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この人生、採点中  作者: 夜凪 灯
第一章 『人生としては面白いです』

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7/7

Review7 評価は変動します

 眠い。


 とにかく眠かった。


 原因は分かっている。


 レビューだ。


 昨夜。


 正確には今朝か。


 午前一時を過ぎても眠れなかった。


 既読。


 回答保留中。


 意味不明な文字列が頭の中をぐるぐる回り続けた結果、睡眠時間は三時間だった。


 高瀬はソファに座りながらスマホを開く。


 レビュー画面。


 最近見すぎている気がする。


 その時。


 通知が届いた。


【あなたへのレビューが更新されました】


「もういいって……」


 半ば諦めながら開く。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★☆☆☆


睡眠時間三時間。


継続的な改善が必要です。


【End】


━━━━━━━━━━━━


「お前保健室の先生か」


 思わずツッコむ。


 レビューは返事をしない。


 だが。


 少しだけ腹が立った。


 高瀬はため息を吐きながら評価欄を開く。


 現在の評価。


 2.8。


 いつも通り。


 のはずだった。


 画面が更新される。


【現在の評価】


 2.7


「……は?」


 高瀬は瞬きを繰り返した。


 見間違いではない。


 もう一度見る。


 2.7。


 変わらない。


「下がった?」


 初めてだった。


 今までずっと2.8だった評価が。


 初めて動いた。


 高瀬は立ち上がる。


「なんでだよ」


 昨日何かしたか。


 外出した。


 人を数えた。


 レビューに質問した。


 既読が付いた。


 どれだ。


 どれが原因だ。


 その時。


 通知が届く。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★☆☆


評価は変動します。


【End】


━━━━━━━━━━━━


「知ってる」


 高瀬は即座に言い返した。


「今見た」


 当然返事はない。


 だが。


 なんとなく馬鹿にされた気がした。


 高瀬はその日一日。


 評価を戻そうとした。


 コンビニの前で落ちていた空き缶を拾う。


 2.7。


 親にLINEを送る。


 2.7。


 近所の神社にお参りする。


 2.7。


「何なんだよ!」


 思わず声が出る。


 評価は変わらない。


 まるで見透かされているみたいだった。


 夕方。


 疲れ果てた高瀬は帰宅した。


 ソファへ倒れ込む。


 そしてスマホを見る。


 通知。


 もう驚かない自分が少し嫌だった。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★★


興味深い行動でした。


【End】


━━━━━━━━━━━━


「どれだよ」


 今日一日全部か。


 それとも一つか。


 全く分からない。


 続けてもう一件。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★☆


評価を上げようとしている時点で、

評価は上がりません。


高瀬悠介は、

今日一日を評価のために使いました。


ですが。


人生は評価のために存在しているわけではありません。


少なくとも、

本日はそうでした。


【End】


━━━━━━━━━━━━


 高瀬は黙った。


 少しだけ。


 言い返せなかった。


 その時だった。


 レビューの下に。


 もう一文追加された。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★☆


ちなみに。


あなたが最後に

「評価」を気にしていたのは、

三年前です。


【End】


━━━━━━━━━━━━


「……三年前?」


 高瀬は眉をひそめた。


 三年前。


 教師時代。


 中学三年。


 卒業式。


 何かが引っかかる。


 その時。


 レビューが更新された。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★☆


忘れていると思っていました。


【End】


━━━━━━━━━━━━


「何をだよ……」


 そう呟いた瞬間だった。


 脳裏に。


 夕日に染まる教室が浮かんだ。


 窓際。


 笑っている女子生徒。


 一瞬。


 本当に一瞬だけ。


 名前が浮かぶ。


 藤原美咲。


 高瀬の呼吸が止まった。


 違う。


 忘れていたわけじゃない。


 思い出さないようにしていただけだ。


 胸の奥が少し痛む。


 理由は分からない。


 いや。


 本当は分かっている。


 分かっているから考えたくない。


 高瀬は無意識にスマホを伏せた。


 部屋が静かになる。


 エアコンの音だけが聞こえる。


 それなのに。


 耳の奥では。


 あの日の声だけが残っていた。


『先生』


『ありがとうございました』


 高瀬は目を閉じた。


「なんで今なんだよ……」


 返事はない。


 だが。


 スマホだけが静かに光った。


━━━━━━━━━━━━


【Review】


★★★★☆


忘れていると思っていました。


【End】


━━━━━━━━━━━━

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