25.俺は散々に搾り取られた。
夕刻、森から〈隠れ家Ⅱ〉で宿の〈隠れ家〉に戻ってくる。
森にある〈隠れ家Ⅱ〉の扉をそのままにしておけば、明日もその場所からスタートできるという寸法だ。
〈代理人〉を解除した俺は、〈隠れ家〉を出て夕食までの時間に〈匿名掲示板〉の管理をすることにした。
沢山の書き込みをじっくり読みたいが、時間がない。
スレが一杯になりつつある攻略スレと雑談スレの次スレを建てておく。
ベルナベルは退屈そうに俺を眺めていた。
夕食後、俺はベルナベルに魔術の教えを乞うことにした。
「そうじゃな。まずは〈空間:防御〉から教えよう」
「よろしく頼む」
「呪文は『世界を仕切る壁。拒絶、隔絶。空間障壁』、これだけじゃな」
「ほうほう。召喚に比べて短いんだな、呪文」
「それはそうじゃ。儀式魔術と一緒にするでない。さあ使ってみせよ」
「よし。ええと……世界を仕切る壁。拒絶、隔絶。空間障壁!!」
四角い見えない壁が突き出した手のひらの先に生まれた感覚があった。
そうそう、こういうのがやりたかったんだよ!!
「小さい壁じゃのう。それでは攻撃を受けたときに怪我をするぞ? 壁を大きくするか、全身を囲うように形を変えるのが良いじゃろう」
「お? そうか。じゃあもう一回。――世界を仕切る壁。拒絶、隔絶。空間障壁!!」
今度は大きめの姿見くらいの四角い壁を作り出せた。
これで前方からの攻撃は防ぐことができるだろう。
「うむ、良かろう。次は〈時間:治癒〉の呪文じゃな」
「時間属性で治癒ってことは、怪我をしなかった時まで巻き戻すのか?」
「そういうことになるのう。便利じゃぞ」
いや、時間操作を便利の一言で済ませられるわけないじゃないか。
これは凄い魔法だぞ。
「ただ遡る時間が長ければそれだけ魔力を消費する。主の場合なら一日くらい遡ろうとすれば、全魔力を注ぎ込まなければなるまい」
「一日も遡れるのか。十分だろ」
「そうかもしれぬな。呪文は、『時間遡行。局所、ありし時に戻せ。肉体時間操作』じゃな」
「ふむふむ」
「ほれ、腕を出せ。小さく傷を作ってやるから試してみよ」
「う、自分の身体で実践するのか」
「なんじゃ。わしの身体に傷を付けたいか?」
「いや、女性の肌に傷なんてとんでもない。俺の腕で試すよ」
「それでこそわしの主じゃ」
俺は袖をまくって腕を出した。
シュン、とベルナベルの指が振られると、赤く血の滲む細い傷ができた。
「よし、行くぞ。――時間遡行。局所、ありし時に戻せ。肉体時間操作!!」
撒き戻るように赤い線が消える。
やった、成功だ。
「つい今しがたの傷じゃぞ。魔力を無駄に使いおって。もっと少ない魔力で傷は消せた。まあ良い、その感覚は一朝一夕では身につくまい。最後の〈創造:槍〉に行くぞ」
「創造属性ってのはよく分からないな。言葉の響きからすると、槍を作り出すのか?」
「うむ。槍ならどんなものでも作り出せるが、高性能なものほど要求される魔力が跳ね上がる。主にとっては貴重な攻撃系の魔術じゃ。よく修練すると良いぞ」
「槍を作り出して、振るうわけだろ? あんまり攻撃魔術って感じじゃないよなあ」
「創造属性を甘く見すぎじゃ。投擲時に追尾する効果を持たせて投げれば、必中の投槍をも作り出せるというのに」
「は? なんだそれ。そんなことができるのか?」
「できる。魔力をそれなりに食うがな。さて呪文じゃが……『我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍』じゃったかな。ほれ試してみよ」
「よし。――我は創造する。剣より長き刃もつもの。汝の名は槍!!」
両手に顕現したのは、柄が木の棒でできた槍だった。
穂先は鋼っぽいので、なんとか成功だろう。
「貧相な槍じゃのう。まあこれも練習しなければ効率良く作れぬからな」
「これってどのくらいで消えるんだ?」
「それなりに魔力を込めたからのう。完全に散るまで少しかかるじゃろ。というかそなた、折角〈魔力眼〉があるのじゃから、それで見てみればいいじゃろ」
「そうか」
〈魔力眼〉を使うと、槍から徐々に空気中に魔力が霧散していく様子が見て取れる。
この分だと三十分くらい消えるまでにかかりそうだ。
「ありがとうベルナベル。これでちょっと俺、自分に自信が持てたよ」
「ふむ? まあ主が戦えるようになったのは大きな一歩かもしれんな。さて良い時間じゃぞ。そろそろわし、汝の肌が恋しいのじゃが」
「あ、ああ。じゃあ〈隠れ家〉に行くか」
その夜、俺は散々に搾り取られた。
《名前 コウセイ 種族 人間族 性別 男 年齢 30
クラス 自宅警備員 レベル 19
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈忍び足〉〈性豪〉
〈闇:召喚〉〈空間:防御〉〈時間:治癒〉〈創造:槍〉〈通信販売〉
〈新聞閲覧〉〈隠れ家〉〈相場〉〈個人輸入〉〈匿名掲示板〉
〈魔力眼〉〈代理人〉〈隠れ家Ⅱ〉〈アイテムボックス〉
〈経験値5倍〉〈契約:ベルナベル〉》
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