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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
2.人造人間

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ということで、賢者様宅です。

何でかね、討伐隊に編入されたようでしてね。

所属は斥候、主な任務は偵察ってところ。睡眠も食事も必要としないんだけど、それがあまり必要ないと観察されていたようで、ならば適任だろうと判断されたらしい。

とりあえず動きがあったら伝言用の魔方陣を使う手はずになっているとか。狼煙みたいなもんかな。

そんでまぁ、家の周辺事情に詳しいだろうってことで派遣されたらしいけど、ここに来るまですっごいモヤモヤしてた。少なくともこの編成にあの人たち関わってないでしょ。


「しかしまぁ、坊主も若いのに大変だなぁ」


待機場所に到着するまでの間に仲良くなった傭兵のおじさんが世間話を仕掛けてきた。それなりに死線をくぐってきたとかで、めっちゃ揺れる馬上でも余裕で話してた。体力お化けかよマジで。

見た目は筋骨隆々っていうより職人筋肉男って感じか。無駄な肉は筋肉だろうとついていない。戦うことに特化した肉体とか、戦神に愛されてるでしょこの人。顔は海外の俳優さん、というか堀が深くてイケメンかどうかわからん。


「あの公爵家からの特別派兵なんだろ? 期待もあるんだろうが、失敗したら二度とこんな仕事できねぇだろうによ」


「まあ……いい機会が与えられたと思って頑張りますよ」


「口だけじゃなく頼むぜ」


うわー、特別派兵とか知らないよ。いつの間にか使用人に組み込まれているし抜け目なく使えるものは使い潰す気だなあの女狐さん。

なお、この傭兵さんは部隊の予備人員だ。ついでに私の運搬係をしてくれた。馬とかね、乗れないからね、普通の人は。


張り込みは基本的にツーマンセル。名目上は三交代勤務だが現場は三人で回していたようだ。二人ほど体調を崩しはじめている事もあって、追加の派兵は猫であっても有り難かったらしい。なんもできないけど歓迎された。そんでもって休憩する間もなく任務に就かされた。よっぽど限界だったらしい。

移動の後なんて疲れてるんですけどね。ねぎらうこともされないとかどんなだよ。


特に休憩いらないから大丈夫だったけれど、体力お化けも愚痴を言いつつ見張りに就いた。やっぱこいつおかしいって。

とはいえ、私達が街に逃げてからも師匠さんに動きがなかったように、この任務に就いたからって急展開が起こるわけもない。よってすぐに暇になり、じっとしていられない性分なのかおっさんが話し始めた。見た目よりも堪え性がないらしい。

といっても、この世界の事を知らない私としては情報はありがたい。適当に相槌を打ちながら、小声で話し続けるおっさんの話をラジオよろしく聞いた。


後方では毒蛇夫人が領地の貴族位から私兵の徴収をしているらしい。流れの冒険者や傭兵も雇い入れているとのことで、もはや一領主ができることの範疇を越えての軍事力になりつつあるらしい。

そのため、周辺国では戦争準備じゃないかとの疑いが持たれていて、国境近辺ではピリピリしたムードになっているとか。そうなると稼ぎの時間になるから、世界中からこの地域に傭兵やら腕っぷしに自信のある冒険者が集まってきているのだと。

ってことは当然のように治安が悪くなる。血の気の多い連中をひとところに集めて平和裏にいられるかってことだ。リアルストリートファイターが誕生しまくる予感しかしないわ。


「んで、俺は運よく公爵様に伝手があってな、早々に雇い入れて貰えたわけ」


「へぇ、すごいですね、公爵様に伝手なんて」


「これでも信用には重きを置いているんでね。今の若い奴らは金のために裏切りだってなんだってする。だが、この先も仕事を続けるなら、そんなこと一回だってしちゃなんねぇからな」


へー、こんな時代感で信用と言いますか。


「損しますよ」


「結構だ、得しても清々しく思えないのは嫌なんだ」


なんかあったんぁかなぁ。おっさんの笑顔が吹っ切れたように輝いているんだが。

これもうちょっと若くてイケメンだったら失礼と思いつつも事情を聴きとりするんだけど。このおっさんも悪くないしある意味でストライクゾーンなんだが如何せんイケメンかわからん。

それにいい人だからね、むやみやたらに古傷をつつくもんじゃないでしょ。


というか、さっきから公爵様ってガラリアさんの事でいいんだよね?

他に該当者が思い当たらないから勝手に断定しているけれど。公爵とか王様の親戚筋ってことじゃない? とんでもねー身内もってんな王様。あれを手中にして転がしているということは、もっと狡猾な奴がいるのかこの国。怖すぎるだろう。


「にしても、暇だよなぁ。なあ坊主、ここの出身なんだよな。見取り図とかわからねぇの?」


「いや、わか……」


答えようとしてふと思う。

なんでそれを今確認するんだ?


「待ってください。ここに来る前に教えられていないんですか?」


「聞いているのは、こっちに来てから指示を受け取れってことくらいだ」


雑いな。

でも、私も人のこと言えないか。

家の中で雑務してたらいきなり来たロバート崇拝者が行ってこいって傭兵のおっさんに私を投げて何を言う間もなく出立したもんな。せめて餞別くらいは欲しかった。

なんで私はこの世界で荷物を持つことを許されないんだ。


「それで、見取り図ってまさか特攻するつもりじゃないですよね」


「馬鹿言え、命あっての物種だろうが。ちょっと玄関から中を覗こうってだけだよ」


十分に冒険だよ。

そんな好奇心が抑えられないでどうして生き残ってこれたんだよこのおっさん。


「じゃあ特に図解しなくてもいいでしょう。ぱっといってさっと戻ってくれば」


「おいおい、引きずり込まれたらどうすんだよ。逃げるためには事前知識があったほうがいいだろうが」


「近付かなきゃ危険は来ません」


「だって暇なんだもん」


命より暇潰しが重いということか。

そんなにスリルがほしかったら屋敷の中に放り込んでやろうか。


「それに、こっち側は玄関じゃなくて裏口です」


「………!?」


その一言で固まるおっさん。

何か思い当たることでもあるのか?


「おいおい……ってことは、公爵様の別荘ってことじゃねぇか。とんでもねーもん飼ってるわな、お貴族様ってのは」


うーん?

街道沿いに裏口がある、ってだけで元々が貴族の館と推察できるってことは、それなりに有名な話ってことになる。

傭兵の間で口上されるような場所が好意的なものとは思えない。

ここは元からいわく付きだってことですか。とんでもねー所に住むんじゃねぇよあの賢者。


「あの、実はその理由を詳しく知らないんですけど教えてください」


「……あー、そうか、坊主がここに住んでたっていうのは嘘ってことだもんな」


おいおい、こっち側が裏口ってだけで随分と情報が洩れるじゃないか。

この傭兵が察し良いだけかもしれないけれど、随分と情報の仕入れ方がよろしいようで。世渡り上手で情報戦に長けて将来も見据えているとか、なんでこいつこんな仕事してんの?


「俺も人嫌いなお貴族様が居たってくらいしか知らないけどな。だから玄関は客の来ない森側にあるのさ。そいつ、引きこもりがひどすぎて、私室に入ってきた輩は殺したとかなんとか」


引きこもりこじれるにもほどがある。


「んで、館の主は悪霊に呪い殺されたとかな。この手の話は眉唾だが、不気味だからしり込みする奴は多い。俺もその一人だ」


弱点をどや顔で宣言するんじゃない。


「じゃあ、もう特攻なんて考えていませんね」


「うん、一人じゃ怖いもん。それに見取り図もないし、こりゃもう坊主と一緒に行くしかないな」


「……うん?」


「ほれ、何かあるかもしれないだろ。手柄を立てるには命令にないことをしないとな!」


結局行きたいだけじゃね?


おっさんが私を抱えてでも行こうとしたから全力で阻止しました。具体的には近くの木に抱き着くという方法で。

そんなことをしていたら日が暮れて、交代の時間になった。通常よりも短い勤務時間だったけど、どうやら人が増えたことでローテーションの仕方を変えることになったらしい。

おっさんは引き続き見張りで、私はいったん休憩。新人ってことでの計らいらしい。まともな判断ができる人がいて良かった。


それにしても、日がないとこんなにも暗くなるのか。

特に建物のある辺りは真っ黒で、ぽっかりと穴が開いたかのようだ。月明りも心細いし、文明の光がないってのは不便だなぁ。


「え……」


それは自分の口からこぼれたものだったか。

ぼんやりと見ていた黒い塊、そこに生まれた二つの白い点。遅れて届いた、何かが軋む音、同時に上空で何かが弾けた音。

理解した時、目の前には黒い筒衣を身に着けた女性が立っていて、傭兵のおっさんが腕を抑えて呻いていた。交代要員の兵士は倒れていて、どんな状況かわからない。

そして、自分は恐怖しているのか、ただ呆けているのかわからなかった。ただ、尻の下に衝撃がやってくる。いつの間にか視点が落ちていて、足を動かそうと思ったら、そこにはなんの感覚もなかった。違う、震えているのが微かにわかる。つながっているのに、そこには何もない。


ただ見上げている、それがどのくらいの時間だったのだろうか。

不意に視線を外されて、空気が一気に肺に送られた。咽そうになる喉を抑えて、戻ってきた足を無理やり動かし立ち上がる。

黒い女性はこちらに一瞥をくれると、くるりと背を向けて屋敷へと戻っていった。

そのまま扉をくぐり、辺りはしんと静まり返る。


「い、いまの……なに……?」


唾を飲み込んだ音が自分の中でこだまして、水面に落ちた水滴の描く波紋のように、全身に広がっていった。


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