5.地上作戦
「ヴォルフ、そちらの状況はどうだ?」
バルツァーの呼びかけに、ややあってからマイアーが応答した。
「予定通り管制室を制圧しました。機首を爆破した際に管制室職員1名が軽い怪我を負い、手当てをしています。それ以外は死傷者ありません」
「よし、では打ち合わせ通り後続部隊の着陸誘導を頼む。くれぐれも管制室の職員に手荒な真似はするなよ。俺は手筈どおりB、C中隊とともに総督府に向かう。連隊の残りの連中が着陸し空港内に展開したら君も総督府の方に来てくれ」
「了解」
貨客船オールドニュー号の横腹のハッチが開き、中から第一大隊の隊員達とともに歩兵戦闘車(IFV)“ワイルドキャット”が4台、うなりを上げながら降りてきた。別の貨客船“チェックメイト”号からも同じように黒づくめの男たちとIFVが吐き出される。バルツァーはIFVの1台によじ登ると車長用ハッチを叩いて言った。
「よし、前進!」
8台のIFVを先頭に、連隊戦闘団2個中隊総勢210名が駆け足で空港正門から出ていく。
9月11日、第一機動部隊はラムズフェルト大統領による再軍備宣言がテレビで放映された直後にネオ・ネプチューン宙域からアブロリモーゼへのワープを敢行した。そこでタイミングを合わせてラセンナからワープしてきたユングフラウ級重巡洋艦部隊と合流したところで、アブロリモーゼ警備艦隊に所属する哨戒艦5隻が警告を発しながら接近してくるのを感知した。第一機動部隊の降伏勧告にもかかわらず、指揮官が座乗しているとみられる1隻が発砲してきたためやむを得ず撃沈、それをみて残りの4隻は直ちに降伏した。
事前の打ち合わせ通り、制宙権を確保後直ちに宇宙艦隊陸戦隊によってハイパー・ワープ装置管制室の制圧作戦が実施された。陸戦隊とは普段警備艦隊の艦船に配置され、拿捕した不審船への臨検・突入任務にあたってきた特務分隊を中隊、大隊規模に再編成したものである。小型連絡艇に分乗した陸戦隊1個中隊がハイパー・ワープ装置の管制室に突入すると、ラセンナ政府職員である管制員達には事前に本国政府からの連絡があったとみえ、特に抵抗もなく管制権限の委譲がすすんだ。他方、アブロリモーゼ軌道上の宇宙港に対してはナイル級軽巡洋艦の1隻が強行接舷し、そこから陸戦隊1個大隊が突入して管制室を制圧した。
アブロリモーゼの地上制圧作戦はバルツァー大佐率いる陸軍第442遠征連隊戦闘団が担当している。連隊戦闘団とは通常の歩兵連隊を中核とし、装甲小隊や砲兵中隊、工兵中隊等の支援部隊を組み込んで編成したもので、師団などの上級単位から独立して戦闘を実施することが可能である。その442連隊は大気圏突入可能な20隻の小型民間貨客船を借り上げ、第一機動部隊より1時間程前にアブロリモーゼ宙域に到着していた。そのうち第一大隊を乗せた3隻が民間船を装って事前に地上宇宙港に侵入、第一機動部隊の行動開始に合わせて宇宙港を制圧する作戦であった。宇宙港制圧後、残りの17隻も順次着陸し地上に展開することになっている。しかしその地上作戦こそが、最大の問題だった。
先の大戦では、惑星上空の制宙権を敵に確保された時点で降伏した惑星が多かった。というのも、惑星上空を飛ぶ艦船からミサイル等で攻撃を受けた場合、それに対抗することはまず不可能だったからだ。その最たるものが地球で、惑星上空を占拠されてもなお降伏しなかったために数千の艦艇から発射された核ミサイルの猛撃を受け壊滅してしまった。帝国軍艦艇は今でも、叛乱惑星の制圧用にそうした対地ミサイルや対地攻撃用レーザー砲を装備している。
他方、テラフォードは戦後200年もの間帝国領への侵攻を想定してこなかったため、惑星攻撃用兵器の開発・保有を放棄してしまっていた。宇宙艦隊が装備している通常の対艦ミサイルを大気圏に突入させれば途中で燃え尽きてしまうし、対空レーザー砲も出力が十分ではなく地表に届くまでに大気によって著しく減衰してしまう。
それでも予めアブロリモーゼの侵攻が計画されていることを知っていれば、作戦第三課別室でも対地攻撃用兵器の開発を考えただろうが、ウォラフソンらがそれを知らされたのが1ヶ月前ではどだい無理な話である。その時まで作戦第三課別室ではネオ・ネプチューン宙域での防衛を前提に兵器の開発を行っていたのだから。これもラムズフェルト官邸の異常なまでの秘密主義の弊害といってよかった。
それでも帝国軍がそうした事情を知っているとは限らない。だから第一機動部隊は先程から盛んに、アブロリモーゼの各自治体やテレビ局などに向けて「テラフォード艦隊が制宙権を確保した。抵抗しなければ攻撃は加えない」との声明を流し続けている。




