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馬車の悲劇とティールの家と

「「「「ぎゃあああああああああああああ!!!!」」」」

「おい、あんま騒ぐなよ。テンション高いのは分かるけどさ」

 ティールの馬車に乗り込んだ俺たちは、かなりの不安を胸にしてアルゼ村に無事着けることを祈った。

 うっぷ……出てはいけない物がまた……

「ちょ、ティール! もうちょい速度下げろ! 死ぬ!」

「えー? こんぐらいの方が気持ちいいし早く着くし、別にいいだろ」

 道にある小石が邪魔をして、馬車内がガタガタと揺れる。

 やめてもうホントにヤバいから死にますから。

「ピイィィィィィ!!!」

「ああピピ! ごめん! ホントごめん!」

 恐怖のあまり、ピピを座席に押し潰してしまっていた。

 俺は慌ててピピを避難させると、這い上がって来たヤツと格闘を始める。

「きゃああああああああ! 京夜さんんん!」

 ライアが俺の腕に抱き着いてきた。一時休戦! 俺の心臓は……もうこれぐらいじゃ高鳴らない。

 その拍子に柔らかい物が……って、おっと失礼、なんでもないです。紳士ですからね、俺は。

 というかなんでコイツらはピンチの時抱き着いてくるんだろう。そういう傾向にあるのだろうか。

「ぎゃああああああ! ……グフッ」

「ああああ!? きょーや!?」

 俺は揺れた衝撃で思いっきり天井に後頭部をぶつけた。

 もういっそこのまま意識途絶えればいいのに。そして起きたら天国……っていや、それはダメだ。

 あ……呼吸が……。ホントに死ぬかも、コレ。

「きょ、きょーや! 大丈夫!?」

「……ああ。大丈夫大丈夫。……あれ、でもおかしいな」

「……? どうしたの?」

「いや、なんか知らないけどでっかい川が見えるんだよ。……あれは……人かな? 手ェ振ってるわ」

「きょーや! それは絶対に行っちゃダメ! 戻って来てええええ!!」

 アークにガクンガクンと体を揺さぶられ、俺はなんとか意識を戻すことに成功した。

 あ、危ねえ。死にかけたわ。

 うっ……死にかけたと思ったら今度は再びヤツが……

「ティール。速度落として……私も気持ち悪い……」

「えー? ……まあアークちゃんがそう言うならいっか! ちょっと待ってろ!」

 もう意味分かんねえよコイツ。女の子の意見なら承服するって最悪の男じゃねえか。

 そう思いながらも、落ちてきた速度に少しづつ俺は安心感を取り戻した。

「ふう……それにしてもティール。お前毎回こんな速度で走らせてんのか? いつか死ぬぞ?」

「大丈夫だって。俺のコントロール力舐めんなよ?」

 そう言ってティールは、ムキムキの右腕を俺に見せつけてきた。

 ……いや、馬車のコントロールに筋力の有無は関係ありませんから。誰でも普通に出来ますから。

 そう思いながら、俺はまだ遠い場所にある村の明かりを見た。

「ティール。村まではどのくらいで着く?」

「んー? 知らんけど、10分くらいじゃね? まあそれまで休んでろよ」

 ティールが前の席から顔を出しながら言った。

 コイツの返答には信じがたい部分もあるが、まあ今はお言葉に甘えて休ませてもらうとしよう。


 俺はゆっくりと目を瞑ると、今度は死にかけないようにする、と心がけるのだった。


 


「よし、着いたぜ。降りろ」

 ティールに起こされ、俺たちはゆっくりと馬車を降りた。

 寝起きのせいもあってか、頭がかなり痛い。もちろん、さっき天井に後頭部をぶつけたせいでもあるんだけど。

 そしてゲr……おっと失礼。もうこの単語は言わないと決めていたんだった。

 ゲ……いや、ゲロゲロガエル(優しい、ソフトな表現)との戦いは無事幕を閉じた。終盤の方がちょっと危なかったけど。

 まあ、取りあえずそれはさておき。宿はどうしよう。

「京夜、お前野宿って言ってたってことは宿取ってないんだろ?」

「いいタイミングで訊いてくるな。そりゃあ当然、宿なんか取ってない」

「自慢そうに言えることなのか……?」

 うん、一つも自慢になってないよね。分かってる、分かってるから。

 俺は時に開き直ることも大切だと、この時改めて学んだよ。

「でだ。お前ら宿取ってないんなら……俺たちの家来たらどうだ? それなりに広いから窮屈ではないと思うんだけど」

「「「「は?」」」」

 俺たち4人分の声が重なった。

 肩に乗っているピピまでもが不思議そうに首を傾げている。

「え、ティールさん家持ってたんですか?」

「ああ。俺らは基本、この村で生活してるんだぜ? でも前まではクエストの依頼が街の方が多かったから、馬車で街まで行ってたってワケだ。最近はまた魔物モンスターとかも現れて、忙しくなってきてるけどな」

「へえ……」

 ライアは意外そうな表情で、ティールを見ている。

 俺も正直驚いた。コイツがアルゼ村に住んでいたとはな。

 道理で最近、街で見なかったワケだ。

「まあ、続きは俺の家でしようぜ。今は、ガーブとピューラも俺ん家来てるからさ」

 へえ、アイツらもティールの家に来てるのか。でもなんで?

 ガーブはともかく、ピューラは大丈夫なんだろうか。一応女の子なんだから、筋肉質の男の家なんかに居ない方がいいのでは?

 ……いや、俺が言うと嫉妬に聞こえちゃうかもしれないんだけどさ。


 俺はまだ少し痛む頭を押さえながら、ティールへとついて行った。

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