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アメジストの瞳《BL》  作者: 茶野森かのこ


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その夜。レイは葛藤の末、ホランの花が咲く丘に向かった。


自分はアザミの気持ちを受け入れられない、駄目なんだと、いくらそう思っても、心は納得してくれなくて、落ち着かなくて。その中で、アザミがホランの丘で待っていると思えば、どうしても、いてもたってもいられない、という気持ちが勝ってしまう。



夜になっても、タタスの村は賑やかな声に包まれている。他の村や町からも人がやって来て、皆、楽しそうに食事をしたり、ホランの花を手にして寛いでいる。


レイはその様子を見て、こっそり酒場を抜け出した。ダンとリオは気づいただろうか、それでも追いかけてこないところを見ると、バレていないのかもしれない。二人がレイの気づかぬところで目配せをしていたが、レイがそれに気づく余裕はない。一歩飛び出してしまえば、その足は止まらなかった。

山への入山には規制がかかっているが、村の人間であるレイは、抜け道を知っている。慣れた山道とはいえ、夜の中だ、それでもいつもより明るい村の灯りが、丘への道すがらを後押ししてくれるようで、レイは心が急くまま駆けていく。


木々を抜け出た先、開けたその空には星が瞬き、その足元には、咲き誇るホランの花が星の光を浴びて、きらきらと輝いているようだった。


「…すごいな」


レイの中には、夜の丘に来た記憶はないのだが、どうしてか懐かしいような不思議な気持ちにさせられる。

ホランの花畑に、レイは幾分気持ちを落ち着けて、その中へと踏み出した。


光の綿毛は足元を照らし、まるで光の絨毯の上を歩いているみたいだった。

仄かな灯りも、集まれば大きな光の海となる。そして視線を巡らせた先、暗がりの中でも、そこに立ち尽くすのがアザミであると、すぐに分かった。そして、その背中を見てほっとしている自分に気づけば、レイはまた落ち着かない気持ちになる。甘やかに鳴り立てる胸に、もう静まれと願うのは無理かもしれない。


レイは、どこか緊張した面持ちで、アザミの元に向かった。



「…大丈夫なのかよ、あんな事して。あんな簡単に条約なんて」


だが、そう簡単に素直になれないのが、性分というものだ。ぶっきらぼうにレイが声を掛ければ、振り返ったアザミが嬉しそうに微笑むので、レイは焦って目を逸らした。


そんな、会えて嬉しいみたいな。こっちまでつられてしまいそうで困る。とくとくと、走り出す鼓動が、アザミに聞かれてしまわないかと、レイは新たに芽生えた不安に落ち着く暇もない。


「なに、上手くいくさ」


そんなレイの様子には気にも留めず、アザミは嬉しそうな笑顔を浮かべたまま、さらりと言った。


そんな簡単な事ではないのは、ただの村民であるレイにも想像がつく。そして、その決意の重さも。

簡単に出来る事なら、とっくに誰かがやっているし、どちらが悪いかなんて、国や立場が違えばその分意見は分かれる、誰も自分に非があると認めたくないし、正義や理想だけで国は動かない。

それでも、両国の王子と王女は一歩を踏み出した。無理矢理にでも、その理想の為に。国と国との間の争いで、誰かの命が落とす事のない未来へ向かう為に。

レイも夢見た、争いのない未来の為に。


未来を見据えるアザミの瞳に、揺らぎはない。改めてアザミを遠くに感じ、レイは自分がとても小さく思えて、アザミの隣に行くのを躊躇ってしまう。



「それよりこっちだ」


そんなレイの葛藤など露知らず、アザミはレイを手招いた。促されるまま丘の端へと進むと、降るような星空の下、無数の小さな光が地上から空に向かって、ふわりふわりと飛んでくる。雪の結晶が空を舞うようで、その幻想的な光景に思わず笑みが零れてくる。毎年見ている筈だが、下から浮かび上がってくる光を見下ろすのは、レイにとっては初めての事だった。


「光の海の中にいるみたいだ…」


見辛いなとレイは眼帯を外し、左目を隠していた前髪を耳に掛けた。アザミはその様子に少し驚いたようだったが、また嬉しそうに表情を和らげた。

この一つ一つに、人々の平和への願いが込められている。そう思うと、未来が明るいもののように感じられて、その願いをアザミが叶えていくのかもしれないと思えば、アザミと共に見るこの光を、ちゃんと目に焼きつけておきたかった。


「…綺麗だ」

「うん」


アザミの呟きに、レイはそう頷いて振り返る。その先で、アザミが自分を見ている事に気がついた。その愛おしそうな眼差しに思わず胸が跳ね、レイは誤魔化すように視線を彷徨わせると、わざとその場にどっかりと腰を下ろした。


「で、でもあれだな!まさか王子様とこんな風に過ごすとは思わなかったな」

「…知っていたか?星祭りの夜、愛を誓わずともこの場所で二度逢えば、それは運命だと」


え、と反応しそうになったが、ニコニコ楽しそうに隣に座るアザミを見ていると、疑問が浮かんでくる。


「…なぁ、それアンタの作り話じゃないよな」

「バレたか」

「分かりやすい嘘つくなよ…」


まったく、と呆れ顔で言えば、アザミはそうだな、と首の後ろを撫でた。



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