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目が覚めた

「今日、暇だろ?」

随分な言い草だ。

こんなことを言うのは、最上川しかない。

天上川が最近毒を吐かなくなったけど、それはヤツに移動しただけじゃないのか。

仕事が終わって、大きな伸びをしている時に電話はかかってきた。


「店で待っているから」

そう言って、電話は切れた。


まあ、今日は飲茶家飯盗に行くつもりだったけど。

会社を出ると、天上川が後ろから走ってきた。


あ、そうか。この二人、今やニコイチだったな。


その時、電話がなった。

「あ、千丈川? 私、たたら!」

携帯電話ですから知っていますよ。いちいち叫ばなくても。

「今朝、薫子の目が覚めたって! 寝ていただけだったのに、随分衰弱していたみたいで……。今やっと回復して落ち着いたっておばさんが……」

「おお! それは良かった! あ、明日行くわ、病院」

「了解! じゃ、私も行く」

そう言って電話は切れた。

その瞬間、また電話がなった。

「あの……千丈川さんの携帯ですか?」

おばさんだ。

「はい、薫子さん目が覚めたそうですね。今、たたらから連絡があって……」


「あら、そう。たたらちゃん、心配して、毎日数時間おきに連絡くれていたからねぇ」

正直迷惑だっただろうな、おばさん。

「でも、だったら話は早いわ。今、落ち着いています。ご心配おかけしましたね」

「いえ、良かったです。あ、明日そちらに伺います」

「分かりました、では車を回しておきます。いつもの時間でよろしいですね?」

「いつもすみません。それでお願いします」


電話を切った。


「葛川さん、元気になったのですか?」

天上川が聞いてきた。

「ああ、そう言えば、何にも話していなかったな。店についたら全部話すよ」


店についたら、既に最上川はカウンターにいた。

マスターと話をしている。


マスターが俺たちに気付いた。

「いらっしゃい」

最上川を真ん中に二人は座った。


「いきなりなんだけどさ……」

「何だよ?」

「明日、ここでパーティーをしようと思っているんだ」


思わず天上川を見た。

天上川はわけがわからない様子で、激しく首を横に振っている。

「何のパーティーだ?」

「僕達の婚約パーティー」

もう一度天上川を見る。

あ、ダメだ。完全に真っ白になっている。

「あ、と言っても正式なものではなくって、予行練習ってところかな。テン、嫌かい?」

とりあえず、天上川は首を横に降っているが、言葉が出てこないようだ。


「天上川のご両親には?」

「え、そんなのとっくに済ませているよ。出逢って一週間ってところだったかな。僕は絶対に彼女と結婚するって決めていたから。テンが僕に愛想尽かさないか、様子を見ていただけだよ。それにテンだって、僕の実家にも施設にもしょっちゅう一緒に行ってるから、周りも”そうなんだろうな”って思っているよ」


コイツ、すげぇ。中学の時から本当にすごいやつだと思っていたが、本気でスゲェ。


「そういうことか。おお! これはめでたいな!」

俺もテンションが上がる。

「でもな……」

「ん? 用事でも?」


「明日は病院へ行くんだ。もうおばさんともたたらとも約束をした」

「で、何時頃帰ってくるんだい?」

「多分、夕方には帰ってこれると思うけど……」

「だったら十分だよ。こっちは八時から始める予定だし」

マスターは頷いている。


「了解、八時だな。それまでには絶対に帰ってくるよ。ここに来ればいいんだな?」

「ま、そういうこと。ところで薫子さんはどう?」


俺は、今朝目覚めるまでの経緯を話した。


「そうか……。意識が戻って本当に良かったな。君の貢献は大きいと思うよ」

「いや、俺なんて……」

「またそんなことを言う。悪い癖だよ。君の。君の周りには結構君のことを頼りにしている人は結構沢山いるんだよ」


本当にヤツはいい男だ。どんな時も人に対しての心遣いを忘れない。そして、さり気なく応援してくれる。

天上川もいい子だが、この男と結婚できることは本当にラッキーなことだと男の俺が本気で思う。


天上川はマスターが入れてくれた水を一気に飲んで、少し落ち着いた様子だった。


「そういうことだから、明日はよろしく」

「了解、天井川良かったな」


「私、何にも聞かされていない。準備だって何にも……」


「大丈夫だよ、準備は全部済ませてある。ヒロインは明日の八時にここに来てくれたらいいだけだよ」

明るく笑う最上川。


……ヒロイン

一瞬、ドキッとした。

この響きにちょっと神経質になっているのかな。

俺にとってのヒロインは香子ちゃんだった。

彼女となら一生一緒にいたいと思った。

ま、今はそんなことを考えている場合じゃないな。

彼女には悪いけど、今日は彼女のことを考えるのをやめよう。


明日は目覚めた薫子さんを全力で喜び、結婚する最上川と天井川を全力で祝福する日だ。香子ちゃんも許してくれるだろう。


それから、三人で食事をして家に帰った。


「明日は忙しくなりそうだ」

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