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第2話-前編

◆第二話◆


あの日目にした光景が

頭から離れなくて

時々無性に怖くなる


繰り返してはいけない

もう二度と



キズツイタノハ、ダレ?

 東の国の宮廷魔術師であるナディアの元に助けを求めてきたのは、血だらけになった金髪の少女を抱えた、この国の若き国王だった。



「これは…ひどい」

「ナディア、頼む!クロエを!」



 彼女は急いで治療室に運んで容態を診る。ぐったりとした少女の右目からは、ひどい出血の跡があり、腰まで垂れる向日葵色の髪は血で赤黒く染まっていた。


 正直生きているかわからないほどだった。

 思わず目を逸らしたくなるが、医者でもある自分にそんなことは許されない。




「……眼球が抉りとられてる。普通ならショック死しててもおかしくない状態です」

「助からないのか?!」

「エインセルの魔力は眼そのものなんです。なんとか息をしてるのは、この娘の魔力が相当高いから。でも……体力が持つかどうか」


 非常に危険な状態だと告げた。



「治癒術は!?」

「治癒術は代謝をあげて本来もってる自然治癒力を高めるから、あまり変わらないわ。もちろんかけてます」


 彼は少女の手を力強く握って唇を噛んだ。


「クロエを頼む…!」

「最善を尽くします」


 そう言うと彼は名残惜しそうに少女の手を離し、運ばれて行くのをただ見送っていた。


 ***


 あのまま目を覚まさないかもしれないと思った。

 今にも消えてしまいそうなキミを、二度と見たくない。




 今、目の前にいる少女は俯いたままで、あの時と同じで消えてしまいそうだった。

 なるべく音を立てないように近づいた。


「クロエ」

「…!!」


 触れた肩が大きく跳ねた。

 ウィリアムはいまだに顔を上げないクロエに構わず引き寄せた。束ねられていない長い金髪がふわりと舞う。



「ウィル!」

「お前が強いことなんて知ってる。現に俺はお前に勝てる気がしないな。だけど…」


 苦笑混じりに言う、その声とは逆に腕に力が入る。



「もう嫌なんだよ。お前が傷つくのは…!もっと……自分を大事にしてくれ」

「っ…」


 クロエは目の奥が熱くなったのを感じた。


 他人にここまで言われた事なんてなかった。

 身を案じてくれる誰かが今の自分にいる――その一言で、一気に脱力した。





 身も心もボロボロだったあの時、あたしを包んだ温もりにひどく安心した。


 でも………

 大切な者すら守れない自分には、それに身を委ねる資格は――


 ―――ない






「………離して」

「いやだ」

「っ…お願い……」

「離したら逃げる」

「逃げない、からっ!」


 消えかかる声でそう言うと、腕に込められた力が緩んだ。



「もう……どうしていいかわからない」

「うん」

「半年近くも経つのに……時間なんて長いって感じたことないのに…!!」



 糸が切れたように涙が次々と出てくる。

 悲しいのか悔しいのかわからなくて。

 自分を閉じ込めている彼の服を掴む。

 頭を撫でてくれるその手が、固まった本音を溶かしていく。



「大切なものを守れなかった。力も無くなって…探しても見つからなくて……」




 なんで生きてるのかわからない

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