魂の移し絵師:不知火 燈真(しらぬい・とうま)
(舞台中央、釈台の前に座る男。身に纏うのは、洗いざらしの濃紺のシャツ。
袖を無造作に捲り、節くれ立った指で扇子を弄ぶ。49歳の年輪が刻まれた目尻が、優しく、どこか悲しげに細められる。)
「……えー、お集まりの皆々様。
旦那、あぁ、そちらの……可愛らしいお嬢様。
こんな夜更けに、私のような、時代に取り残された男の話を聞きに来てくださるとは、奇特な御仁もいたもんだ。
私も今年で四十九。
世間じゃあ、くたびれた中年なんて括られますが、私にとっては、ようやくこの『業』が肌に馴染んできたところ。
ちょいとばかり、私の一族に伝わる、妙な『仕事』の話を聞いていってくださいな。
もうね、数えて私で六十八代目。
教科書にも載らなきゃ、役所も把握しちゃいねぇ。世間に知られた商売じゃございませんが、代々この重たいバトンを繋いで生きてまいりました。
申し遅れました。
私、苗字を不知火、名は燈真と申します。
じいさんの銀次郎、親父の弥彦。
あの無骨な背中と、深夜に響くノミの音を聞いて育ち、六十八番目の執刀を任されたのが、不肖、この私。
あぁ、どんな仕事かって?
まあ、分かりやすく言やぁ……
『魂の入れ替え師』。
人の内側にべっとりとこびりついた、死にたくなるような絶望。それを音もなく引っこ抜き、代わりに、熱い抱擁のような一時の夢を流し込む。
ええ、そんな非道な救済を、生業としております。
昔はね、この八百八町にも、似たようなはぐれ者がたくさんいたんですがね。
いつからでしょう。
地面がコンクリートで固められ、人々が鉄の箱に閉じ込められ、空を見上げることを忘れた頃から、魂の通り道が消えちまった。
おかげでこっちは、商売あがったりってわけだ。
彫師が肌に墨を刻むように、私は言葉と情熱で、凍えた記憶に『別の自分』を刻みつける。
いわば、文明の隅っこに取り残された、化石みたいな一族ですよ。
この、時代から見放された職人を……。
さしずめ、『心の彫像師』、あるいは『魂の移し絵師』とでも呼びましょうか。
……さあ、お嬢様。
あんたのその、泣きたくなるような孤独な夜。
ちょいと私に預けて、新しい夢……吹き込んでみませんか?」
(パシィッ!と扇子が釈台を叩き、静寂の中に鋭い音が響き渡る。)




