ティールの変態フラグ
「よし、着いたぜ。おーいガーブ! 開けてくれ!」
結構ちゃんとした感じの家のドアを、ティールはドンドンと荒々しく叩いた。
いつかコイツの腕力でドアが壊れてしまわないか心配だ。もう少し優しく扱ってあげたほうがいいと思うのだが。
「ティール、やっと帰って来たか……ってアレ? 京夜じゃないか。それに、みんなも」
ドアから、忘れることもないフェミニスト男ガーブが顔を出して言った。
うん、相変わらずのイケメンだな。バタークリームをお前の顔面にぶちまけたいよ。
……はい、嫉妬です。何か問題でも? ……羨ましいよチクショウ。
「ああ、コイツらは俺が馬車の練習してたら見かけてな。なぜかは知らんが、この村に用事があって来たらしい」
「へー、そうなのか……まあ取りあえず入りなよ。夜ももう遅いし」
優しい笑みでガーブは俺たちを家の中へ案内してくれた。まあ、今回だけは感謝するとしよう。
俺が腕時計を見ると、時刻は9時過ぎとなっている。今頃草むらにいたら、モンスターに襲われてたんだろうか。
「あれ、京夜さん。こんな時間にどうしたんですか?」
洋風な感じのリビングに入ると、ピューラが本から顔を上げて不思議そうに訊ねてきた。
うおっ、スゲエ! この部屋暖炉がある! 始めて見たわ。
パチパチと燃える薪の音を聞きながら、俺はピューラに説明する。
「いや、この村に用があって来たんだけど、止まる場所が見つからなくてさ。だからこの家に泊まらせてもらうことになったんだけど……いいかな?」
「ええ、私は別に構いませんが。でもいいんですか? この家にはムキムキティールだって居るんですよ?」
「おい、それはどういう意味だ」
歩み寄ってくるティールに、ピューラは近くにあった雑誌を投げた。
ベシッという音と共に、その雑誌はティールの顔面へとヒットする。
「痛てて……それにしてもお前ら。そろそろなんで村に来たのか教えてくれないか?」
「……分かったよ。でもその前に、シャワー貸してくれないか? 草まみれで気持ち悪い」
「ああ、分かった。じゃあ先に風呂に……はっ!」
ティールは何かに気付いた様子を見せると、こそこそと俺に耳打ちをしてきた。
なんだ、と思い落ち着いてその内容を聞くと。
「なあ、風呂覗かない?」
「お前のことだから言うと思ったよ」
やっぱりそうか。大体の予想はついていたけど。
誘いは嬉しいけど……でも。
「俺は行かない。疲れてるし、俺は変態じゃないんだ。お前1人で言って来い」
「えー、お前は変態じゃないのかよ」
「逆に変態と思ってたのかよ……ああもう最悪……」
これ以上変態の汚名をかぶりたくない。ここで除いたことがバレたら……やめよう、想像しただけで震えてくるわ。
とにかく、絶対に俺は行かない。
「つーか、風呂に3人同時なんて入れるのかよ。まさか1人1人覗いていくつもりか?」
「心配無用。風呂ならかなり広い。温泉にある外風呂並みの大きさだな」
「マジか、すげーじゃん」
心配する必要もないんだけどな。
てか、コイツの「なんとかなるでしょ」感には、不安さえも思えてくる。いや、「ノープラン」の俺たちが言うのもなんだけど。
……つーか俺たちも自分たちの家作ったほうが楽だと思うんだよね。いちいち宿捜すのめんどくさいし。
金貯めて、4人住める程度の家でも作れたらいいんだけど。
「まあ、お前1人で頑張って来いよ。覗きと言う名の変態行為をな」
「ふっ……俺はもう変態だ。なんと言われようが構わないぜ……」
そう言ってティールは、3人に「風呂全員同時に入れるよ」の説明を始めた。
もういいや。アイツはすべての責任を背負った上で行動しようとしてるんだから、たとえ失敗しようが俺には関係ない。
今からでも、変態と罵られるティールの姿が想像できる。
俺は必死に説得するティールを見ながら、「バカ」の一文字を思い浮かべていた。




