第四十七話 武闘大会個人戦学園代表選抜最終日第一試合
************************
私は今保健室に来ていた。ロイドがジンに負けたから。
「どう気分は?」
「申し訳ありません。負けた上にこのような場所まで来ていただいて」
「このような場所とはどういう意味だい」
「い、いえ!お気になさらずに」
「ったく。火傷はそこまで酷くなかったけど今日一日は安静にしておくんだよ」
「はい」
アヴァ先生は口は悪いけど医師としての腕は確かなので先生、生徒から信頼されている。
「負けたことは気にしなくて良いわ。私たちは彼の実力を知ってるんだから」
「ですが、接近戦を封じてしまえば勝てると思っていた自分が愚かでした」
「でも、ジンがパチンコ玉で攻撃出来ることはルーベンハイトの訓練所で見たわよね?」
「確かにパチンコ玉で攻撃できることは訓練所で見て知っていましたが、動く標的を狙い撃ちできるほど射撃制度が高いとは思っていませんでした」
「貴方にしては浅い考えだったわね」
「申し訳ありません」
別に謝って欲しいわけじゃないんだけどね。
「自分にとって奴は倒さなければならない相手です。ここまで倒したいと思ったことはありません。きっとその気持ちが前のめりになり視野が狭くなっていたんだと思います」
「ライバルってやつかしら?」
「いえ、ライバルではありません。ライバルと言えるほど自分は奴ほど強くありませんし、奴が自分のことをライバルと思っているかも怪しいですから」
「………」
私には言い返す言葉が出てこなかった。でもそれを言うなら私だってジンにライバルとして見られているのかとても不安に感じる。
これまで最強として退屈していた人生が一転した。けどその相手は圧倒的力の持ち主だった。これほどの屈辱と悔しさを味わったことはない。良い気分でもない。だけど退屈な人生が終わったことが嬉しかった。
「一緒にジンを倒しましょ」
「必ず」
************************
「ジュリアス、お茶」
「まったく退院したばかりの人間を扱き使うとはな。お前には相手を労わる気持ちはないのか」
「撃たれて怪我した人間を平然と殴る人間に言われたくはない」
「うっ」
ようやくいつも通りになった俺たちの部屋。やっぱりジュリアスがいると落ち着くし楽だ。
「それにしても冒険科の中で三番目に強いロイド訓を倒すとは流石だな」
「真壁だってロイドに勝ってるだろ」
「あれとはレベルが違う。あの二人の勝負は接戦で結局判定でマカベ君が勝利を掴んだに過ぎない。それに対してお前は中距離による攻撃で倒した。それも相手のフィールドで勝負してだ。これは凄いことだぞ。魔力が無くてもジンは中距離攻撃が使えると言う事が判明したんだからな。ギルドからスカウトされやすくなったはずだ」
「目立つのは隙じゃないが、そう考えれば悪い事だらけじゃないな」
「それだけじゃない。このリーグ戦で未だに負けなしなのはイザベラ様とジンだけなんだ。明日の試合で1敗したとしても学園実力で二位という素晴らしい成績だ。間違いなく上位のギルドからスカウトされるだろう」
「まるで俺が明日負けるみたいな言い方だな」
「ジンには悪いがイザベラ様は別格だ。あの魔力量と六属性持ちは凄い。剣術や体術も上位の成績だと聞いている。流石のジンでも彼女に勝つのは無理だ」
そうか、ジュリアスは俺が一度イザベラに勝っている事を知らないんだったな。
「でも、そこまで言われたらますます負けられないな」
「な、何故だ」
「当たり前だろ。ルームメイトにお前はイザベラには勝てないって言われたんだ。これほど悔しいことはないからな」
「そ、それは……」
「ま、明日の試合を観客席からレオリオたちと見ていてくれ。必ず勝つからよ」
「分かった」
武闘大会個人戦学園代表選抜最終日。日付に直せば今日は6月22日金曜日だ。
今日の試合が終われば明日から二日は休日だ。
「思いっきり遊ぶぞ!」
「その前に試合に集中だ。馬鹿者」
「分かってるよ」
「このやり取りがないと一日が始まった気がしないな」
「本当だね」
「まったくです」
「うっ」
「おい、顔が赤いけどどうかしたのか?」
「なんでもない。それよりさっさと試合会場に向かえ馬鹿者!」
「ぅおっ!」
いきなり殴ろうとするなよ。理不尽にもほどがあるだろ。
「このまま全勝して優勝してこいよ!」
「上から応援してるからね」
「頑張ってきてください」
「おう、任せとけ!」
階段で分かれた俺は会場内の扉を開ける。すでにほかの選手は壇上前に整列していた。別に遅刻したわけじゃないぞ。もしも遅刻ならジュリアスが怒ってるはずだからな。ただあいつらが早いだけだ。
「能無しの癖に最後の登場かよ」
「今のところ全勝だから調子に乗ってるのよ」
「イザベラ様とオスカー様にボコボコにされれば良いのよ」
観客席から聞こえる愚痴。え?俺ってまだそんな印象なの。ロイドに勝ったから、アイツって本当は凄げぇんだな。ってなると思ってたのに。そんな反応なの。なんで?
「静粛に」
気がつけば壇上にスキン先生が立っていた。いつのまに。頭だけじゃなく気配まで薄いとは。
「今日は武闘大会個人戦学園代表選抜最終日だ。今日に限り三試合行うわけだが、体力配分を考えなければ一試合で終わる可能性だってある。そうなれば代表の座を落とすことになるやもしれない。代表に選ばれないからと言って手を抜くな。確実だからと油断するな。正々堂々と闘うこと。分かったな!」
スキン先生の熱い演説が終わると何故か学園長の爺さんが出てきた。
「教頭先生、素晴らしい挨拶をありがとう」
え!あのスキン先生って教頭先生だったの!なに、役職が偉いほど髪の毛の量が少ないわけなの。なら学園長のあの白髪はズラってことになるのか?私、気になります!
「軍務科生徒諸君、冒険科生徒諸君。残りの三試合を観客席から見させて貰おうと思う。君たちのこれまでの訓練の成果を発揮した試合が見られること期待している」
パチパチパチパチ。
え?今の拍手するの。あ、礼儀としか。なら、俺もしておこう。
「それでは五分後に第一試合を開始いたします。選手の皆さんは指定されたステージに移動してください」
えっと俺のステージはたしか第2ステージだったな。
《ジ~ン君》
悪意を感じるほどの気色悪い呼び方をするのはマイラだな。
《正解。でも私に対する態度が酷すぎるんじゃない。私はこんなに愛しているのに》
殺したいほどだろ。
《大正解》
ぜんぜん嬉しくねぇよ。
《あら、残念》
それより今から試合なんだ。話しかけてくるなよ。
《寂しいこと言うわね。そんなんじゃモテないわよ》
安心しろ。こんな事言うのはお前だけだから。
《つまりは私だけ特別扱いってわけね》
どんな思考回路してんだ、お前は。それよりお前らの相手は誰なんだ?
《貴方のお陰で不戦勝よ》
ジュリアスだったのか。
《ええ。彼女相手じゃレーネでは勝てないもの》
彼女って。お前ジュリアスの正体に気づいているのか?
《あら?その口調だとジンもなの?》
誰かに喋ってみろ。一生後悔させてやる。
《それは後悔させてくれるの。それは面白そうね》
ほう、良いんだな。
《それでどんな事してくれるの?》
鋼鉄の金庫に閉じ込めて地面に埋めてやる。勿論コンクリートで固めて誰にも取り出せないようにな。
《止めて》
随分と素直だな。
《私が悪かったわ……じゃあね》
お、おい。いったいなんだったんだ。でも正解だったな。アイツのこれまでの行動から考えて寂しいのが嫌いなタイプだと仮定して言ってみたがまさかあそこまで素直になるなんてな。でも何かありそうだな。ま、俺には関係ないけど。
おっとこんなところでつっ立て居る場合じゃなかった。
『武闘大会個人戦学園代表選抜最終日第一試合がまもなく始まります。第2ステージでは冒険科三年一組ライヤス・ユーラ選手対一撃無双の冒険科四年十一組オニガワラ・ジン選手の闘いが始まろうとしているぞ!』
『面白そうな組み合わせじゃないから別のステージの実況をしませんか?どうせ一撃で終わるでしょうし』
『アビゲイル先生!』
ミューラ先生も失礼だが、アビゲイル先生も相当だよな。あれで本当に教師になれたよな。親から苦情とかきそうなのに。
『ジン選手の全勝記録が更新されるか、はたまたライヤス選手が阻止するのか期待される一試合なんですよ!』
『でも戦績を見れば0勝8敗と8勝0敗ですよ。どう考えても結果は見えていると思うんですが』
『当たり前みたいな表情で言わないで下さい!申し訳ありませんが第2ステージの実況は難しそうなので今回は別のステージの実況を行いたいと思います。それじゃ!』
あ、完全に逃げた。
「大丈夫か?」
「自分は平気ッス!どんな試練であろうと乗り越えて見せます!綺麗な夕日を見るために!」
うん、その前に涙を拭こうな。出ないと夕日だけじゃなくて対戦相手の顔も見れないぞ。
「それではこれより武闘大会個人戦学園代表選抜最終日第一試合、冒険科三年一組ライヤス・ユーラ対冒険科四年十一組オニガワラ・ジン選手の試合を始める。両者準備は良いな?」
「はい!自分はいつでも大丈夫ッス!」
「ああ、良いぞ」
「試合……開始!」
アビゲイル先生にボロクソに言われて同情はするけど、勝負において俺は手加減はしない主義なんでな。遠慮なく倒させて貰うぞ!
いつも通り、これまで通りに相手の懐に入り込んだ俺は掌底を叩き込んだ。
「グハッ!」
え?
呆気なく吹っ飛んだライヤス。
「勝者、オニガワラ・ジン」
弱すぎないか?よくそれで代表に選ばれたな。
別の意味で予想外すぎだ。それとも優勝は出来ないから諦めたのか?ま、どちらにしても勝利したんだし、次の試合まで休憩しておこうっと。
「チッ」
《随分と酷い態度ね》
俺の特等席になんでお前が居るんだマイラ。
《あら、別にアナタの物ってわけじゃないでしょ》
それもそうか。
で、なんでこんな所にいるんだ。
《どうやらレーネがアナタに話があるみたいよ。本当なら私がもっと喋りたいのに》
「レーネ話ってなんだ?」
《ちょっと無視しないでよね》
「実は前から聞いてみたかったんです」
「何をだ?」
「どうすればそんなに強くなれるんですか!」
「俺はいつも楽しんでいる。それだけだ」
「楽しむですか?」
「そうだ。好きなことをすれば楽しいだろ?」
「はい」
「だから俺は楽しい事をするために頑張っただけさ」
「?」
ありゃ、分からないか。
《レーネは応用的な事が苦手なのよ。基本に忠実と言えば良いのかしら?》
生徒としては合格かもしれないが冒険者としては致命的じゃないのか?
《ええ、そうなのよ。だからアナタに聞いてるんでしょうね》
なるほど。ならスーパーティーチャーである俺に任せておきなさい。
《馬鹿な詐欺師みたいね》
なんだよ馬鹿な詐欺師って。
《人を騙そうとして逆に騙される詐欺師の事よ》
馬鹿だなそいつ。いや、今はそんな事よりもだ。
「レーネはどうして冒険者になったんだ?」
「私はある冒険者に憧れていて、それで……」
ジュリアスと一緒か。
《あら、そうなの。ジュリアスちゃんが憧れてる冒険者って誰なの?教えて》
断固拒否する。
《本当に意地悪ね》
今はお前の相手している暇はないんだよ。
「それなら、憧れている冒険者と同じギルドに入れるようにって思いながら頑張れば良いんじゃないのか?」
「でも、私なんかが同じギルドに入れるでしょうか?」
「入れる入れないじゃないくて、入った時の事を考えろ。自分にとって都合の良い事をな」
「都合のいい事ですか?」
「そうだ。で、その都合のいい事が叶うように頑張れば良いんだよ。分かったか?」
「はい」
「そうか」
「まったく理解できないって事が分かりました」
ガクッ!
彼女天然だろ。
《相当ね。この私ですら呆れさすほどよ》
そういう事は前もって言って貰いたかったよ。
《ごめんなさい》
この時、初めて俺とマイラが少し仲良くなった瞬間だった。天然って恐ろしいな。




