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New Space Scrolls Ⅱ-名もなき者達の詩  作者: 乃木了一
第六章 ボルトハーゲン攻防戦
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3.戦闘序列:ボルトハーゲン

「敵艦隊がラ・カルロッタとのワープ・ポイント付近で合流しました。総数は約2万5千隻と思われます」

要塞フェルゼン内に設けられた豪華な軍議の間で、正面スクリーンの前に立ったベッケンバウアー帝国親衛宇宙艦隊幕僚本部長が説明している。

「それで? 奴らの戦闘態勢が整うのはいつだ? それまでにフェルゼン要塞の準備は間に合うのか?」

せっかちに質問をぶつけるのは帝国副宰相、この星系の帝令候でもあるボルトハーゲン公爵だ。ベッケンバウアーは恭しく頭を下げる。彼は帝国貴族の中でも随一の宇宙工学専門家で、惑星ボルトハーゲンに設けられた要塞の建設を直接指揮している。

「敵部隊の来襲は早くて2、3日後と思われます。このフェルゼン要塞に関しましては、現在完成度98%といったところでしょうか。ただいま最後の仕上げと物資の搬入を急ピッチで進めているところで、敵の来襲までには十分準備が整っておりましょう」

ベッケンバウアーの答えになお納得しきれない様子のボルトハーゲン公爵だったが、ホルスト帝国艦隊司令長官は鷹揚な態度で公爵の質問を遮る。

「良い良い、本部長。後ろの備えは重要だ。それより、我が艦隊はここボルトハーゲンに到着して1ヶ月半、既に十分準備が整っておる。敵の体制が整っていない今こそ、先制攻撃に打って出る好機ではないか? 戦いは勢いが肝心だぞ」

まるで歴戦の大将のような物言いにボルトハーゲンは苦虫を噛み潰した。

「殿下、おっしゃることはごもっともですが、敵を過小評価してはなりません。確かに艦艇数でいえば我らが優勢ですが、オーベルニュはオクシタン戦役で約3分の1の戦力で我が方の艦隊を打ち破った男です。ここはまず慎重に・・・・」

ボルトハーゲンの言葉に今度はホルストが顔を顰めた。

「叔父貴、分かっておる。儂はただ、兵道には勢いというものも大事だと述べたまでじゃ。まずはここで敵を迎え撃つ方針に異存はない」

ホルストは何事にも優柔不断な父ユリウスⅢ世を軽蔑していた。しかし父が何故そういう性格になったのかは理解しているつもりだ。その最も大きな理由は目の前にいる親族公爵家ボルトハーゲンそのものだ。ホルスト自身も次期皇太子即位のため、公爵の支援が必要なことは分かっている。だから彼のことを“叔父貴”などと呼んで持ち上げているのだ。(しかし我が皇太子即位の暁には・・・・)真っ先にこのボルトハーゲン家を排除せねばならぬ。それまでは表面上でもこやつを立てざるをえない。

ホルストは“初代皇帝バルトロメウスⅠ世の再来”と呼ばれることを熱望していた。だからこそ、ボルトハーゲン公爵とベッケンバウアー本部長が立てた“消極的”な作戦計画に不満なのだ。(ご先祖様は貝のように防備を固めて宇宙を手に入れた訳ではない)ボルトハーゲン防衛など、我が覇道の第一歩に過ぎない。ここで敵艦隊を撃破した後、直ちにオクシタンに逆侵攻をかけてやる。

(そしてその後には・・・・)テラフォードなどと名乗っている旧共和国連合残党の本拠地も征服し、真の意味で銀河を統一する。それこそが神君バルトロメウスⅠ世すら成し遂げられなかった本物の偉業だ。帝国臣民はその時こぞって俺を称賛し、後世の歴史家どもはこのホルスト皇帝を“中興の祖”などと言ってと褒めそやすだろう。その場面を想像して、ホルストは密かにうっとりした笑みを浮かべた。



そんなホルストの思惑とは無関係に、フェルゼンでの軍議は進んでいく。

「ラ・ファイエット男爵!」

「はっ」

「卿には先鋒として前線中央の守備を任せる」

「御意」

ベッケンバウアー幕僚本部長の指示に顔を下げて承服の意を示したラ・ファイエット男爵だったが、彼の耳に笑いを含んだひそひそ話が聞こえてきた。

「いつ裏切るかも分らんからな」

「ああ、男爵の弟はあのオクシタン“幕僚本部長”だったか」

ニコラ・ラ・ファイエット男爵は嘲る声に顔を伏せたまま両手を握りしめた。そんな周りの声を遮るように、ボルトハーゲン副宰相が口を開く。

「男爵、卿に我が艦隊から1,000隻を預けよう。しっかり励むが良い」

「ありがたき幸せ。必ずやご期待に沿いましょう」

「副宰相の懐の深さよ。“敵”の弟を信頼なさるとは」

わざと会議の参加者全員に聞こえるように話す者がいる。確かに裏切りの疑いが消えないラ・ファイエットに対し、与力として1,000隻を預けるとは随分と心の広い措置のようにみえる。しかしその実、この“与力”がラ・ファイエットの行動を監視するためのものであることは誰の目にも明らかであった。さらに背後のフェルゼン要塞もラ・ファイエット艦隊の行動を常に監視するはずだった。少しでも疑わしい行動をとれば背後から荷電粒子砲が飛んでくるだろう。


ベッケンバウアーの声に従ってスクリーン上に各艦隊の配置が表示されていく。ホルスト宇宙艦隊司令長官が率いる左翼艦隊の最前線はガンウルファ艦隊1,000隻を中心に、脇をネアン、レファンス両星系から派遣されてきた艦隊、及びオクシタン軍への参加を拒否しラ・カルロッタから脱出してきた貴族達の私兵合計600隻が固めることになることになった。

その後ろをホルスト長官(ボルドー大公)が帝令候として治めるボルドーに領地を持つ、いわゆるボルドー諸侯の艦隊4,000隻が固めている。司令官はクリーガー幕僚本部次長代理の妻であるイリーナの父、ヘルツェンバイン子爵である。ボルドーは伝統的に皇太子が領有する星系であるため様々な特権が与えられており、経済的には豊かな星だ。他方星系内の人口は10億人に過ぎず徴兵だけでは十分な兵力を供出できないため、兵力の中心は民間軍事会社(PMC)から短期契約で借り上げた部隊、つまり傭兵である。

各星系は皇帝令により人口に応じた艦艇を常備するよう定められている。その艦艇を使って皇帝臨席の軍事演習や、帝国中央政府から各帝令候に課される様々な役務提供命令、例えば辺境警備任務に就くことになっている。しかし実際には、規定通りの数の艦艇を常備している星系は少ない。年に1回の演習や数年に1回しか回ってこない役務の為に日頃から常備軍を保持するのは明らかに“カネの無駄”だからだ。PMCはこうした星系にカネと引き換えにプロの軍人と艦艇を提供する民間会社である。帝国貴族の間では必要に応じてこうしたPMCを雇うのは常識となっていた。

左翼艦隊の最後尾にはホルスト長官自ら率いる帝国親衛艦隊10,000隻が配置され、総数は15,600隻を数える。

他方、ボルトハーゲン副宰相が率いる右翼艦隊は総数14,300隻である。その最前線にはオクシタンの中央集権化に激しく抵抗して追放されたヘッセン子爵が自ら志願している。その指揮下にはボルトハーゲン公爵から貸与された1,000隻の艦艇が置かれ、その外側に星系コヴァルから派遣された300隻が配置されている。

ヘッセン艦隊の背後にはボルトハーゲン星系に領地を持つ諸侯艦隊3,000隻が配置され、最後尾には、副宰相自ら指揮する4,000隻のほか、ボルトハーゲンと盟友関係にあるシュベルツドルフの3,000隻、ナルヴィクの3,000隻が配置されることとなった。

左右両艦隊、大小の艦艇合わせて合計31,900隻の堂々たる布陣である。


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