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殲滅とか猛毒と呼ばないで~ホントにわたしデバフ聖女なんですか?~  作者: 爆微風


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第六話 奇跡の手を撫でて



 宣告式典とは、聖女となった女性を国の庇護下とする宣告である。

 民へ広く伝えるための催事であり、手順がカッチリと決まっていた。


 なので進行についてはイヤーカフの形をした受信魔道具にてアルクスから指示され、どうすればいいのかを高齢なメイド長に誘導してもらった。


 お陰でラスティはとんでもない失敗もなく、陰口を聞きつつも無表情に『祝福』を得るコトができた。


 王がおもむろに杖を天に掲げ、ラスティの頭上に翳す。

 何かを唱えるコトもなく、ソレは起きた。



 《チカチカッ》

 《ッパァアァアァ……!》



 瞬間、ラスティの背中を光が照らし、手を組んで祈る彼女の腕自体がきらきらと光っていく。



「うぉ……!」

「コレぞ聖なる(ひかり)……!」

「わあ……」

「有難い、有難いぃ……!」



 ラスティは、生まれて初めて『聖なるモノ』というものを体感した。

 組み合わせていた手のひらは、自分の身体であるのにまるで触れている感覚がない。

 背中が、腕が、熱を帯びていく。


 ただ痛みを伴うような破壊的な熱量はない、何者も(いや)していく、(いつく)しみの具現化。

 それが『白い光』として現れた。


 わあっと湧き上がる歓声。

 式典ではしばしばこういった『余波』があるという。

 奇跡と人々が口にするほどの癒しの波が、無差別に古傷や病を治すのである。



「さすが聖女様……!」

「さすせい!」

「四十肩が治った!」

「近くが見える……!」

「おお、膝が痛くない!」

「肩がほぐれた!」



 口々に聖女への賛辞を呟く聴衆、そのさざ波の中、ラスティは気になってチラリとそちらを見た。

 誰も彼も傷が治るなら、アルクスの顔の『(きずあと)』も治って欲しかった。


 しかし、何度見ても、彼の顔は、そのままだった。



 ☆



 式典は謁見の広間だけではなく、簡略化されたモノを民衆の前でしなくてはならない。

 その多くは先に王城であったような『余波』を信じ(いた)みをおして会場へと訪れている。

 病人のひしめくその場を見て、ラスティもハッキリ理解した。


 この世界の医療水準の『低さ』を。



「わたしの知っている『回復の魔法』は空想の中のモノだ。お伽噺(とぎばなし)のような、失った腕を戻すほどの魔法なんてないんだ……」



 だから、小さな不調を回復させる治療が『奇跡』と呼ばれた。

 彼女が学んできた学問の中に医療政策などは含まれていなかった。

 能力が開花してからは『毒』についてばかり見ていて、肝心な『防疫』については前世(かこ)の知識に頼っていた。

 それをちゃんと理解していなかった。


 呆然と『奇跡の手』を撫でてみる。


 涙を流し感謝する民衆に、もっと与えられるハズなのに、というやるせなさが募った。



 『聖女様の奇跡』により復調した人々の喧騒を背中に、そしてその背には聖女の印がある。

 新たに誕生した聖女に、世界は何を負わせるのだろうか。



 ☆



 物語は王城の宣告式典の後へと戻ります。



 先程までガッチガチに緊張していたラスティは、ソファーに仰向けに寝て、自前で用意していた『燻製キノコ』をかじっていた。



「はぁう、旨味を感じると脳内ではセロトニン、甘味を感じるとオキシトシンが微量ながら出るから……」



 前世知識を復唱するのはある意味『自己暗示』である。

 セロトニンで感情抑制、痛覚無視という『安心感』を得ようとし、オキシトシンで『幸福感』を得ようとしていた。


 そういう与えられた知識は、この世界でも毒を主とする研究をするのに役立っている。

 しかしどうしても陰キャ行動に走るし、後ろ向き思想は止まらない。

 それはかつての影響が滲み出ている。


 ラスティは『聖女』になる前に『オタク』という(ごう)を帯びていたから。



 《コンコンコン》


『入ってもいいかい?』


「はもあぶ、え、あはい!?」



 王は宣言通りに一時間で式典を終わらせてくれた。

 聖なる衣装はすでに脱いで、しかし王室御用達(ゴージャス)なドレスを着せられていた。

 ここは迎賓室、ラスティのために用意された『寄進(プレゼント)』に半分埋もれているが、しばらくはこの部屋が彼女の生活拠点となる。


 そんな場所で少し気を抜いていたのだが、彼女は男性の免疫が皆無である。

 いや、過去の幼いアルクス相手ならまだ良かった。

 ほとんどの秘密を共有していたのだから。


 しかし今は、見慣れない『大人』の彼は、消極的に過ぎるラスティの警戒心を刺激した。

 少なくとも好きな異性ではあったのに。



「失礼するよ」



 分厚い身体の男性は、ラスティの視線を受け止め遠慮がちにソファへ歩みよった。

 もちろんアルクスである。

 しかし式典のための正装は解いて、通常の士官と同じ宮仕の服装だ。



 (改めて見ても過去の彼と結びつけられるモノが少ない。というより、なにこの筋肉質な……!?)



 好き嫌いでいえばマッチョな男性のが好ましいが、しかし目の前にすると王とは別ベクトルの圧がある。

 そしてラスティは恋愛方面の知識がなく、男女関係は不得手、苦手に思っていた。


 男性以前に会話も苦手としているのであるが。



「久しぶり、だよね。君が十歳の頃から付き合いがあったけれど、あの事件(・・・・)で婚約が破談となってしまって……」



 そして実は王子も口が上手いとは言えなかった。

 今でこそ役割の言葉をハキハキ言うのは叶ったが、思いを込めた会話などまで上達していない。


 だからこその『共感』だったし、ラスティを傍に置いてじっくりと内容を噛み締めるお茶会が楽しかった。



「あっ、あっの、座って。今までのコト、話そう」


「うん。僕も話したい」


「わたし、アルクスが大きな怪我をしたって聞いたけど、そのあとずっと、ずうっとお茶会にも来れなくなったから、その、自分の能力を試したり研究するのに没頭して……」


「うん。会えなくて、僕も、さみしかったよ」



 ……こうして、第二王子アルクスと懐かしい『お茶会』が始まった。






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