26.おおっと、二階級特進だ。
気絶するまで激しい運動を楽しんだ昨晩がたたって、俺はヘロヘロになりながら〈隠れ家〉から出た。
反対にベルナベルは上機嫌だ。
ふたりで食堂で朝食を食べて、部屋に戻ったら〈新聞閲覧〉しつつ〈匿名掲示板〉の管理だ。
ベルナベルが背中にくっついて新聞を読んでいる。
退屈な時間を少しでも有意義に過ごそうとしているらしい。
「昨日の出来事をアカシックレコードから拾ってきておるのかのう。興味深い魔法じゃ」
いや、新聞を読んでいるのではなく、俺の〈新聞閲覧〉を解析しているらしかった。
アカシックレコードとは壮大だな。
俺の〈新聞閲覧〉はなかなかに凄いスキルらしいぞ。
新聞の三面記事にベルナベルがサンダーバードの群れを瞬殺したことが書かれていた。
記事の選出基準はよく分からないが、大層な事件あつかいらしい。
おっと、そういえば〈アイテムボックス〉のサンダーバード、冒険者ギルドに納品しなければ。
「よし。スレ建ても終わったし、今日はまず冒険者ギルドに行こう」
「うん? 森ではないのか?」
「サンダーバード討伐依頼をちゃんと終わらせてからだな」
「そういえば依頼として受注したんじゃったな。面倒なことをした」
俺は〈隠れ家〉のベッドに横たわり、〈代理人〉を起動する。
ちなみにここのベッドの汚れはベルナベルの〈水:浄化〉で清潔にされていたので快適だ。
冒険者ギルドは今日も閑散としていた。
朝一番に来ない俺たちが特殊なのだろう。
依頼掲示板はスカスカだ。
カウンターの職員に「サンダーバード討伐の依頼を完遂した」と伝えると、俺の冒険者タグを見て大げさに驚いた。
「え、鉄ランクですよね? サンダーバードを……そうですか。解体場に出してもらえますか」
「分かりました。ちなみに解体場はどこでしょう?」
「冒険者ギルドの裏手です。案内しましょう」
この時間帯はカウンター業務が暇になるようで、案内してもらえることになった。
解体場ではやはり暇そうにしている職人がいた。
夕方くらいになると、獲物が大量に持ち込まれるのだそうだが、この時間帯は暇らしい。
「サンダーバードぉ? おいおい鉄ランクが挑んじゃ駄目だろう。依頼に制限はなかったのか?」
「塩漬け依頼になっておりましたので……」
職員が職人に言いづらそうにしている。
それを横目に、俺は〈アイテムボックス〉からサンダーバードを取り出した。
「ほう! 本当にサンダーバードだな。よく倒し――」
俺は続いて二羽目のサンダーバードを取り出した。
「ちょ、一羽だけじゃないのか!?」
「ええ。全部で六羽いまして」
「六羽ぁ!?」
職人の声がひっくり返る。
職員も唖然としていた。
「ちょ、ちょっとギルドマスターに報告に行ってきます!! コウセイさんはそこでお待ち下さい!!」
「え? ああはい」
よく考えなくてもベルナベルの戦闘力は異常なので、サンダーバード戦果六羽は異常事態なのだろう。
電撃を纏ったデカい鳥が六羽、高速で突っ込んでくるわけだから普通なら死人が出ているはずだ。
全部狩るということは、かなりの腕前が要求されるに違いない。
職員を連れた山人族が走ってやって来た。
「俺は冒険者ギルドマスターのギュスタンだ。お前か、サンダーバードを六羽も狩ってきた鉄ランクってのは?」
「そうです。鉄ランク冒険者のコウセイといいます。こっちは俺が召喚したベルナベル。彼女がサンダーバードを倒した張本人です」
「召喚魔術か。えれえ別嬪だが……悪魔系か?」
「そうです」
「ううむ、強力な悪魔と契約しているからこその成果というわけか。難しいが、鉄ランクのままにしておくのは無理だな。成果が大きすぎらぁ」
いきなり昇格か。
ベルナベルの強さを加味すれば、当然のことだろう。
「うーんしかし……ん? お前、魔術師ギルドにも登録しているのか? ちょっと見せてみろ」
「え? はい」
魔術師ギルドの登録タグを手にしたギュスタンは、目を見開き驚愕に打ち震えた。
「一級魔術師だぁ!? お前、一体何をしたんだ!?」
ああ、そういえばベルナベルがあまりにも強力すぎて一級魔術師として登録されていたんだった。
「俺の召喚したベルナベルが強すぎるということで、登録時に一級になりました」
「……てことはとんでもねえ強さの悪魔ってことかよ。魔術師ギルド……リリアレットのお墨付きじゃねえか」
ブツブツと何事か呟いた後、ギルドマスターのギュスタンは職員に向けて「コイツを今すぐに銀ランクに昇格させてやれ!!」と怒鳴った。
おおっと、二階級特進だ。
銅ランクをすっとばしてしまった。
職員は仰天しつつも、俺の冒険者タグを引き取って銀ランクへの昇格手続きをし始めた。
解体職人は「さすがに六羽はすぐに終わらない。明日、引き取りに来てくれ」と言った。
「解体費用を差し引いて現金でください」
「は? サンダーバードの素材はいらないのか?」
「いるか、ベルナベル?」
「ん? わしは不要じゃな。主が不要なら現金に変えるが良かろう」
解体職人とギルドマスターのギュスタンは「マジか……」とふたりして顔を見合わせた。
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