英雄と蝶
「太古の昔、人々を襲ったのは残虐非道の魔神“モルモー”を筆頭とする魔物たちでした。そんなモルモーを討伐する者として白羽の矢が立ったのが、我らがマクロヴァです。マクロヴァは強い仲間と出会い、冒険して、たくさんの力を得ました。
そして、その力を以てモルモーに挑むとき!
もうどちらが倒れてもおかしくないような死闘の末に、遂にモルモーを討伐します!
そしてその直後、英雄となったマクロヴァの下に神よりお告げが降りました。
“アンブロシアという北の楽園に、褒美を用意した。そこに成る果実を食らうが良い。”
そうして始まったアンブロシアを目指す旅。道中、大蛇やキメラなどにでくわしても関係ない!何故ならマクロヴァだから!!
長い長い旅の末、マクロヴァは遂にアンブロシアに辿り着きました。
マクロヴァが迷いなく果実を齧ると、彼の体は一瞬光り輝き、なんと!
不老不死になったのです!
その後、神によって天界に召され、武神となるまでの五万年間。英雄マクロヴァは多くの善徳を積み、最期まで強く気高く美しかったと言われています。」
粗末な布団の上で一人の男が本を閉じた。
男の視線の先には、天使のように目を輝かせる少年の姿があった。少年は、この“太古の英雄譚”が大の好物で、男が少年にこの本を読んでやった回数は一年の日数を遥かに凌駕する。この数は閏年にしても変わる事は無かった。
そんなマクロヴァに憧れを抱く、天使のような少年の名は、プシュケ。男の息子である。
「うわぁ〜!凄いねっ!凄いね父さん。やっぱり俺、マクロヴァみたいになりたい。なって、“ふろーふし”になるんだ!」
プシュケは小さな拳を握り締めて、父親の方に顔をズイっと寄せる。
「プシュケ、マクロヴァみたいになりたいのなら先ずは剣術と武術の達人にならなきゃだぞ!それに、不老不死のアンブロシアは伝説の場所だから、無いんじゃないかな。」
父は、冗談だろうと軽く促した。
「あるもん!“あんぶろしあ”も、“ふろーふし”も、ぜーんぶあるんだからぁ!」
プシュケは本気だった。けれど、子供の言う事だと受け取られれば、もう本気でこの気持ちを受け止めてくれる人は現れない。父だってその内の一人だ。
頬を膨らませて鼻息を荒くするプシュケを軽くあしらうと、慣れた手付きで寝かしつける。
「父さん、俺の名前ね、ちょうちょって意味でしょ?」
「ああ、おまえには自由な子に育ってほしいって、母さんと2人で考えたんだよ。それがどうしたんだ?」
「うん。だからね、俺、大きくなったら“あんぶろしあ”を探す旅に出るんだ。」
プシュケは虚ろとした意識の中で、そんな言葉を発した。
真夏の涼しい夜、プシュケはアンブロシアの夢を見た。
その寝顔もまた、天使のようであった。




