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New Space Scrolls Ⅱ-名もなき者達の詩  作者: 乃木了一
第五章 それぞれの戦い
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1.理不尽な命令

帝国暦203年2月1日、ドゥルーヴ・ヴァルマ大佐はカロディール星系防衛艦隊旗艦ランヴィールの艦橋の窓から指揮下にある1,100隻が急ピッチで出港準備を進めているのを眺めていた。2週間程前、帝国軍本部はブランデンブルグ辺境伯に対し、旧共和国連合領内の軍事力行使について全権を与えることを決定した。そして3日前、辺境伯からカロディールに対し、使用可能な艦艇は全てロレンツォに集結させるよう命令が下ったのだ。

「それってつまり、辺境伯閣下は我がカロディール星系の防衛を放棄した、ということですよね、司令官?」傍らに立ったバクリシュナンが深刻そうな顔で溜息をつく。

「しっ、静かにしろ、幕僚長。兵達に聞かれたらどうする?」

「でも、やっぱり不公平じゃないですか」

バクリシュナンが言うとおりだ。カロディールの帝令候ベーメン男爵は他の辺境星系領主と同じく、任地の経営は代官に任せる所謂“不在領主”だが、ただ1点、他の領主と異なるのは軍事力の整備には熱心だったということだ。辺境地ゆえに宙族の標的とされやすいということもあるが、後背地に有数の水素生産拠点であるラカオ星系を抱えているという事情もあった。そのため、4.6億人の小規模星系ながら定数一杯の約1,000隻の艦艇を保有しているのである。

例えば31億人の人口を持つ隣接星系のロレンツォであれば、“一朝有事の際に各貴族がその格式に応じて私兵艦隊を提供し事にあたる”という皇帝陛下との盟約に従えば、本来は常時7,000隻以上の艦艇を配備していなくてはならないはずだ。しかし200年以上平和な時代が続いたこともあり、大抵の星系は定数の半分~3分の1程度の艦艇しか保有していない。経済的に非効率だからだ。実際にロレンツォが実戦配備しているのは3,000隻程度に過ぎず、そのため今になって防衛に不安を感じ、カロディール艦隊を当てにしてきたというわけだ。

「兵たちの間でもそうとう不安と不満がたまっていますよ」

無理もない。約1,000隻の艦艇には約5万人の将兵が乗艦しているが、ほぼ全員がカロディールで徴兵された者達だ。その者達がカロディールにいる家族を置いてロレンツォで戦うことを命じられて、士気の上がろうはずもない。

「なに、テラフォードの連中を撃退した後はすぐに戻ってこれるさ・・・・」

自分でも思っていない言葉は語尾に力がこもらない。ヴァルマ自身、家族をカロディールに置いていくのだ。ロレンツォ集結命令が出てから慌てて家族を他の星系に疎開させようとしたが、既に脱出便は予約が一杯でチケットを確保できなかった。それだけでなく、1ヶ月程前からこのカロディール星系にもテラフォード艦隊が出没しており、それらによって民間船が撃沈されたとの報告もある。つまり航路の安全は保証できなかった。

「・・・・とにかく、命令は命令だ。明日の出航時刻までに間に合うよう、準備を急がせろ」

ヴァルマはもう一度艦橋の窓から外を眺めた。外宇宙はどこまでも暗く、まるで彼らの将来を予言しているかのようだった。


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