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星結いの儀は昼間に行われ、それから、祝いに祝って、夜の星祭りでこの一日が終わる。

星結いの儀を前に、城前には王子と婚約者の言葉を、その晴れ姿を見届けようと、多くの国民が詰めかけていた。両国の国民に二人の言葉を伝えるべく、街頭のスピーカーやラジオを通じて、その様子は国内に広く放送される。


レイも、窓の向こうから聞こえるスピーカーからのアナウンスを聞いていた。階下の酒場での賑わいも静かになったところを見ると、皆も酒場のラジオでその様子を聞いているのだろう。


聞くのは怖いが、現実は受け止めなければならない。レイは、のそのそと起き上がると、窓を開けた。スピーカーからの声がよく聞こえる。


城前にアザミの相手として現れたのは、レイが望んだ通り、隣国の王女だった。過去に、レイを浚ったという国、まだ国同士の溝が深い国同士の婚約だ。お互いの国でどんな話し合いの末、このような結果に至ったのかは分からないが、なんでもいい、これが両国の友好に繋がっていけばいいとレイは願っている。


そうじゃなきゃ、救われない。


レイは心の中で呟いた。勝手に傷ついて、勝手に文句を言うくらい構わないだろ、全ては心の中でのことだ、口にも態度にも出したりしない、だから、この結婚に平和を願う、アザミとはもう会う事もない。



「……え?」


そして演説が始まったのだが、その演説に耳を疑ったのは、きっとレイだけではないだろう。


アザミの凛と通る声が、民衆の騒めきを静め、その思いを一人一人に届けていく。


二人は宣言した。この日、両国の平和を望み友好関係を築く、手を取り合い和平条約を交わす事を、結婚の代わりとすると。今夜の星祭りを、その象徴として定める事を。


王子と王女は手を取り合い掲げる。仮初めの平和の為に夫婦になるのではなく、真の友好への証として、両国の未来を守る第一歩として、二人は友人になると。




その演説を聞き終えたレイは、大慌てで部屋を飛び出した。階下の酒場でも、困惑にどよめきの声が聞こえてくる。その手前、二階に繋がる階段の途中にはダンとリオがいて、レイは混乱のまま二人に詰め寄った。


「なんだよ、あれ!結婚は!?」


レイが取り乱す中、ダンとリオは平然としており、二人は困ったように笑みを交わしている。


「二人で決めたらしいぞ。今までのやり方じゃ、何も変わらないって思ったそうだ。今頃、国王様も度肝を抜いてるだろうな」

「王女も見せかけの平和は違うって、自ら茨の道を歩む覚悟みたいよ。これからが大変ね、頭の固い重鎮達を説き伏せないといけないもの。それに、国民の不安も取り除かないと」


呆れた様子ながら、二人はどこか楽しそうで、まだ混乱の渦中にいるレイは、戸惑うばかりだ。


「なんだよ、なんでそんな事、だって、だってさ、あいつは王子で、そんな勝手に、」


自分でも何が言いたいのか分からない、王女と結婚しない、アザミのプロポーズが脳裏に甦り、まっすぐな瞳が、ますますレイの心を乱して、それが熱く訴えてくるみたいで苦しくなる。


「城に帰る?アザミ様もその方が安心するわ」


顔を熱くして、うろうろと視線を彷徨わせる、そんなレイの様子を見て、リオは眉を下げて声を掛けた。目が合うと、少しずつ気持ちが落ち着いてくる、リオもダンも、いつだって自分の味方で、こんな自分を守ってくれていた。二人への信頼と安心感が、レイの心を冷静に連れ戻してくれる。


「…まさか、俺が行ってどうなるんだよ」


レイは、リオの問いかけにそれだけ言葉を返すと、戸惑う気持ちを宥めるように外へ出た。太陽の光に目を閉じかける。あの空の下にアザミが居る、今、一体どんな気持ちでいるのかと思いを馳せ、いや、何を考えているんだと頭を振った。


何を心配する必要がある、相手は王子だ、国の端に暮らす凡人の自分が、力になれる事など何もない、何か出来ると思う方がおかしいんだ。レイは自分にそう言い聞かせたが、そう思えば思う程、アザミの存在が大きくなるのを感じてしまう。


いくら冷静になっても、とくとくと高鳴る鼓動がレイを急かしていく。


忘れ去られた過去の自分に縋りたくなる。

アザミに会いたいと、どうしても、願ってしまう。







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