風も強いし足跡も消えてるんだろうな。昼も過ぎてるから動きやすい時間帯だと思うけど、どうする? このまま突っ込むか?」
「ここでテントを張っていたら目印になるのではないか? 向こうに見つけてもらうのはどうだ」
「近くを通る確率は高くないだろ。でもまあ、方針を決める意味でも一泊するか。テントの隣に旗でも立てて帰るときの目印にしておこう」
魔物に襲われないといいね、それ。
「よし、じゃあ準備するか!」
「わかったぁ! じゃあアミはねぇ、あっちょあっ!?」
リタさんが止める暇もあらばこそ。
転けたアミちゃんがいつもの衝撃破を炸裂させ、それが少し向こうの丘陵を破壊した。
ついでにその向こうに居たでかいサソリみたいなやつに直撃したらしく、鋼色だった甲羅が赤く染まっていく。
あと、それがこっち向いた。
いやぁ、さすが強運スキル、必要のないイベントだって引き寄せちゃうんだもの。なんで幸せなことが起こらないかなぁ! 同じ珍しい事柄ならさっさと目的の人物が見つかったっていいじゃないか!
「なんで砂漠の入り口にあんなのが……!」
「ラクタクスコルピオ……ワームの親戚か?」
「自らをデザーターと名乗った砂漠の生態系調査を生きがいにしていた研究者の名前がラクタクなのですわ。ちなみに砂漠でたまに出会うミイラもデザーターですわ」
それはどっちが語源なんだ?
「それよりどうする!」
闘牛よろしく、体制を低くして足をかさかささせるサソリ。前に出たリタさんが構えているが、そんな細剣で受け止められるとは思えない。
なまじっか鋏をはじいたとして、次の瞬間に背中に尾っぽが突き刺さるだろう。
逃げるが得策、だろうか。しかし、すぐに追いつかれそうな気がする。それならばやはり迎撃か。
「やるしかない! アミ、時間を稼ぐから詠唱、氷魔法だ! ラスはリタの所へ行け! それから、正面は俺がやる、リタは援護を頼む! ミナは全員の遮断結界を絶やすなよ!!」
「分かってますわ」
「こおりー、えーと、地獄の竈を凍てつかせ――」
「ミハル、正面は危険だ、そこはわたっひゃっ!?」
リタさんが役目を変わろうとしたから、肩に飛び乗った私がそのまま耳たぶをつまんだ。だけではつまらないからついでに人に言うのは恥ずかしいようなこともした。スライムだから許されると思う。
「ら、ラスっ! 何をする!」
真っ赤になって抗議してくるリタさん。
珍しいものを見た。
「来るぞ! 構えろ!!」
「ああくそっ!」
役目変更なし、ショートソードを構えて突っ込んでいくミハル君の後から、一拍おいて追随するリタさん。
さすが転生者というのか、脚力強化されているようだ。鍛えているはずの女騎士が追いつけない。
砂埃を巻き上げ真直ぐに走り込んできたサソリと、ミハル君の武器が交差して甲高い音を上げる。それを想定していたかのようにサソリの尻が持ち上がり、長い尾の尖った先端がミハル君の脳天を狙う。
だが、それを許すようなリタさんじゃない。
仲間に追いつく一歩手前で跳躍し、下から上へ、刃を立てて尾の先を弾き飛ばした。
この人の斬撃精度どうなってんだ。
「さすがリタ!」
「貴様っ、こういう想定は先に言え!」
「言わなくてもやってくれると思ってた!」
「まったく……次が来るぞ!」
「おし、もうちょっとだな!」
再度振り上げられる鋏。二人してそれを飛んでかわし、左右に展開する。
サソリはどちらを狙うか迷ったようであるが、巻き上がる砂埃の中に何か光るものが見えたと思ったら、ミハル君の方に顔を向けた。あいつナイフか何か投げただろ。
そんな観察をしていると、いきなり体が浮く感覚がした、と思ったら後方に引っ張られる。リタさんが上体を落としての急加速をしたらしい。搭乗者の事も考えて!
「こっちだ馬鹿サソリ!」
わめきながらまたしてもナイフを投げるミハル君。
現代っ子のくせに……囮になるとか良い根性だ。
その間にもリタさんが敵に接近。突進準備のためにわさわさしている足を一閃両断した。
相変わらずの破壊力……この人なんでこのパーティに所属してるの?
突然動力を失って砂の中に沈み込むスコルピオ。
混乱しているだろうその尾の付け根に、リタさんが一撃を加えてから離脱する。
「――祖は天の怒りなれば。アイシクルランス!」
そこへ、巨人かという大きさの氷柱が上から突き刺さった。
蜃気楼も見えようかというクソ熱い、水分のない土地でどうやって作ったんだよこれ。
氷柱に貫かれ、サソリはしばらくびくびくしていたが、やがて動かなくなった。これにて討伐完了ってところですかね。
「ふう……やばいなあれ」
「あーつかれたぁー」
「こんな砂漠の端にいるような生物じゃありませんわ。砂漠で何か起こっているのかもしれませんわね」
「偶然ってこともありえるだろう。……しかし、この先もあんなのが出てくるのか」
「こえーな……ここで野宿ってのも考えものだ」
そういえばそういう話だった。
「仕方ありませんわ。魔物除けの結界を作って張りますわ」
「ああ、頼む。俺の方でも何かないか考えるわ。リタ、悪いがテントの準備を頼む」
「え、泊まるのか?」
「要は魔物が来なきゃいいからな。この土地で暮らす部族がいるってことは何かしらの方法がある、ワームの時と同じだ」
「それはそうかもしれないが……」
「ってことで! アミ、そこに座って動くなよ!!」
「わかったぁ! ラスちゃん、遊んで待ってよ?」
その言葉の後でリタさんに放り投げられた。
モノみたいに扱うのやめて! これでも……なんだ? あ、これでも生命体よ! 投げやすい大きさかもしれないけれど!
とりあえず、その後はアミちゃんの服の中に入ったりして遊んだ。
くすぐったいのか笑っていたから楽しんでくれたんだと思う。




