✒ 海の碧、夕の赫 3
15時を過ぎに魚介類料理を食べて堪能したオレは、準備をしてくれたキノコン達に御礼を言った後、マオキノと一緒に砂浜を歩いて散歩をした。
海岸沿いまで歩いたオレの耳にバシャバシャと言う水音が聞こえて来た。
マオ
「 ──何の音だろうな?
誰かが溺れてるのかな? 」
マオキノ
「 マオ様、鳴き声が聞こえますエリ。
とても弱々しい鳴き声ですエリ 」
マオ
「 鳴き声?!
マオキノ、何処から聞こえて来るんだ?
弱ってるなら助けないとだ! 」
マオキノ
「 マオ様…。
鳴き声は此方から聞こえて来ますエリ。
御案内しますエリ 」
マオキノは弱々しい鳴き声がする場所へオレを案内してくれる。
足場の悪い海岸沿いをマオキノは器用に移動する。
オレはマオキノに遅れを取らないように足場が悪くて慣れない海岸沿いを必死で移動した。
マオキノ
「 マオ様、彼処ですエリ 」
マオ
「 海水が赤い??
何でだ?
赤潮とか赤いプランクトン──とかが多いのかな? 」
マオキノ
「 マオ様、あの血は海賊の仕業ですエリ 」
マオ
「 海賊?
島国に海賊なんているのか? 」
マオキノ
「 この島国から少し離れた小島が海賊の住み処となってますエリ 」
マオ
「 小島なんてあるんだな。
何で知ってるんだよ? 」
マオキノ
「 キノコンの情報力の賜物ですエリ。
マオ様、海賊を捕まえて連れ帰れば、セロ様に喜んでいただけますエリ! 」
マオ
「 喜ぶかな? 」
マオキノ
「 海賊は宝を溜め込んでますエリ。
海賊から小島を奪ってしまえば、セロ様のお役に立てますエリ 」
マオ
「 海賊に里を襲いに来られても困るし、浜辺に作った工房を壊されても困るもんな。
よし──、食後の運動がてら一致ょ、海賊共を締め上げてやるか! 」
マオキノ
「 はいですエリ♪ 」
マオ
「 海賊の相手はオレがするから、マオキノは弱々しい鳴き声の主を見付けて保護してくれないかな。
オレじゃあ、傷の手当ては出来ないし… 」
マオキノ
「 分かりましたエリ。
お任せくださいませエリ。
僕がバッチリ保護しますエリ 」
マオ
「 流石、マオキノだな!
頼りになるよ! 」
オレはマオキノと2手に分かれて行動する事にした。
海賊は全部で8名だ。
8名共海賊とは思えないような物騒な武器を所持している。
…………何か、オレの知ってる海賊と違うじゃん。
大陸を旅していた時にも海賊を相手に戦った事はあるけど、あんなに武装はしてなかったと思う。
もしかしなくても山賊よりも武装してないか?
どんなに武装をしていても所詮は人間だ。
セロと共に生きる人生を選んで人間である事を止めたオレの相手にしては役不足だ。
何せ現在、オレの剣術の師匠をしてくれているのはセロだ。
ガッツリと武装している海賊達にオレが負ける事は万が一も無い。
オレは腰に付けている鞘から愛刀を抜いた。
まぁ、素手でも良いんだけど、頭蓋骨を砕いちゃったら流石にマオキノでも治せないと思うんだよな。
そんな訳で、オレは愛刀の背だけを使って峰打ちで海賊達を気絶させる事にした。
マオキノ
「 ──見付けたエリ。
お前が鳴き声の主エリね。
…………………………容赦がないエリ。
お前は傷口が浅いから助かるエリよ 」
マオキノは特効薬でもある “ キノコンじる ” を可愛い手からニュル──と出すと、怪我をしている箇所へ “ キノコンじる ” を優しく丁寧に塗り込んだ。
マオキノ
「 これでお前の傷は治るエリよ。
…………お前の家族──仲間は手遅れエリね。
此処に死骸を放置して行くわけにはいかないエリ 」
鳴き声の主を抱っこしたマオキノは、既に息絶えている血塗れの死骸を回収する。
流れ出た血液で海水は真っ赤に染まっている。
死骸が転がっていた場所には、血で汚れた銛やら刀が落ちている。
マオキノ
「 ………………許せないエリ…。
人間は生きる価値の無い下等生物エリ♥️ 」
マオキノの可愛い口からは涎が垂れていた。
抱っこして保護している生物に対して涎を垂らしている訳ではなかった。
マオキノの視線の先にあるのは島国から離れた場所にある離れ小島だった。
マオは愛刀を軽々と振りながら、武器を構えて向かって来る8名の海賊達を相手に食後の運動をしていた。
軽快なステップで海賊達の攻撃を余裕でかわしては、武器を握っている利き腕や片足を斬っていた。
海賊なんて悪事を働いている8名に対して、マオは同情心を抱いたりもしなければ、罪悪感も全く抱いたりしない。
≪ エルゼシア大陸 ≫の≪ 都 ≫でセロフィートと運命的な出逢いを果す以前から、マオは守護衛士として既に人間を何人も殺している。
依頼人の安全を衛る為に盗賊や山賊、堕ちた冒険者や依頼人に危害を加えて守護衛士としての信頼を失墜させようとする守護衛士の風上にもおけない同業者を殺し、依頼人を救った事は何度もあった。
セロフィートと大陸内を旅をしている間も覚えられない程の数の悪者達を殺して来ている。
そんなマオが、悪人の命を奪う事に対して後悔の念を抱く訳がなかった。
今回は殺さずに生きたままセロフィートの元へ連行する事を決めた為、殺さずに手加減をしているに過ぎなかった。
マオ
「 ──こんなもんかな?
手足が無ければ海賊も廃業だな?
マオキノ──、コイツ等を縛る縄とか持ってないか? 」
マオキノの分身体
「 マオ様、マオキノなら離れ小島に行ってますエリ 」
マオ
「 は?
え?
離れ小島??
でも、彼処は海賊の住み処なんじゃないのか? 」
マオキノの分身体
「 はいですエリ。
マオキノ様は離れ小島を拠点にしている海賊達を殲滅しに行かれましたエリ 」
マオ
「 えぇ~~~……。
マオキノ~~~、それはセロに任せるんじゃなかったのかよ…… 」
マオが両肩を落としている間、マオキノの分身体達はマオに痛め付けられた海賊達を縄で縛り始めた。
喚かれると煩いとしてマオキノの分身体は小汚なくて汚臭のキツい布を海賊達の口の中へ押し入れては、口を閉じさせた。
マオキノの分身体
「 マオ様、マオキノが保護した生物を預かってますエリ 」
マオ
「 生きてるんだ? 」
マオキノの分身体
「 はいですエリ。
幸いにも傷が浅かったですエリ。
“ キノコンじる ” を傷口へ塗り込んだので完治しますエリ 」
マオ
「 そっか……。
良かったよ。
他に無事なのは? 」
マオキノの分身体
「 居ませんでしたエリ。
手遅れでしたエリ……。
既に息を引き取ってましたエリ。
死骸はマオキノが回収しましたエリ 」
マオ
「 そっか……。
1体だけなんだな… 」
マオキノが保護してくれた生物は、〈 創造主の館 〉の中で見た事がある生物だった。
男のロマン──首長海竜じゃないかな??
正式名称は知らないけど、海水の中を悠々と泳いでいた姿を見た事があるんだ!!
こんな小さな子供は見た事ないけど、体を見る限り絶っっっ対に首長海竜だ!!
マオ
「 絶滅したんじゃないのよな?
島国の海で泳いでるのかな? 」
マオキノの分身体
「 僕には分かりませんエリ。
セロ様に御聞きした方が早いですエリ 」
マオ
「 そうだな。
長屋に戻るよ。
マオキノは待ってなくて大丈夫かな? 」
マオキノの分身体
「 大丈夫ですエリ。
マオキノは離れ小島を鎮圧して制圧したら帰って来ますエリ 」
マオ
「 そ、そっか…。
じゃあ、海賊を運んで長屋へ戻ろう 」
マオキノの分身体
「 はいですエリ 」
海賊の住み処がある離れ小島へ勝手に行ってしまったマオキノを待つ事なく、オレはマオキノの分身体と一緒に里にある長屋へ帰る事にした。




