第四十八話 武闘大会個人戦学園代表選抜最終日第二試合 上
全ての第一試合が終わったのが11時4分。一時間もすればお昼休みだと思っていたら二試合目を12時からおこなうらしい。なんでそんなに時間を空けるのは少しでもフェアにするためだ。制限時間ギリギリまで闘っていた選手と早く終わった選手とでは体力の消耗が違うからな。仕方が無い。それだったら昼休憩してからでも良いじゃんか。って思ったけど。三試合も行うんだから時間は無駄にしたくないらしい。大人の都合ほど嫌なモノはないな。ほんと反吐がでる。え?中身は37歳の中年おっさんだろって。今は18歳の元気な青年なんだから良いんだよ。
なら、この暇な時間の間は何をするかって?それは勿論購買に行って昼食を買うんだよ。購買は朝の10時からパンとか売ってるから余裕で買える。と言う訳でレッツゴー!
時は流れて早くも第二試合。
購買で買った昼食も良い感じに消化され始めたころだろう。んで、俺の第二試合目の相手は今大会一番の強敵になるであろうイザベラだ。
『それでは今から武闘大会個人戦学園代表選抜最終日第二試合を行いたいと思うよ!興味深い組み合わせがいくつもあるけど、やっぱり誰もが気になるのはこの二人の対決だよね!まずはこの人の紹介から!現在の戦績9勝0敗。六属性持ちにして学園最強の女帝。紅炎の剣姫の異名を持つ、イザベラ・レイジュ・ルーベンハイト手選!』
「キャー!イザベラ様!」
「そんな能無しさっさと倒して!」
凄い歓声だな。やっぱり人気者って凄いな。真壁以上だぞこれ。
『そんな女帝と闘うは、戦績9勝0敗と全勝を続ける。今年度の唯一の編入生にして問題児。魔力無し、武器もなし、だけど強い!これまでの試合の大半を一撃無双で勝利してきたダークホース、オニガワラ・ジン選手!』
「負けろ!」
「さっさとやられてしまえ、能無し!」
「クズ!カス!」
俺って嫌われてるんだな。イザベラの時と大違いだ。まさに天と地、月とスッポン。雲泥の差の人気度だ。ま、認知度は負けてない気がするけど。マイナスだけど。
『凄い罵詈雑言です。そして今回の試合に限り特別ゲストとしてエレイン先生に来てもらいました』
『どうぞよろしくお願いします』
『アビゲイル先生とエレイン先生には軍務科、冒険科の代表として解説していただきます。それにしても凄いアウェーですね』
『学園一の人気者であるイザベラさんと闘うと言う事も原因の一つだと考えられますね』
『そうですね。ジン君は編入早々問題行動を起こしてますし、どんなどんな時でもあの態度ですからどうして良いイメージでは見られませんね』
「学園から消えろ!」
「実家に帰れ!」
「学園の恥!」
止めて!僕ちゃんのHPはもう0よ!
ま、そんなふざけた事をしている場合じゃないけど。
観客席から聞こえる二種類の応援。イザベラに対する応援と俺に対する罵詈雑言。人の本心が聞こえてくる。
「ジンは余裕なのね」
そんなアウェー状態の時に話しかけてくる。
「俺はいつも通りなだけだ」
「それが余裕って言ってるのよ」
あれ怒ってる。別に怒らせるつもりはなかったんだが、悪いことをしたかな。
「ならイザベラは何してたんだ?」
「軽く水分補給したりストレッチしたりよ。私はアナタと違って余裕がないのよ」
「何で俺は皮肉を言われてるんだ?」
「アナタが先に言うからでしょ!」
「いつ言った!?」
「………はぁ、私が悪かったわ。気にしないで」
で、今度は呆れられてしまった。
「でもイザベラ」
「何かしら?」
「俺もこの学園に来て色んな奴らと出会って色んなものを託されたりしたんだよ。だからあの時と一緒と思ったら大間違いだからな」
「っ!」
警告はした。どんな結果になろうと恨まないでもらおう。ま、イザベラはそんな奴じゃないことは知っているけどな。
「それではこれより軍務科四年一組イザベラ・レイジュ・ルーベンハイト手選対冒険科四年一組オニガワラ・ジン選手の試合を開始する。両者準備は良いか?」
「大丈夫です」
「いつでもいいぜ」
「それでは試合………開始!」
『今、試合が始まったあああああぁぁ!まず動いたのは両者同時だ!』
「死になさいジン!」
「誰が死ぬか!」
ゴオオオオオオオオオオオオォォォ!!!
『二人の剣と拳がぶつかり風圧が広がっていく!凄まじい威力だ!』
『生身の人間がイザベラ選手の一撃を拳で受け止めるなんて信じられません。この学園に居る教師ですら魔力無しでは不可能でしょう』
『担任として編入初日の時から手合わせをしている私としてはジン選手の一撃を剣で受けきっているイザベラ選手が凄いと感じますね』
『それにしても凄い闘いが続いているぞ!』
『肉体強化魔法で身体能力を向上させたイザベラ選手の剣技を全て弾く、躱す、流すのどれかで対応していますね。実に興味深い』
『イザベラ選手も凄いですね。ジン選手はずば抜けた身体能力と動体視力を持った選手です。ですから相手の隙を見逃すことは万が一ありえません。そんな彼が繰り出す体術を見事に剣術と体術で対処していますね』
『アビゲイル先生とエレイン先生から好評価が出ているぞ。おっ!両者一斉に距離をとったぞこれはどういう事だ!』
『このままでは、決着が着かないと二人とも感じたんだと思います』
『私もエレイン先生と同じ考えです』
「まったく分かってはいたけど、本当に化け物ね」
「酷い言われようだな。だけど俺も驚いたぜ。前に戦った時よりも断然強くなってるじゃねぇかよ」
「この数ヶ月アナタを倒すためだけに一生懸命訓練してきたもの」
「それは嬉しい限りだ」
それにしては成長スピードが異常だ。そう言えばイザベラのステータスにあった経験三倍速ってのが関係しているのかもしれないな。ほんとチートだな。
「ほんとムカつくわね。私が一生懸命闘ってるのにまだまだ余裕なのが」
「いや、これでも結構焦ってる方だぞ。まさか最初から力の0.6%も出さなければならないとは思わなかったからな。以前と同じなら0.4%で十分闘えたんだがな」
ま、このステージの上で対峙した瞬間からそれは無理だって分かっていたけどな。
「それ褒めてるんでしょうけど全然嬉しくないわよ!」
「それは悪かったな」
俺たちは再び零距離から戦闘を開始した。
俺は殴る蹴る。
イザベラは、斬る突く。
己が持つ体術と剣術を使って相手の攻撃を躱し、流し、弾く。
強い。以前戦った時よりも遥かに強い。0.6%でギリギリ勝てるかどうかだ。だがイザベラもまだ本気を出しちゃいない。こいつの本当のスタイルは剣術と魔法攻撃を組み合わせた魔法剣士なんだからな!
『互いの闘気がぶつかっています!凄まじい!これが学園代表選抜で行われる試合なのでしょうか!二学期にある武闘大会決勝戦で行われてもおかしくない闘いです!』
『実に興味深いです。イザベラ選手相手にあれだけの試合が繰り広げられるなんていったいどんな体の構造をしているのが実に興味深いです』
『私としてはジン選手の体術についていけているイザベラ選手の方が不思議でなりません。彼女才能と努力が本物であることに実感しました』
『エレイン先生はさきほどからジン選手贔屓とは言いませんが、ジン選手を基準に話してますよね。普通は逆だと思うんですけど?』
『そんな風に聞こえましたか?』
『はい』
『私もそんな風に聞こえました』
『そう感じたのなら本当です。無意識でしたが改めて考えてみると仕方がありません』
『どうしてですか?』
『選手紹介と同時に観客席から凄いヤジが飛びましたよね』
『その理由も答えていましたよね』
『はい。ですが、きっと中にはそうしなかった生徒も居るはずです』
『その根拠は?』
『別に彼の担任だからと言う訳じゃありません。一度でも彼と闘った者ならば分かります。彼の本当の実力が』
『はぁ……』
『なるほど……』
(ミューラは現役の冒険者でしょ。なんで分からないのよ!)
『それにしても未だ凄まじい闘いが続いている!かれこれ五分以上は接近戦バトルが続いている!』
「本当に呆れるほどの強さね」
「そんな俺と対等に闘いながら魔法まで使えるお前には言われたくないんだが」
(こんなに肉体強化に魔力を使ったのなんて初めてよ!残りの魔力量は7割弱。まったくどれだけ遠いのよ、アナタの背中は!)
こいつの体力は化け物か。これまで闘ってきた学生とは大違い過ぎるだろ。絶対こいつのレベルは200まで行っている。間違いない。だがこのまま闘って判定任せなんかにしてたまるかよ!
「だから喜べイザベラ」
「唐突に何よ」
「今から俺の戦闘技十八番の一つを使って倒してやる」
「え?」
「十八番其の壱、+0.1%殴り!」
「きゃあっ!」
『な、なんと言うことだ!ジン選手の一撃でイザベラ選手が吹き飛んだ!いったい何が起こったんでしょうか!』
『私には強く殴ったように見えましたけど』
『私も同じです』
(正確には違うわ。全力の一部を開放にしただけに過ぎない。イザベラさんここからが正念場よ。ここで倒さなければまだまだ強くなる)
この技はジュリアスたちと訓練していたときに思いついた技だ。徐々に力を上げていって強くさせる。言わばCPUの強さの設定を一段階あげる仕組みだ。これのメリットは相手を強くさせられるだけでなく相手の強さを俺自身が身を持って知ることが出来るし、強い相手ならば楽しい闘いが楽しめるからだ。将来的には銀を鍛える時に使うつもりだ。
「まさかここに来て力を上げてくるなんてね」
「やはり分かるのか?」
「私を誰だと思ってるの。ジンとの勝負も二度目なのよ。学園最強の私が気づかないわけ無いでしょ」
「それもそうだな」
「でも、それだけ強くなったって認めて貰えたってことでしょ」
「嬉しいだろ?」
「半々ってところね。認めてもらえた嬉しさと、勝機が下がった悲しさ半分ね」
(でも、このまま行けば魔力切れで私が間違いなく負ける。ならっ!)
「今から私も本気を見せてあげる!六属性の守護騎士!」
「おいおいマジかよ!」
『こ、これはなんだ!威圧的なまでの火、水、風、土、雷、光の各属性騎士たちが我が主であるイザベラ選手を守るように降臨したぞ!』
「これで終わりじゃないわよ!お前たち始めろ!」
『これから何が……こ、これは!なんと言うことだ!騎士たちが二人一組になったかと思えば融合しました。これは融合魔法!属性同士で新たな属性を生み出す高等魔法です!』
「溶岩の戦士、雷光の騎士、濃霧の歌手。融合魔法によって生み出した私の守護者たち。アナタに倒せるかしら?」
「お前こそ忘れたのか?俺にはあの技があることを」
「ええ、覚えているわよ。でも魔力量が多ければ多いほど貴方が受けるダメージは大きい。そうなれば一時的に腕が痛みで使い物にならないことも調べ済みよ」
これは参った。そこまで知られているのか。もしもあの技を使えば簡単に倒せるだろうが、イザベラの魔力量から考えて全部倒せば1分間は片腕が使い物にならなくなるだろう。だがイザベラ相手に片腕なしで闘うのは厳しい。
「だが面白い!」
「っ!」
(まさか、この三体相手になにか秘策があるの?それとも腕を封じられた状態で私と闘うつもり?確かにこの魔法は魔力を大幅に取られる。残りの魔力は4割強。ジン相手には少し厳しいかもね)
「おらっ!」
「え?」
『な、殴った!ジン選手、イザベラ選手が出した溶岩の戦士に接近すると思いっきり殴り飛ばしました!』
『溶岩の普通の温度が900度~1100度。それを殴るとは彼には恐怖と言うモノが欠落しているのか、アドレナリンの大量分泌によって一時的に痛覚が麻痺しているのか。どちらにしても常人では考えられない行動ですね』
(どちらでもない。彼は私と戦って負けたとき笑っていた。きっと久々に負けて負けた悔しさを知ったから。そして強い相手と戦うことが楽しいと思い出したんだと思う。イザベラさん彼を強いだけの敵とは思わないほうが良いわよ。彼は強いくせに強い相手との戦いを求め楽しむ戦闘狂なんだから)
「今度はこっちだ!」
熱い、痛い。だけど楽しい。まさかこれほどの魔法を生み出していたなんて思いもしなかった。流石は学園最強の生徒だ。これだから戦いはやめられないんだ。




