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流転の國 vol.8 〜桜色の都の救世主〜  作者: 川口冬至夜


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㉒ベッドの中で

《こちらルーリ。今、説明を終えたところだ。マヤリィ様のお具合について聞かせてくれ》

ルーリはまずジェイに『念話』を送った。

第4会議室を出る時のマヤリィ様を思い浮かべると、今どうなさっているだろうかと心配で堪らない。マヤリィ様自身が作成し、ルーリに託した『完全回復』の宝玉によって自傷の切り傷は全て治ったものの、問題は心の傷である。桜色の都から帰還されたばかりで体力的にもお疲れだろうし、当分は休養に専念して頂いた方が良いかもしれない。ルーリはそんなことを考えながら、マヤリィの部屋の前まで来て念話を送ったのだ。

《こちらジェイ。姫は今眠ってるよ。ラピスに命令を下した後に寝ちゃったんだ。…いつの間にか睡眠薬を飲んでたらしくて》

マヤリィは今もジェイにくっついて寝ている。

《場所は僕の部屋だから、そのまま転移してきて大丈夫だよ。目を覚ました時、ルーリが傍にいたら姫も安心すると思うし》

あの時、自分の部屋ではなく第2会議室に誘ったマヤリィだが、結局はジェイの部屋に来ることになった。…という話はしない方が良いだろう。

ルーリは『私はジェイと一緒に自分の部屋に戻るから』って言ってなかったっけ…?と思い出しつつ、不思議には思わなかった。

《そうか、お前の部屋にいるんだな。すぐに行く》

そして次の瞬間、ルーリはジェイの部屋に現れた。

「ルーリ、お疲れ様。悪いけど、今ちょっと手が離せなくて…」

ジェイはまだベッドの中でマヤリィにホールドされたまま。

《姫を起こすわけにもいかないから、しばらく『念話』で頼むよ》

《分かった。…でも、少しだけマヤリィ様の寝顔を拝ませてくれ》

ルーリはそう言うと、ジェイを抱き枕にして死んだように眠っているマヤリィの顔を見る。

《ジェイ……》

《どうしたの、ルーリ?》

急にルーリの表情がシリアスになったのを見て、ジェイが不思議そうに聞く。

《場所を変わってくれないか?》

《いや、この体勢じゃ無理だよ》

《そうだよな……》

大真面目な顔をしたルーリは心から残念そうに肩を落とす。

《私もマヤリィ様の抱き枕になりたかった…》

《いやいや、これから何度でもチャンスはあるよね?何も今そんなに悲しそうな顔しなくても…》

しかし、ルーリは本気でしょげていた。マヤリィが流転の國を離れていたのは少しの間だが、それでも彼女に会いたくて仕方なかったのだ。

《…分かったよ、ルーリ。僕は動けないけど、姫の隣に来たら?》

広いベッドなので、ジェイと反対側のマヤリィの隣にも横になるスペースがある。

《本当か?本当にいいのか?》

《うん。姫もルーリが傍にいたら安心すると思うし》

ジェイがそう言うと、ルーリは笑顔で布団に入ってきた。

「失礼致します、マヤリィ様。こちらを向かれることがあれば、私を抱き枕にして頂けると幸いにございます」

(マヤリィ様のお隣…♪♪♪)

ルーリは眠っているマヤリィの隣で嬉しそうにしている。

その様子を見ていると話しかけづらいが、

《えっと…玉座の間での話を聞かせてもらってもいいかな?》

ジェイは恐る恐る念話を送る。

《ああ、そうだったな。その報告をする為に来たんだった》

ルーリはすぐに本来の目的を思い出し、マヤリィを隔ててジェイとの念話(かいわ)を再開するのだった。

《…そういうわけで、結局私もマヤリィ様にご迷惑をおかけしてしまった。シロマに対して魔術を使うつもりはなかったが、それでもラピスが来てくれてよかったよ》

《姫はラピスに『無効化』を命じていたけど、本気でそれを使わせようとは思ってなかったんだね》

ジェイは安心する。マヤリィはラピスに厳しく接しているが、配下に対する態度としてはそれが正しいのかもしれない。

《…それで、今シロマはどうしてる?『悪魔変化』した君に叱られた以上、かなり精神的に参ってると思うけど》

ジェイは心配そうに聞く。

《シロマならラピスと一緒に今も玉座の間で待機させている。クラヴィスは部屋に帰した》

ルーリは平然と答える。

《ラピスには、シロマと一緒に待っていてくれるよう『お願い』してきた。あいつはマヤリィ様以外の者の『命令』は聞いてくれないからな》

《…成程ね。ルーリはラピスと順調に信頼関係を築いているというわけか》

《ああ。私達は結構仲良しだぞ?…マヤリィ様には言えないが》

ルーリがそう言った途端、

「ん……ジェイ………。…………?」

ジェイの名を呼びながら目を開けたマヤリィは、人の気配を感じて振り返る。

「あら、ルーリ…。ご苦労だったわね……」

まだ眠そうだが、マヤリィはルーリを労う。

「報告に来てくれたの?…けれど、その前に抱きしめさせて頂戴」

配下が配下なら、主も主である。

「はっ!いつまででも私を抱きしめていて下さいませ、マヤリィ様…!」

「ああ、ルーリ…。貴女が来てくれて嬉しいわ…!」

マヤリィはそう言うとルーリにキスをする。

「マヤリィ様…!」

ベッドの中で抱き合う二人。

だが、

「お忘れかと思いますが、ここは僕の部屋なんですけど…」

先にベッドから起き上がっていたジェイが口を挟む。

「…そういえば、そうだったわね」

マヤリィはそう言うとジェイに投げキッスする。

「姫…!」

それは初めてのことだったので、ジェイは思わず頬を染めた。

「姫、可愛すぎます…!」

そう言いながら素早くベッドに戻ったジェイは、ルーリの反対側から姫を抱きしめる。今度はマヤリィが二人の抱き枕と化している。

「…ねぇ、もう少し寝ていてもいいかしら?」

大好きな二人に包まれながら、マヤリィは再び眠りに落ちた。

ベッドにいる時は特に甘く優しい声で。

ルーリを労っただけで報告も聞かず、再び眠ってしまうマヤリィ様です。

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