最終話-後編
突然ウィリアムに遭遇し、強引に執務室へ連れてこられた。かなりの力で閉めたのか扉が閉じる音がいやに響く。
結論。
ウィリアムは怒っている。
当たり前だ。魔術を使ってまで姿を見せなかったから。
「あ、あの!逃げたとかじゃ…なくて……」
自ら沈黙を破いたが、それはどんどん尻窄みになる。あーだの、うーだの喃語しか出てこない。
「ごめ__」
「悪かったな」
言わなければと思った言葉は、彼によって遮られた。顔をあげると、ウィリアムは片手で額を押さえながらばつの悪そうな顔をしていた。
「あーもう、ほんとに。子供みたいなことしてさ。心配してくれたの無下にして」
声色は複雑だが、話し方はいつも通りで。
いつも通りの彼の顔に安心したら思わずへなへなと座り込んだ。
驚いて寄ってきたウィリアムが、一瞬躊躇った手を肩に置いた。
「お、おい。あの状況はどう考えても俺が悪いんだからな?」
「___かった…」
「え?」
「よかった……また…見放されると思った……」
気づけば脚の力が抜けてその場にへたり込み、うわ言のようにそう呟いていた。
胸の中で渦巻いていた重く濁った何かが、体から抜け落ちたように軽くなる。
同時に暖かい涙が頬を伝った。
そうだ。
自分で重ねてしまってたんだ。
母に捨てられ故郷を追い出されたあの時と。
家族を失ったあの時と。
最近自分は泣いてばかりだ。
情けない。家族がいないとこんなにも不安定で、自分の感情に戸惑って。
涙の止め方さえもわからない。膝に落ちる自分の涙だけをぼうっと眺めていると、包み込むように腕が回された。
「見放したりしない……できるわけない」
頭越しで聴こえた掠れた声にまた安心して、クロエは背中の服をすがるように掴んだ。
「ただの国王だなんて思ったこと……ない」
肩に顔を埋めたので声がくぐもったが、構わず続ける。
「あたしにとってウィルは……大事な存在よ。真っ先に思い出すのは肩書きじゃない。意地悪で腹黒だけど、優しく、て…」
彼が腕の力を強めたことで、届いたことが確認できた。
「でも、後から思い出すの。あなたは王族だし、あたしはエインセルの混血だって」
「………」
「頭が勝手に反応して……先に言葉が出てた」
涙がしっとり肩を濡らし始めた。
声が詰まって息が苦しいのを、掴んだ服を握りしめることによって耐える。
「ウィルがそういうの嫌いって知ってて、言ってた。最低よね…」
そう呟くと、腕の拘束から力が抜けていった。さすがに幻滅しただろう。
クロエもゆっくりと手を離した。
「……最低なのは俺の方だ。お前のこと知ってたのに、思い出させるようなこと」
「そんなことない!」
毎回酷いことを言っているのはこっちのほうだ。
「嫌なこと言ってごめんなさい。あの……ね」
「うん?」
「仲直りしてくれる?」
「あぁ。ごめんな」
床に座ったまま、微笑みあった。
その笑顔が見たかった。安心するから。
「……ほんと、見放されないでよかったわ」
すっと立ち上がってクロエは涙を拭った。
もう溢れては来ない。大丈夫。
「あたし……ウィリアムにだけは嫌われたくないみたい」
にぃと笑って後ろを振り向くと、トンと頭に何かが当たって視界が暗くなる。
「それって……俺のこと好きなのか?」
頭の上から降ってきた言葉で、胸元に抱き寄せられていることを知る。
後頭部に回された手によって顔は上げられなかった。力加減を間違えている。
「はぁ?飛躍しすぎよ!」
「だってただの国王って思ってないんだろ?」
「ちょ、自惚れないでよ…」
「大事な存在って、どれくらい?あそこまで言われると、さすがに自惚れたい」
確認するかのように矢継ぎ早に質問をされる。
こいつ……。
調子に乗って耳元で囁くな。
「かっ、家族!とか、そんな感じ!!」
「じゃあ俺はその “とか” の中に、『それ以上』があることを期待していいのか?」
「まだそこまで言ってないじゃない!!」
「『まだ』?」
あ、詰んだ。
腕の中でジタバタしていると、頭と腰に回された手がするすると背中を這い、抱きすくめられて踵が少しだけ浮いた。思った以上に身体が密着して恥ずかしい。
「今日はこれくらいにするか。素直なクロエが見れたからな」
「こっちは仲直りできるかすごい不安だったんだから!」
「それはこっちの台詞だ!『しばらく』って言ったら1ヶ月もほっとかれて、どうにかなりそうだったんだからな」
「だ、だからそれは!……!?」
不機嫌にそう言ったウィリアムに弁解すべく、勢い良く顔を挙げたら、柔らかい何かが唇に降ってきた。
それが何かくらいは瞬時で思い当たり、逃れようとしても、巻きついた腕がそれを許さずに何度も降ってくる。ゆっくりとしたそれは触れるだけで心地が良い。
クロエは恥ずかしさのあまりぎゅっと目を閉じた。
「!…はぁ」
長い時間ではなかったはずだが、呼吸を止めてしまったクロエの息が苦しくなる手前で唇が離れた。仕掛けた本人は微塵も呼吸が乱れていない。
「ここまでって、言ったじゃない…」
「何がどこまでとは言ってない。けど、ごめん」
「な、なんで謝る、のよ……」
「それは期待していいってこと?」
「!!?」
ボフンと聴こえてきそうなほどに頭が沸騰し、頬がさらに紅潮した。
そんなクロエを楽しそうに見て、笑いながら「俺も回りくどいな」とはにかむと、ウィリアムはクロエの耳元に口を寄せた。
「……好きだ。」
種族も肩書きも関係ない。
感情が抑えられないほどに。
目の前の大切な君が。
おわり
ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。
この世の流行を無視するテイストですが
こういう世界観が好きです。
読んでくださった全ての皆様ありがとうございました。
最終話で登場させたモニカに焦点を当てた話も
いつか公開できたら幸いです。
Twitterでもいろいろ呟いております。
【@ichi_natsu_1111】
▽この作品はお題サイト【確かに恋だった】からお借りしました。
(強がってばかりの私5題)
(主従関係で主の片思い5題/主)
▽有志企画
iらんどマニアック会社幻想課 企画参加作品




