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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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24/62

㉓愛してる

シャドーレの使い魔再登場。

今は王宮への連絡にも使われている模様。

桜色の都の国王ヒカルが緊急の現状打開策として子供達を保護してから数週間…。国会では、今も西の国境線に関する議論が続いている。

あの後、緊急打開策の第二段階として困窮する住民の支援を行ったものの、それはあくまで一時しのぎ。根本的な解決には至っていない。


そんなわけで連日国会に召集されているレイヴンズクロフト公爵夫人ことシャドーレだが、夜は邸に戻ってくる。

「只今帰りましたわ」

「お帰りなさいませ、シャドーレ様」

シャドーレがドアを開けると、必ずメイドのミノリ嬢が出迎える。どんなに遅い時間でも彼女はシャドーレの帰りを待っている。

しかし、今夜シャドーレを待っていたのはミノリだけではなかった。

「お疲れ様、メアリー。やっと会えたね」

ミノリの後ろからウィリアムが現れる。

「ウィル…!あなた、帰っていたの?」

「うん。たまには邸に帰りたいと思って、全部副隊長に任せてきたんだ」

『クロス』の隊長であるウィリアムは何かと忙しく、最近は宿舎に泊まり込む日が多かった。

「…そうでしたの。今日あなたが帰ってくるとわかっていたら、私も早く帰らせて頂いたのに…!」

そう言いながらシャドーレはウィリアムに抱きつく。

ウィリアムは彼女を抱きしめながら、

「大丈夫。明日も休みを取ったから、貴女の帰りを待っていられるよ」

「そんな…!せっかくあなたが邸にいるというのに、会えるのは夜だけなんて寂しいですわ」

「でも、メアリーがいなければ陛下が困ってしまうよ。今、大事な政策の議論の最中なんだろう?」

しかし、シャドーレは首を横に振る。

「私にとって一番大事なのは国会ではなくあなたですのよ?…明日は私も休みます」

「だけど、メアリー…」

ウィルはどうしたものかと思ったが、

「だって、ずっと会いたかったの…」

彼女は夫にしか見せない顔をして甘えた声でささやく。

「…ねぇ、良いでしょう?」

「……分かった。明日、王宮に使い魔を送ろう」

美しい妻に見つめられ、ウィリアムは本当に大丈夫かなと思いつつ頷いた。


「これは…シャドーレ様の使い魔…!」

次の日の朝、王宮に参上したシャドーレの使い魔に気付いた侍従は慌ててヒカル王に報告した。

「何かあったのでしょうか…!?」

「…いや、本日の閣議を欠席するとのことだ」

ヒカル王は困った顔で答えるが、すぐに解決策を見出す。

「ならば、難しい議題は明日に回して、今日は早めに切り上げるとしよう」

「はっ。畏まりました、陛下」

…ヒカル王よ、それで良いのか?


その頃の公爵邸。

「あなた、今日はずっと一緒にいられますのね。嬉しいですわ」

「私もだよ、メアリー。今日はゆっくり過ごそう」

ウィルとメアリーはそう言ってキスを交わす。

数多の人々を魅了し、心ならずも恋に落としてきた黒魔術師シャドーレだが、今は一人の男性の妻。優しく包容力のある彼に身も心も委ね、この時だけはいつもの自分を忘れて一人の女性として夫に甘えるメアリーである。

(可愛い…)

ウィリアムは美しい妻を優しい目で見つめながら、

「メアリー、愛してる」

その華奢な身体を愛おしそうに抱きしめた。

彼女のことをメアリーと呼ぶのは、夫であるウィリアムと今は亡き彼女の母親だけです。


麗しきシャドーレ様の恋愛遍歴。

・『クロス』の元隊長ダーク→殉職

・流転の國の魔術師ミノリ→異世界転移

・桜色の都の前国王ツキヨ(彼の片想い)

・桜色の都の国王ヒカル(彼の片想い)

・邸のメイドであるミノリ・アルバ嬢

・伯爵家出身の黒魔術師ウィリアム→結婚


『vol.7』では恋多き魔術師として恋愛フラグを立てまくったシャドーレですが、今作ではウィリアム一筋。威厳ある『クロス』特別顧問の顔も、国会で活躍する公爵夫人の顔も置いといて、愛する夫に甘えるメアリーです。

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