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カリカリ・から揚げ・カエル肉(裏編)

後編からの続きです。

 ☀☀☀


「あ、教授。この前はカエル肉、ありがとうございます」


 翌日。

 研究室で田宮と顔を合わせたうららは、挨拶して頭を下げた。


「いえいえ。気に入ってもらえたのなら何よりです。どんなふうに調理したんです?」

「から揚げです……といっても、実際に作ったのは私じゃないんですが」

「おや? そうなんですか」

「はい、飯塚研究室の鳥見川氷彗さんって修士の学生で……」

「あぁ! 例の学生ですか」


 説明を続ける前に、割って入られる。しかも、かなりの食い付きだ。

 うららは違和感を覚えて首を傾げた。


「知ってるんですか?」

「えぇ、そりゃもう。飯塚君にすごく自慢されましたからね。期待の新星を引き抜いたぞ、と。確か、学士の論文が昨年学会で若手賞を受賞して……今は、“くさわけプログラム”の研究員をしているんですよね?」


 くさわけプログラムとは、文部科学省直轄の国立研究開発法人と、嘱託契約を結んで研究を行う事業で、採択されれば数千万円の研究費が用意される。その競争は、学振よりもかなり熾烈で、採択率は10%にも満たない。


 それを、氷彗は突破していた。


 つらつらと流れる輝かしい業績の数々を耳にすると、うららの中で何か黒いものが顔を出す。それは油断していると、これまで培ってきた彼女への印象を塗りつぶしてしまいそうで、全身に怖気が走った。


「そう……だったんですか」


 うららはやっとのことで、それしか口に出来なかった。


 ☀☀☀ 


 その日の夜、うららは研究室に残らず、下宿先へと帰った。

 どうにも集中できず、作業が手につかなかったからだ。

 ベッドにもたれ、ぼんやりと蛍光灯を眺めていると、ポケットのスマホが振動する。きっと、氷彗だろう。

 今日の夜食のリクエストを聞いてくれているはずだ。

 そう予想しながらも、うららは画面を開けなかった。


 正直、うららと氷彗とでは、業績も評価も雲泥の差だ。

 それまで、氷彗のことは年下の友達として、可愛い後輩として、純粋な親しみを抱いていたのに。それが今はとてつもなく遠い存在に思えて、心の天秤が歪に傾く。傾けた黒い感情を直視すれば、あまりにあっけなくて、つまらなくて、唇がひきつった。


 昨日は、ありがとうと言えたのに——

 今日は、みじめに嫉妬している——


 そんな自分が心の底から情けなかった。

 両肩に自己嫌悪と虚しさがのしかかり、さらに体が沈んでいく。


「あ~、本当ちっちゃいな……私って」


 吐き出した声は、自分でも分かるくらいカリカリに渇いていた。

ありがとうございました。

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