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第二話 気になるあの笑顔

こんにちは!


本来は毎週月曜日に更新する予定なのですが、楽しくなってしまい、ついつい続きを書いてしまいました……!♡


初回投稿にもかかわらず、ブックマークの登録をしていただけたことがとっても嬉しくて……!


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


今回もエレイナとゼンの物語を、どうぞお楽しみください!

翌日。


ヴァルディア王国の王都にある騎士団本部。


執務室には、紙をめくる音と羽ペンが走る音だけが静かに響いていた。


アルゼンは、山のように積まれた書類に目を通していた。


黒髪を軽くかき上げ、眉間に僅かな皺を寄せる。


「……次はこれか」

小さく呟きながら、書類に署名を記していく。


騎士団長としての仕事は決して少なくない。


王都の警備状況、各部隊の訓練報告、近隣地域の巡回任務。


どれも国を守るために欠かせないものだった。


「団長、失礼いたします」


執務室の扉がノックされる。


「入れ」


扉を開けて入ってきたのは、副団長のユウだった。


彼は手に数枚の報告書を持ち、アルゼンの机の前へと歩み寄る。


「最近の騎士団の活動について、ご報告に参りました」


「聞こう」


アルゼンは書類から目を離さず、淡々と答えた。


ユウは報告書を机に置く。


「王都周辺の巡回については、特に問題ありません。各部隊の訓練も順調に進んでおります」


「そうか。引き続き警戒を怠るな」


「承知しました」


一通りの報告を終えたユウは、ふと思い出したように口を開いた。

「……ところで、団長」


「何だ」


「昨日、ラ・ベルにいらっしゃいましたか?」


アルゼンの羽ペンが、ぴたりと止まった。


「……なぜそう思う」


僅かに低くなった声。


ユウは首を傾げながら答える。


「いえ、昨日昼時に、団長によく似た男性をラ・ベルで見かけた気がして、ジュークも絶対団長だと….」


「……そうか」

アルゼンは再び羽ペンを動かした。


表情に変化はない。


しかし、心の中では小さく舌打ちしていた。

(……あいつ、余計なことを)


「まさか、団長があのような食堂に足を運ばれるとは思いませんでしたが」


「……料理を食べに行っただけだ」


「へえ?」

ユウの口元に、意味ありげな笑みが浮かぶ。


「料理、ですか」


「何か問題でもあるのか」


「いえ。団長がわざわざ外で食事をされるのは珍しいと思いまして」


「……仕事に戻れ」


「ははっ、承知しました」


ユウは笑いを堪えながら、軽く頭を下げた。

「それでは、失礼いたします」


扉が閉まる。


静寂が戻った執務室。


アルゼンは手にしていた羽ペンを机に置いた。


「……まったく」


小さく息を吐く。


昨日のことを思い出す。


柔らかな笑顔。


明るく弾む声。


そして、最後に掛けられた言葉。


『またいらしてくださいね!』


アルゼンは僅かに目を細めた。

(……また、か)


気づけば、あの少女の笑顔が頭から離れない。


「……妙な娘だ」

そう呟き、再び書類へと視線を落とす。


だが、文字がなかなか頭に入ってこなかった。


アルゼンは深く息を吐く。


(……料理が気に入っただけだ)


自分に言い聞かせるように、そう考えた。


しかし。


彼の視線は、いつの間にか窓の外へと向けられていた。


陽はまだ高く、王都の街並みを穏やかに照らしている。


「……今は何時だ」

机の上に置かれた時計に目を向ける。


昼時を少し過ぎた頃だった。


(……ラ・ベルは、まだ営業しているか)


ふと、昨日の少女の笑顔が脳裏をよぎる。


アルゼンは小さく眉を寄せた。


(……いや。別に、あの娘に会いに行くわけではない)


ただ、昨日のシチューが美味かった。


それだけだ。


「……少し、行ってみるか」

誰に聞かせるでもなく呟くと、アルゼンは椅子から立ち上がった。


執務室を出た彼は、騎士団長としての礼装を脱ぎ、身支度を整える。


黒を基調とした上質な上着に、装飾のない白いシャツ。

普段身に纏う華やかな礼服とは違い、簡素で目立たない服装だった。


腰に剣は携えず、髪も軽く整えるだけに留める。


これなら、少なくとも公爵だと気づかれることはないだろう。


……もっとも、その整った顔立ちと隠しきれない気品までは、どうにもならなかったが。


「……これでいい」

鏡に映る自分を一瞥し、アルゼンは静かに呟いた。


そして、誰にも行き先を告げることなく、騎士団本部を後にした。


*


王都の賑やかな通りを抜け、昨日訪れた食堂ラ・ベルへと向かう。


(……別に、あの娘に会いに来たわけではない)

そう自分に言い聞かせながら、アルゼンは店の扉に手を掛けた。


カラン、と扉に取り付けられた小さなベルが鳴った。


「いらっしゃいませ!」


明るく弾む声が、店内に響く。


アルゼンは店内へと足を踏み入れた。


そして、すぐに彼女の姿を見つける。


今日のエレイナは、胸元に可愛らしいリボンがあしらわれた、淡いピンク色のドレスを身に纏っていた。


柔らかな色合いが彼女の愛らしい顔立ちを引き立て、昨日とはまた違った華やかさを感じさせる。


その姿に、アルゼンは思わず目を留めた。


(……今日も、可愛らしいな)


ふと、そんな言葉が脳裏をよぎる。


すぐに自分の考えを打ち消すように、彼は僅かに眉を寄せた。


簡素な服装に身を包んでいるにもかかわらず、アルゼンからは隠しきれない上品さが漂っていた。


その佇まいは、平民街の食堂には少々不釣り合いなほどに優雅だった。


「お客様?」


エレイナが不思議そうに首を傾げる。


アルゼンは、はっと我に返った。


「……いや。何でもない」


「ふふっ、本日もご来店ありがとうございます!」

彼女は昨日と変わらぬ笑顔を向けた。


その笑顔を見た瞬間、アルゼンの胸の奥が、ほんの僅かに温かくなった。


アルゼンがぼんやり見つめていると、エレイナが注文を取りに来る。

「本日は何になさいますか?」

「……昨日と同じものを」

「ふふっ、昨日も来てくださったんですね!」

アルゼンは、彼女が自分のことを覚えていたのに少し驚く。


*


エレイナが料理を運んでくる。忙しい中でも笑顔を絶やさず、ほかのお客さんにも優しく接している。


アルゼンは騎士団では誰も自分に気軽に話しかけないのに、彼女は自然に接してくれることに不思議な心地よさを感じる。

(……この店は、妙に落ち着く)


*


食堂が混み始め、エレイナが料理を運ぶ途中で別のお客さんとぶつかりそうになる。

アルゼンが反射的に彼女の腕を掴み、支える。

「危ない」

「きゃっ……!」

「……大丈夫か?」

「は、はい!ありがとうございます!」


なぜかエレイナは、ドキドキしていた。

(…..あれ、、、この人かっこいい。。。)


アルゼンも食事を美味しくいただき、食べ終えた。


帰り際にエレイナが声をかける。


「そういえば、お客様のお名前を伺ってもよろしいですか?」

アルゼンは少し考えてから、偽名を名乗る。

「……ゼン」

「ゼン様ですね!またいらしてくださいね!」




「あ!ゼン様!」




店を出ようとしていたアルゼンは、背後から呼び止められ、ゆっくりと振り返った。


「……何だ?」


エレイナは少しだけ頬を染めながら、彼の前へと歩み寄る。


「先ほどは助けていただいて、本当にありがとうございました」


「大したことではない」


「でも、私……とっても助かりました」


彼女はふわりと微笑むと、少し迷うように視線を落とした。


「それで、あの……お礼になるか分からないのですが」


「……?」


「今、帰宅前にアップルパイを焼いているんです。もしよろしければ、食べていきませんか?」


思いがけない誘いに、アルゼンは一瞬言葉を失った。


女性から食事に誘われることなど、これまで幾度となくあった。


けれど、彼女の誘いはどこか違っていた。


「……君の焼いたものか?」


「はい!まだ焼きたてなんですよ」


嬉しそうに話すエレイナを見つめ、アルゼンはわずかに目を細めた。


断る理由など、なかった。


「……では、いただこう」


「本当ですか?ふふっ、嬉しいです!」


その笑顔を見た瞬間、アルゼンは胸の奥に小さな温かさを覚えた。


閉店後の食堂は、昼間の賑わいが嘘のように静かだった。


エレイナは焼きたてのアップルパイを小さな皿に取り分け、ゼンの前へと差し出した。


「お待たせしました。熱いので、気をつけてくださいね」


「ああ」


アルゼンはフォークを手に取り、ひと口食べた。


口の中に広がる、甘く柔らかな味わい。

りんごのほどよい酸味と、香ばしい生地が絶妙に調和している。


「……美味い」


思わず漏れた言葉に、エレイナの表情がぱっと明るくなった。


「本当ですか?よかった……!」


心から嬉しそうに笑う彼女を、アルゼンは静かに見つめた。


騎士団では、誰もが自分の顔色を窺う。

公爵という立場も、騎士団長という肩書きも、彼の周囲から決して消えることはない。


けれど、この食堂では違う。


彼女はただ、一人の客として自分に接してくれる。


そのことが、思いのほか心地よかった。


「ゼン様、またいらしてくださいね」


帰り際、エレイナはいつもの笑顔でそう告げた。


「ああ……また来る」


店を後にしたアルゼンは、夜の街を歩きながら、ふと足を止めた。


自分から誰かに会いに行きたいと思ったのは、いつ以来だろう。


胸の奥に残る、ほんのりとした温かさ。


それが何なのか、彼はまだ知らなかった。


*


翌日、騎士団本部。


自分から誰かに会いに行きたいと思ったのは、いつ以来だろう。

そして最後に、騎士団副団長ユウがアルゼンの変化に気づく。

「最近、団長……何かありました?」

「……何もない」

「そうですか?なんだか機嫌がよさそうですが」

アルゼンは無言で書類を閉じる。


「……気のせいだ」


そう言いながらも、脳裏には淡いピンク色のドレスを纏った彼女の笑顔が浮かんでいた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます♡


エレイナの笑顔に、少しずつ惹かれていくゼン。

冷血公爵様の不器用な恋を、これからも温かく見守っていただけたら嬉しいです!


感想や応援などもいただけたら、とっても励みになります!


次回もどうぞよろしくお願いいたします♡

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