13(本編完結)
冬が終わり、春がきた。あっという間に季節は巡って、また夏がやってくる。
私とステラは、2人揃ってセレーネの墓へ訪れていた。
週に一度とまではいかなかったが、セレーネの墓参りは欠かさず行っていた。けれど2人揃ってセレーネの墓参りをするのは、これが初めてのことだった。
花を供えて、その場にしゃがんで墓石を撫でる。陽の光を浴びた墓石はほんのり暖かかった。
「……セレーネ、今日は報告があってここにきたんだ」
ステラは、私の一歩後ろで立っている。
私は墓石に刻まれたセレーネの名前をなぞる。これから話すことは、セレーネを傷付けるかもしれない。でも、言わなければならなかった。一度大きく深呼吸をして、セレーネにそっと囁きかける。
「——ステラとの間に子どもができたんだ」
あの夜をきっかけに、私とステラは婚姻関係を継続していた。
夫婦として睦み合うことも次第に増え、とうとうステラは私の子を身籠った。その報告のために、2人で墓に足を運んだのだ。
「まだ誰にも話していない。知っているのは、私と、妊娠の診断を下した医師だけだ。……まずは君に報告しなければと思ったんだ」
生温い風が頬を撫でる。じりじり肌を焼くような暑い夏。セレーネが死んだのも、こんな季節だった。
「……、……セレーネ、君は私を憎んでいるか?」
墓石はなにも言わない。
「君を差し置いて、新しい妻と子を成した私を恨めしく思うか?」
墓石は、セレーネは、なにも言わない。
ただ静かに、そこに佇んでいるだけだ。
「……セレーネ。君は、私を憎んでいるかもしれない。恨んでいるかもしれない。けれど私は今、確かに幸せなんだよ」
ざぁ、と強く風が吹いた。その拍子に木々から葉が舞い散り、あたりに降らしていく。
「……セレーネ。忙しくなるだろうから、しばらくここには来れないかもしれない。でも次に来るときは、花をたくさん持ってくる。だからどうか、許してはくれないか」
墓石はなにも言わない。突然墓石が喋り出すとか、死人の声が聞こえるようになるとか、セレーネの意思を確認できるようになるとか、そんな都合の良いことは起こらない。だから最後にもう一度だけ墓石を撫でて、立ち上がった。
「また来るよ、セレーネ」
挨拶を交わして振り向けば、ステラと目が合った。身重の体を労わりたくて、ステラの腰を抱き、ゆっくりと歩き出す。
「両家の親にも報告しなければいけませんね」
「……あぁ。セレーネが亡くなって、長いこと心配をかけてしまったからな」
「きっとお喜びになられます」
「そうだと良いんだが」
季節は夏。また今年も月下美人の花が咲きそうですよ、とラルフが報告しに来てくれた。ふとステラの方を見ると、ステラも私の方を見つめていた。2人で笑い合って、ゆっくりと、歩いていく。
あぁ、幸せだな、と、確かにそう思った。




