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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
2.人造人間

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翌日。

私達は街行きの荷車に並んで座っていた。

起きてきた家主が食糧庫を見るなり用事を思い出したって言いだしたわけなのだが、そんなわけなかろう。

慌ててまとめ出した持ち物の中に蛇口があったし、こんな辺鄙なところで研究してるのに唐突な用事なんか生まれるわけがない。ましてや客が来たばっかなんだぞ。


そんなわけで留守番を言いつけられたが、すぐさまあとをつけ、荷車を引いた一団を見付けた彼が、上手いこと交渉を終えてそれに乗り込むタイミングを見計らって強制入場したわけだ。

マスリオさんは驚いていたが、突き落とすことまではしなかった。面倒だったんだろう、諦めたため息をついていたし。


「それで、なんで逃げ出したんですか」


「あー……気付いたのね……」


あれで気付かなかったらとんだでくの坊ですよ。


「いや、実はね、あの食物が腐った匂いを隣の家の玄関先に流すようにしててね……」


「それで?」


何の嫌がらせだよ。

隣人がいたらご近所戦争に発展しているところじゃないか。


「ほらあそこ、私の師匠が住んでいるし……」


「うん?」


うん、人が住んでいたの?

あれ、賢者の師匠ってどういう位置付けになるんだ? やっぱり賢者?


「魔物研究の果てに自分もあんな風になっちゃったじゃん。だから、屋敷から出ていかないように出入り口に不快な匂いを充満させていたわけ」


ちょっと何言ってるかわからないです。

そんな当たり前のことを話すように言われてもだな、こちらは初耳だわ!


「それ、不味いんじゃないでしょうか」


「うん、まあ照明があれば大丈夫だろうけど、さすがに部屋の外に化け物がいるのに無防備に寝れないからさ、人の多いところに行こうかなって」


そうだな、孤立無援になってから脱出を図るより、逃げられるうちに退避したほうがいい。

それよりも先に、あの物資に意味があるのならば教えてもらいたかった。台所を綺麗にしたんだから、ほかの部屋も同じようにしたっておかしくないと気付いてくれてもいいものを。

いや、何をするか言わなかったのはこちらも同じか。宣言してたら忠告くらいは聞けたかもしれない。こんな状況になっても、のほほんと事情を話すくらい警戒心も怒気もないし。

あ、先に聞いておくべきことがあった。


「あの、怒ってないんですか?」


「怒ってるよ? んー、正確に言えば、こういう時は怒るべきだという常識は知っているよ。でも、それを体現する方法がいまいちわからないというか、ロバートなんかは剣を振り回すんだけど、同じことしようにも武器もないし」


「真似しなくて大丈夫です」


「そう?」


危ない事はしないでいただきたく。

矛先は間違いなく私なので。


しかし、怒るという常識、か。感情ではなく認識として押し出してくるとは思わなかった。

幼少期に人との触れ合いが少ないと感情は育たないんだっけか? この人もそれと同じなんだろうか。


「あれ、というか放っておいていいんですか? このままだとその人、脱出したりとか」


「するかもね? でもどうしようもないから」


「玄関前に照明をつけておけば良いのでは?」


「魔力の供給の仕方が難しいかなぁ。照明器具に近ければ私の魔力に反応して点灯するだろうけど、影響距離は師匠の方が広いし、それこそ抱きしめてでもいないとかき消されちゃうと思うよ」


それはこの人が弱いのか、師匠さんが強いのか。

察するに、魔物と人間の合成物になったんだろうから、師匠さんが強いんだろうな。


ん、っていうか待って。

それ、あの場に留まっていたらどのみち私はお亡くなりになっていたということでは?

照明器具を抱いたマスリオ氏にひっつきでもしない限り、襲われていたに違いない。うわ、逃走してくれて良かった。気付かず夜中にスプラッタされちゃうとこだったわ。


「街に行くんですよね」


「うん、最寄りの街にね。馬車なら半日くらいだから、そう遠くないよ」


そうなのか。距離感よく分からんけども。

速度はそんなに速くないし、時速十キロで換算して百二十キロくらいか。うーん、私の実家から県庁所在地まで車でだいたい一時間、時速六十キロ平均で進んでたはずだから、県を横断するくらいの長さかな。県地図なら頭の中に入っています。

あんまり大したことはなさそうだ。

しかしてマスリオ氏、こちらの質問には答えてくれるよね。彼からはなにも聞かれないけど。


そのまましばらく沈黙が続く。

小鳥が鳴く音やガタゴト進む音を聞いていると、これがのどかな田舎風景なんかなぁ、などと思ってしまう。ここら辺、賊も出れば魔物も出るんですけどね。あれ、賊って魔物と仲いいのか?


「マスリオ様」


「んー?」


「……申し訳ございませんでした。僕が余計なことをしなければ」


「うん、まあそれはそうなんだけど。どうでもいいかな。あ、資料がないのはちょっと痛いけど、なんとでもなるし」


懐が広いってより執着しなさすぎなんだな。

この人が適当で良かった。そうじゃなきゃ、ここで放り出されててもおかしくないし、そうなったら今度こそお陀仏だわ。


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