21話
五月も終わりが近付いて来た週末のこと。私達はとあるイベントに参加していた……。広大な農業公園の『やさい畑』エリアで息を大きく吸い込み……
「たーまねぎーっ!!」
お腹の底から思いっきり叫ぶ!
「おめでとうございまーす、97ホーンでーす! 玉ねぎ二個プレゼントです」
私の渾身の叫び声の大きさは基準値を超え……そして、無事にずっしりと身が詰まった、大きな玉ねぎを二つゲットした。
そう、私達サークルメンバー全員で親交を深めるために遊びに来ているのは、学校の近くにある地元の農業公園。そこで、この時期に毎年開催されているたまねぎ大運動会……またの名を、オニオンピックである。
大声で叫びストレス発散しながら玉ねぎを貰い、意気揚々とみんなと合流する。
「はい、お疲れ様」
ジュースを渡してくれる凛ちゃんに、
「本田先輩、素晴らしい叫び声でした」
褒めてくれたのかよくわからない朝比奈さん。
「何だ? この競技……なにこれ?」
私よりも先に挑戦して獲得していた、玉ねぎが入った袋を片手に何故か困惑している高橋くん。そして、
「本田先輩、これ美味しいですよー」
イベントそっちのけで近くのいちごハウスで収穫体験をしてきたらしく、摘みたてのいちごを頬張る小春ちゃん。更には小川先輩をはじめ、カピバラやコアラ等の動物を見に行った他の人達……実に自由だ。
次はたまねぎ射的ゲームに挑戦する。無料で参加できる、コルク銃を使ってたまねぎ型の的を落とすゲームだ。一回3発、3発すべて命中なら玉ねぎが2個、1発でも当たれば1個、全外しならゼロというものだ。地元の人間たるもの失敗は許されない……全神経を集中し、引き金に指をかける。
だが……放たれたコルクは見事に的の横を通り抜け、私の挑戦は1発目から終わってしまった。動揺からか2発目、3発目もたまねぎの的の上を通り抜け、私は何一つ得ることができなかった……。
「おめでとうございます! こちら、玉ねぎ二個でーす」
その声に反応して横を見ると、隣では高橋くんが見事に賞品を獲得していた。すでに持っている袋の中へと新たに玉ねぎを二つ放り込み、右手にぶら下げる。
「高橋くんおめでとう! やるじゃない……」
「ありがとうございます。オレ、こういうの昔から得意なんですよね」
高橋くんは少し自慢げにはにかみながら、鼻の下を空いた手で擦る。
「でも、勝負はまだ終わってないからね! あそこの、超! たまねぎ釣りで勝負よ!」
「……えっ、これって勝負だったんですか!? というか、たまねぎ釣りって……うわぁ、本当に釣り竿で釣ってるし……」
フックが付いた玉ねぎのおもちゃをおもちゃの釣り竿で釣り上げるというシンプルなゲーム。1個か2個釣れた場合は玉ねぎを1個、3個以上釣れると2個貰えるというものだ。これで高橋くんに、釣れたたまねぎの数で勝負を挑む!
しかし、必死に竿をふるうもののなかなか玉ねぎは引っかからない……勝負の結果は高橋くんの7個に対して私が3個。見事にぼろ負けしてしまった。ちなみに、凛ちゃんは9個も釣りあげていて、圧倒的な力の差を見せつけていた。なお、釣り上げた数にかかる賞品としては、全員玉ねぎを2個ずつもらえるという結果だった。
「まーけたー!」
「あはは……でも、なんでオレと勝負なんかを?」
「だって、こういうイベントは全力でした方が楽しいでしょう?」
中途半端に参加しても、恥ずかしいだけで面白くないのがこういうイベントだと思うのだ。そういうことを伝えると、高橋くんはきょとんとしていた。
「いやー……オレ、そんなことは考えたこともなかったですね」
「そっか……。あ、朝比奈さんはゲームに参加しないの?」
先ほどから見物だけしているみたいで、少し気になっていたので質問をする。
「いえ、私は結構です。先ほど宝箱を見つけて玉ねぎ3キロ貰えるのが確定していますので、これ以上貰っても困ります」
それは隠された宝箱を見つけ出すと、大量の玉ねぎをもらえるというものであった。どうやら真の勝者は気づかない間に、すぐ近くに存在していたようだ。
「あと、私の主な目的は昼過ぎから始まる、ローストビーフの無料配布です。これだけは……絶対に譲れません」
朝比奈さんが眼鏡を人差し指で押し上げながら決意表明をする。……なんだか私が思っていたよりも、小春ちゃんと仲良くなれそうな性格のようだった。現に、小春ちゃんもそれを聞いて、何故か腕を組みながら頷いている。
「えっと……それなら、配布開始までは結構時間が空いてるけど、どうするの? 何もなかったら、コアラとか見に行こうか」
「……そうですね。いいと思います」
「よーし、じゃあみんなー! コアラを見に行くよー!」
少し離れた場所でストラックアウトをしていた凛ちゃんとそこにいた高橋くんを呼んで、動物を見に行くことにした。コアラの場所までは結構な距離を歩くため、のんびりとお互いのことを話しながら向かう。
「へー、本田先輩はお父さんもお祖父さんも酒造りをしている家庭なんですね」
「うん、それでお祖父ちゃんが命がけで遺したお酒が凄いお酒だったみたいなんだけど、なんで自分の命よりも優先して守ったのか不思議でね? 私もお酒を造ったら、お祖父ちゃんの想いがわかるかなって思って、この学校を選んだんだよね。家から近かったっていうのもあるけどねー」
「そうなのですか……どんな感じで遺されていたのですか?」
朝比奈さんから質問されたので、当時のことを説明する。祖父は孫が生まれた時のためにお酒を用意していたこと。しかし、私が産まれる前に地震で家が崩れてなくなったこと。そして、ずっと後になって……山の中で重機が入れない場所にある家の瓦礫を、父とその友人たちで片付けていた時……地震で失われたと思っていたそのお酒が私の目の前で発見された時のことを。
「……とまあ、そんな事があったわけですよ」
「遥は小学生の時にこんな体験しちゃったからね。その時からお酒にはうるさいのよね」
「凛ちゃん……その言い方ひどくない? それだと、まるで昔からお酒飲んでるみたいじゃない」
「ごめんごめん。でも、そんな時からお祖父ちゃんのお酒がーって聞かされ続けた、私の立場にもなってみてよ」
「うっ……ごめんなさい……」
「うん、許す!」
凛ちゃんと、歩きながらくすくすと笑い合う。
「先輩方、凄く仲が良いですね」
「この二人、今はこんなのですけど、半年ぐらい前は口も利かないぐらいに仲違いしてたんですよー?」
朝比奈さんの一言に、小春ちゃんが余計なことを言ってしまう。
「へえ、そうは見えないですね」
「でも、実はそうなのです。あの時は本田先輩がとってもかわいくてもごっ!」
これ以上小春ちゃんに余計なことを言わせないように、ポケットに忍ばせていた対小春ちゃん専用棒付きキャンディの包装紙を剥ぎ取り、すかさず小春ちゃんの口へと突っ込む!
高橋くんとの距離が少し離れた気がするが、多分気のせいだろう。
「話は戻すけど、お祖父ちゃんがそこまでして守ったお酒だからねー。どんな想いで守ったのかな? って気になっちゃった訳ですよ」
「なるほど……でも、それって実際はどうだったのかはわかりませんよね?」
「まあ、そうなんだけどね……多分私は、自分自身が納得出来るような答えが欲しいだけなんだと思うの」
父や石田教授から、人から答えを聞いても意味が無い。自分自身で答えを出す必要があると言われてからしばらく考えていた。
きっと、二人が言っていたのはこういう事だったのだろうと思う。
「だからこそ、一度だけでもいい。お祖父ちゃんと同じ方法でお酒を造ってみたいの……っていうのが、今の私の酒造りへの動機かな……。ちょっと格好つけ過ぎかな?」
言っていて恥ずかしくなってきて、歩きながら後頭部をポリポリと掻く。
「いえ、私は格好良いと思いますよ。では、私の番ですね」
朝比奈さんが話しはじめる。
「……この学校を選んだ理由は、食品機能開発化学分野の勉強のためですね。そのために、恥ずかしながら大学院の方を目指しております」
そして、朝比奈さんがちらりと高橋くんを見る。
「オレは……その……。別に、そんな深い意味とかなくって、高校の時に園芸部だったってだけで……何かをしたかったとかそんなんじゃなくて……」
少し俯き加減に話す高橋くん。
「そっか……園芸部だったんだね。じゃあさっき移動中に、バラ園があったのは見たの?」
「えっ、いや見てないですね」
「なら、後で戻った時に見よっか。今の時期の満開のバラは、一見の価値ありだからね!」
「……はい、ありがとうございます!」
そして、彼は真っ直ぐに前を見て歩き出す。私も少しは、先輩らしいことが出来たのだろう。この後すぐに小川先輩、松岡先輩、吉田くんの三人と合流できてマーモットなどをぶらぶらと見て回り、昼食は軽くハンバーガーを食べた。
それからローストビーフの配布も無事に受け取ることができて、大量の玉ねぎを持って帰ることとなる。
一日中遊び、気力はたっぷりと補充した。こうして、私は再来週からの一週間……田んぼの手伝いの短期インターンへの活力を得たのでした。
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