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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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44/63

㊶それぞれの自由時間

久々に全員が出席した会議が終わった後、

「あの…ルーリ様……」

玉座の間を出た所で呼び止められた。

「ん?どうした?」

振り向くと、シロマが悲しそうな顔をしている。

「その御髪はどうなさったのですか…?」

「ああ、これ?」

何事かと思えば、また髪の話か。

「急に鬱陶しくなってな、切ってしまったんだ」

ルーリは苦笑する。

「本当にそれだけだ。切りたかっただけと言うか…。理由らしい理由がなくてすまないな」

「…いえ、とんでもございません。今朝ルーリ様のお姿を見た時から気になっておりまして…。不躾な質問をお許し下さいませ」

「気にしないでくれ。…マヤリィ様も同じ質問をなさったから」

頭を下げるシロマに対し、ルーリは小声で言った。

「まぁ、驚かれるのも無理はない。私は自分の髪が好きだったしな」

「はい。私もルーリ様の御髪が好きです」

シロマは悲しそうに言う。

「しかし、そのご様子だと…もう伸ばされるおつもりはないのですか?」

「ああ。もう伸ばさないかもしれない。…あ、坊主にしたくなったらお前に相談するから、その時はカミソリの使い方を教えて欲しい」

「ルーリ様……」

「冗談だってば。私が髪を切ったくらいで世界の終わりみたいな顔をしないでくれ」

「だって……」

ルーリの冗談を真に受けて涙を浮かべるシロマ。

「私、本当にルーリ様の美しい巻き髪が好きだったんです。泣いてごめんなさい…」

(シロマ、可愛いな…)

その様子を見て、ルーリは微笑む。貴女の美しい髪が好き、だなんて間違ってもマヤリィには言えないが、ルーリになら言えるらしい。

「お前に何も言わずに切っちゃって悪かったよ、シロマ。そんなにまで私の髪を想ってくれるとは、嬉しいような申し訳ないような…やっぱり嬉しいかな」

ルーリはそう言いながら慣れた手つきでシロマを抱き寄せると、

「今からお前の部屋に行ってもいいか?…私の新しい髪型もよく見て欲しいし、それに…」

「それに…?」

「シロマを食べたい。…駄目か?」

夢魔の瞳に見つめられ、真っ赤になるシロマ。

「駄目…だなんて言えません……」

「素直な女の子は可愛いな。…では、お邪魔するとしよう」

その後、二人がどんな時間を過ごしたかについては割愛する。


「ルーリったら…いつの間にいなくなってしまったのかしら」

「第7会議室に行ったんじゃないですか?」

玉座の間では、マヤリィとジェイがそんな会話をしていた。

実際はシロマの部屋でサキュバスの本性を現して××しようとしているのだが。

マヤリィはそんなことが起きているとは露知らず、先ほどまで傍にいたルーリの姿を思い出す。

「今日のドレスが素敵だったからもっと近くで見たかったのだけれど、仕事に戻ったなら仕方ないわね」

マヤリィはあっさり諦める。

今日ルーリが身に纏っていたのは金色のミニドレス。繊細な装飾が施されたそれは光り輝くブロンドのショートヘアによく合っていた。

(短い髪に似合うドレスが欲しいって言ってたけど、さすがはルーリ。華やかな衣装に負けてないな…)

傍に控えているジェイは密かにそう思った。


一方、会議が終わり自由時間を言い渡された二人はそのまま自分達の部屋に戻ってきた。昨夜の会話を忘れたかのように、いつもの空気が流れている。

帰ってきてからしばらく経って、

「うーん…難しいですね…」

「姉上、何してるんですか?」

ラピスが洗面所で鏡と睨めっこしていると、タンザナイトが顔を出した。

「それはルーリ様から頂いた…コテでしたっけ?」

「はい。今試しているところなのですが、なかなかうまく出来なくて…」

ルーリのウェーブヘアを再現してみたいが、初めてコテを使うラピスには難しそうだ。

「結構熱いんですね」

タンザナイトは巻いたばかりの部分を触ると、

「ちょっと貸して下さい、姉上」

「タ、タンザナイト様…!?」

コテを受け取ったナイトは少しの間観察していたかと思うと、ラピスの髪を優しく手に取り、器用に巻いていく。

「同じウェーブと言っても、色々なサイズがあるんですね」

ナイトは興味深そうに言う。

「タンザナイト様、上手です…!」

ラピスは鏡を見ながら、仕上がりを楽しみに待つ。

「…こんな感じでしょうか。いかがです?」

「凄い…!」

往時のルーリほど長さはないが、美しいウェーブヘアが出来上がった。

ラピスは自分の髪を触って、何度も鏡を見て、嬉しそうな顔をする。

「ありがとうございます、タンザナイト様。貴女は…何でも出来るのですね」

『妹』なのに、ラピスはいまだに彼女をそう呼ぶ。

「巻き髪も似合ってますよ、姉上。ルーリ様が下さったこの道具、もう少し研究してみたいですね…」

どうやらナイトは書物以外にも興味を持つらしい。

「タンザナイト様、もしかして今わたくしを褒めて下さいましたか?」

「僕は思ったことを述べただけです」

返ってくるのは相変わらず淡々とした言葉だが、ナイトから『似合う』と言われたのは初めてだった。

「またお願いします、タンザナイト様。特に…ルーリ様にお会いする日は!!」

期待に満ちた目でラピスはそう言うが、

「え?毎回僕がやるんですか?研究はしておきますから、自分で出来るようになって下さいよ」

ナイトは真顔で返事をするのだった。

会議が終わった後、それぞれの自由時間。

昨夜はラピスを抱き、今日は昼間からシロマを襲うルーリさん。

最近、サキュバスの本能が暴走してませんか?


今はまだ気付いていないマヤリィですが、無意識下で常時発動されている『魔力探知』魔術がまもなく彼女に現実を知らせるでしょう。

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