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14 怪獣リエゾン現る

「Maïka, tu joues la princesse.」

(舞花はプリンセスを演じてね)


クロエ大先生から告げられた。


まさかの主役。


いつも主演を張っている彼女が、なぜこのタイミングで私を?

戸惑う私をよそに、クロエの表情は真剣だった。

からかいの色は一切ない。


……これは断れないやつだ。


「D'accord.」(了解)

「Parfait.」


満点の笑みが返ってきた。


―――


シンデレラの人形劇も板についてきた頃、私はソワレの出し物の準備に取りかかった。

クロエ大先生はお姫様がお好き。

ならば、演目は「かぐや姫」に勝手に決定。


まずは記憶を頼りに、日本語で台本を書いてみる。


……あれ?


求婚者、何人だっけ。

誰が何を持ってきたんだっけ。


記憶がふわふわしている。


まあ、ここは異世界。

間違っていたとて誰にも怒られない。


問題はそこじゃない。


これ、どうやって伝えよう?


現在の私が出来ることは、単語を並べることだけ。

語彙は300個程度。

しかも、怪しい。


1文ですら苦労している人が、ましてや物語をまるごと話すことが出来るのだろうか――。

いや、出来ない。



台本は他の人に書いてもらうとしても、あらすじの伝えられるのは私しかない。

何か、作戦を練らなければ――。


―――


今日の授業は時計だ。


「Quelle heure est-il ?」

(今、何時ですか?)


「heure」が「時」。

「Quelle」が「どの」。

……ここまではいい。


そこで残念なお知らせが入る。

名詞が女性形か男性形で形が変わるらしい。

「Quelle」は女性形、「Quel」が男性形だ。

そこまで区別しなくても!?


さらに「Quelle heure」が魔法の力で「ケルー」に!


......すみません、真面目に説明します。


これは「リエゾン」といって、単語同士がくっつく現象。

子音+母音 または 母音同士 で起こる。


隣に来たら即カップル成立。


しかも「Quelle heure」の場合、無音Hの壁を越えて、ゴールイン。


ちなみに「est-il」も「エ・イル」でなくて、「エティル」。

時間を聞くのに2回もリエゾン。


さすがは愛の国、フランス。

カップルだらけ。



先生の口からと聞くと優雅なのに

私がいうと怪獣の名前っぽく聞こえる。

怨念がこもっているのかもしれない。


強敵「リエゾン」。



「Maïka, le français est une musique.」

(フランス語は音楽だ)

「Il ne faut pas couper la musique.」

(音楽を切ってはいけない)


アントワーヌ先生が笑顔で圧をかけて、授業は終わった。


―――


授業の後に時間をもらい、

私は得意気に取り出した――。


紙芝居。


これを作るため、有り余る自由時間をすべて費やした。

言葉に頼らず、伝える。

その一心で描いた。

裏には当然、単語のカンペ付き。

これで乗り切れる

...はずだ。


「むかしむかし… 」


「Un grand père, voir, un bébé.」

(おじいさん、見る、赤ちゃん)


「Qu'est-ce que c'est ?」(これは何?)

バティストが竹を指さし、聞いてきた。

竹って、何でしょう?

「...Arbre ? ...Herbe ... ?」(木?葉っぱ?)


「C'est un arbre.」(これは木です。)

竹ではなく、私がポキっと折れた。


「Pourquoi y a-t-il un bébé dans un arbre ?」

(どうして赤ちゃんが木の中にいるの?)

今度はクロエが痛いところをつく。

「Je ne sais pas.」(知らない)



努力のかいがあった。

伝わってはいる、みたい。

だが、質問はご遠慮したい。

答えられない。


どうにか紙芝居が終わり、

「Bravo !」

アントワーヌ先生が拍手で褒めてくれた。


何に対して?

......いや、考えない方がいい。


―――


次の日、クロエ大先生から配役が発表された。


オーギュスト:おじいさん

バティスト:求婚者A

クロエ:ナレーター、求婚者B

ディミトリ:帝

舞花:かぐや姫


配役に不服なバティストが抗議の声をあげた。

「Pourquoi Dimitri est le roi ?」

(どうしてディミトリが王様なの?)

「Parce qu'il ne parle pas beaucoup.」

(だって、あまり話さないからよ。)


主役抜擢の理由も納得。

全て「Non」と言っておけば成り立つ「かぐや姫」に、私はぴったりだ。



衣装はあるもので、やりすごす。

私はバスローブを2,3枚羽織り、十二単風に。

残りは、バスローブをワイドパンツにイン。

雰囲気だけ着物。



台本は、クロエが書くことになった。

授業の一環らしい。

細い字で、丁寧に書かれていくフランス語。

私は自分の分だけ写す。


あとは――

練習あるのみ!


―――


翌日から、午後はかぐや姫。

クロエ大先生と2人で練習する。


「Je veux un arbre doré.」(金の木がほしい)


ゆっくり、一語一語、丁寧に言う。


「Ça ne va pas ! Encore !」(ダメ!もう一回!)


始まった。


Encore地獄。


「Un arbre.」

「Un...arbre...」


「Non, un arbre.」


言い方を変える。

強弱をつける。

区切る。


全部ダメ。

何が違うかがわからない。



一旦、台本を確認したら

......気がついた。


「リエゾン」だ。



「Un」のnと

「arbre」のa


カップル成立してました。



理解した瞬間——

台本を見ていた私から、クロエ大先生が紙を奪う。

くるりと丸めて、使用人へ。


没収だ。



「私の紙は奪われる運命なのか――」


思わず日本語でつぶやいた。




「アナーブル(Un arbre).」

「C'est ça.」(そうよ。)

「Le français est une musique, Maïka.」


ここでも音楽――。



指揮棒を持ったタコが耳に出来た。

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