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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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第57話 寄り添う二人

流転の國の休日三日目。

マヤリィはジェイの部屋に来ていた。

昨日ルーリと話したことを報告する為だ。

「最終的にルーリは私の許しを受け入れてくれたから良かったわ。…ここに辿り着くまで本当に長かったけれど」

「姫、本当にお疲れ様でした。あの『記憶』が甦ったルーリと冷静に話が出来るなんて、さすがは姫ですね。僕がいたらきっと途中で怒っていたと思います」

ジェイは言う。まさかルーリが『忘却』魔術をかけられたことに気付くとは思わなかったし、まさかマヤリィが『記憶』を返すとも思わなかった。しかし、最終的にマヤリィは『罰』ではなく『許し』を与え、ルーリがそれを受け入れたことによって、先日の事件は完全に幕を閉じたのだ。

「ルーリとも前みたいに話せるようになったんですね」

「ええ。まだどこかぎこちない気はするけれど、ルーリと私の仲だもの。すぐに元に戻れるわ」

マヤリィはそう言って微笑むと、

「あの話の後、初めて第7会議室で髪を切ってもらったのよ。…どうかしら?」

短くなった髪をかきあげてみせる。

「可愛いです、姫。触っていいですか?」

「いいわよ」

マヤリィはジェイに寄り添う。

「やはり貴女は短い髪が似合いますね。…もしかして、色はタンザナイトに似せました?」

「ええ。創造主が言うのもなんだけれど、良い色だと思って、やってみたかったの」

「この色、僕も好きですよ」

(本当に綺麗な髪の毛だな…)

ジェイはマヤリィの髪を撫でながらそう思う。

細く柔らかくサラサラとした髪は、ショートヘアであっても美しいことに変わりない。しかし、決してそのことを口にしてはならない。

「良い感じに染まっていますね。さすがはルーリと言ったところでしょうか」

代わりにルーリの技術を褒める。

「ええ。やはり第7会議室の責任者はルーリ以外に考えられないわ。でも…少し伸びたら、次は貴方に切ってもらおうかしら」

「はい!任せて下さい…!」

ジェイは嬉しそうに答える。

しかし、

(ルーリの髪を切ったのが僕だってことは…言わない方がいいよね)

一瞬あの日のことを思い出したジェイだが、すぐに忘れようとする。

マヤリィはそんなことを知る由もなく、ルーリはセルフカットをしたのだと思っていた。…実際、ルーリはこれまでセミロングの毛先を自分で整えていたのだ。

「それにしてもルーリって本当に器用よね。自分で後ろ髪を切り揃えるとか、私には出来ないわ」

ジェイの心を読んだわけではないが、マヤリィはミニボブになったルーリの髪を思い出す。…ちょうどその頃、彼女が前髪を作っていることも知らずに。

(自分に『忘却』をかけることって出来ないのかな?)

ジェイがあの日の出来事を忘れようと頑張っていると、マヤリィは急に甘えた声を出す。

「…ねぇ、ジェイ?」

二人でいる時にしか見せない可愛らしい表情がジェイの心を捉える。

(姫、可愛い…!)

その瞬間、ジェイは『忘却』もかけていないのにあの日のルーリを忘れてしまう。ルーリは確かに綺麗な女性だが、姫の魅力には敵わない。

昔から今に至るまで、ジェイはマヤリィ一筋なのだ。

「今日は貴方の部屋に泊まっていくわ。ねぇ、いいでしょう?…それで、明日は直接私を起こして頂戴」

美しく可愛らしい女王様は何も疑うことなく、彼に甘える。

いつもならマヤリィが起きられない時はジェイが『念話』で声をかけるのだが、この間はそれも聞き逃してしまった。

「明日の会議は10時からだし、起きる自信がないのよ」

「睡眠薬、効きすぎなんじゃないですか?」

「だって、飲まないと眠れないんだもの」

マヤリィはそう言うとジェイに抱きつく。

「ジェイ、お願い。今日は早く寝るから、貴方も付き合ってね?」

「分かりました、姫。今夜は一緒に寝ましょう」

姫を受け止めたジェイは優しく微笑む。

(ルーリには悪いけど、今夜の僕はマヤリィ様の抱き枕だよ♪)

第22話のルーリを思い出し、ちょっと自慢したくなるジェイ。

どこかのカップルとは違って刺激的なことは起きそうにないが、ただ寄り添っているだけで二人の心は満たされる。

事実、その夜マヤリィはベッドの中でジェイを抱き枕にすると、安心した顔で眠りにつくのだった。

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