2.裏切りの代価
「父上、それでは我々は戦い損ではありませんか!」
イェーリング艦隊旗艦“ナーハズィヒト”の提督私室で、子爵の長男ローベルトと次男カミルは呆然と父の顔を眺めた。彼らは今、総旗艦ジャンヌ・ダルクでの作戦会議から帰ってきた父からボルトハーゲンの惑星破壊準備について聞かされたところである。
「いくら此度の戦いに勝ったとしても、我が領地が破壊されては意味がありませんぞ」
「そんなことは分かっておる!」
ローベルトの言葉にイェーリングは苛立った表情で怒鳴りかけたが、外に声が漏れるのを恐れたのか、すぐに声をひそめる。
「だからといって、今の我らに何ができるのだ」
「父上、今からでも帝国側に戻った方がよろしいのではありませんか? 我々の3,000隻があれば帝国側が圧倒的に有利になりましょう?」
カミルの提案にイェーリングは溜息をつきながら頭を振った。
「お前は公爵の恐ろしさを知らん。彼は一度裏切った我らを絶対に許すことはないだろうて」
「しかし、我らの亡命は“偽装”で、オクシタン側の作戦計画を盗むためであったと弁明すれば許していただけるのではないでしょうか。実際に父上は作戦会議に出席されたわけですし・・・・」
食い下がるカミルの表情を半ばあきらめの表情で見つめながら、イェーリングはもう一度頭をふった。
「確かに公爵とて今は1隻でも艦艇が欲しい状況だろう。だからお前の言う“亡命理由”を受け入れて我らの帰参を認めてくださるかもしれん。表面上は、な。しかし、その後どうなると思う?」
カミルがポカンとした表情をするのに長男ローベルトが横から口を挟む。
「おそらく、公爵は我々が提供する“オクシタンの作戦計画”を聞き取ったうえで、実際の戦闘配置では我々を最前線に配置するでしょうな。すぐ後ろに督戦部隊を置いた上で一切の後退を認めず、最後の一兵まで我らを盾として使い潰すことになりましょう」
「そんな、そんな・・・・! 我らは徴集兵の平民どもではなく、誇り高きイェーリングですぞ!?」
「公爵にとっては、伯爵も子爵も単に駒の1つにすぎんさ。彼は自分以外の誰も信じない。そういうタイプの人物よ」
父のつぶやきにカミルはがっくりと肩を落とした。
「では、ここに残るとして、何か策はあるのですか?」
ローベルトの問いにイェーリングは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あのラ・ファイエットの小僧が公爵の惑星破壊計画を阻止すべく何か策を考えるそうだ」
「その内容は・・・・?」
「まだ分からん。今はそれが功を奏することを祈るしかあるまい」
ボルトハーゲンの民衆の安否ではなく、自らの権益のことしか頭にない父子は不安げな顔を見合わせた。




