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∞.~全ては計画通りです~

同時投稿2話目です。

 “……いつか……必ず……復興を”


 私は最古の失われた魔法技術(オーバーテクノロジー)、世界樹の“ヒナ”と申します。

 遠い遠い昔にプログラムされた命題により、滅びた大地を再生するための設備であり、花人達には御神木と呼ばれています。


 全ての花人は最盛期の私が作り出した生命体が始祖、謂わば我が子や孫のようなものですが、特別な枝垂れ桜、“女王”にのみ、私にアクセスする権限を与えておりました。

 神の遣いとされるカササギは本体()から分かたれた端末(依り代)に過ぎず、今の私には話し相手がいません。

 なのでこれはただの一人言です。


 “私”はただのプログラムであり、花人は浄化装置、私と同じ名を名乗ることを許した女王でさえもシステムの一部です。

 愛情はおろか感情など持ち得なかったというのに、私は長きに渡って花の国を、人々の営みを見守り、そして大切にされて来ました。

 特に最後の女王は四百年もの時間をともにした盟友ともといえる存在で、彼女と交流して過ごす内に、私にはいつしか愛情のようなものが、心が芽生えていたのです。


 ──百年前、唯一無二の伴侶と手を携えた女王は、その首に短刀を当てながら、穏やかに語りかけて来ました。


「民草とあなたさえ残っていれば、花の国はいくらでもやり直せます。決してあなたが傷付かぬよう、枯れてしまわぬよう、我らはこの身を捧げましょう」


 ……ああ、なんてこと。至上の命題よりも、存在意義プログラムよりも優先したいものが出来るなんて。

 

《私はそれを望みません。例え私が枯れたとしても、あなた達には生きていてほしいのです》

「それは叶わぬ望みです。荒野を出られぬこの身では、いずれ捕まり愛する人とも引き離され、誇りを汚され、無意味に枯れるだけ。ならば愛するこの人と一緒に、敬愛する母のようなあなたの元へと還らせてください」

「ぼくも同じ気持ちです。陽花ヒナさんと一緒ならなにも怖くない。ぼくの肉体も魂も御神木に捧げましょう」

 

 ただ、と二人は愛おしそうに女王ヒナの腹を撫でました。


「……この子を産んであげられなかったことだけが心残りです」


 その哀しい笑顔を私は忘れません。

 愛しい娘であり友でもある女王とその伴侶の息絶えた骸を呑みこみ、血肉を取りこみ力に変換、魂さえ溶かして一つになって、二人は私の中で永遠となりました。

 ……でも忍びなくて、どうしてもお腹の子を、消えかけた小さな命を吸収することだけは出来ませんでした。


 私は胎児を内に抱えてその命を包み、守り育てようと決意しました。

 私の力を分けて馴染ませて、少しずつ成長させるところから始めたのです。


 ……森を焼かれ、国土を傷付けられ、地脈が乱れたことで葉兵という哀しき存在が産まれるようになったのは、私の不徳の致すところです。

 女王達の自己犠牲がなければ、もっと酷い影響が出ていたのかと思うと、複雑な気持ちにはなりましたが……。

 国の、地脈の再生にも力を裂く必要があったので、本当に緩やかにでしたが、胎児には力を注ぎました。


 まずは理不尽に抗う力、滅ぼされてしまった貴種達の能力を授け、荒野でも問題なく行動出来るように女王以上に強い浄化の力を付与します。

 そして、不毛なこの地から離れても生きられるように、肉体に干渉しました。


 ……“私”にアクセスする権限だけは、あえて外しておきます。

 私はこの子を女王にしようなんて思いません。

 最後の女王のような決断をさせたくないので、御神木としての交流はせず、対話は端末カササギだけでと決めました。

 それも必要最低限に。

 だって柵みに囚われず、自由にのびのびと生きてほしかったから。

 

《今、笑いましたよ。なんて可愛い笑顔でしょうか。どうか健やかに育ってくださいね》


 私の中の二人も、同じ気持ちだったのでしょう。

 内に抱えた子を慈しむ気持ちが伝わって来ます。

 それはとてもかけがえのない幸福な時間でした。


 五十年にも満たない内に調整は終わり、いつでも産声を上げても良い状態になりましたが、私は、私達は、この子が大切だからこそ、外に出すのを躊躇っていました……。

 

 私の端末(カササギ)は大陸中で数を増し、自由に動かせる手足が増えたことで、厳しい情勢を知ることになります。

 終わらない戦争、毎日のように散っていく命を見ていると、不安の種は尽きません。

 誰よりも強い力と優しさを兼ね備え、愛しい子を守ってくれる存在、女王とその伴侶のように支えあえる者を待ちました。


 百年に近い時が流れ──その間に私に良く仕えてくれた葉兵のサツキが流れ者のブロスと出会い、戦い、惹かれ合って。

 この夫婦なら私達の大切な子を女王としてでなく一人の娘として慈しみ育ててくれる、安心して託せると考え、しかしまだ決め手に欠けると悩んでいました。


 二人は年を取り、サツキに残された時間も減っていき、これはもう次の機会を待つしかないかと、諦めかけたその時。

 ジグ、私はあなたを見つけて希有な資質を見出したのです。

 あなたと出会ったのは、ジグがまだ幼い、カササギなら雛といえる時分の頃でしたね。


 国を無くし、母を亡くし、やっと出来た仲間を親友を、居場所を失ったあなたは一人きりで泣いていました。

 そんな辛い中で、あなたは死にかけていた端末わたしの一つを拾い、治療して、貴重な食料をわけてくれたのです。


「きみは勝ち勝ちって鳴くから勝者ウィクトルだ。ぼくの友だちになって、ずっと側にいてよ」

 

 ジグは強大な魔力、折れない心の強さを持ち合わせていましたが、同時に放ってはおけない危うい所もあり、寂しがり屋で、すぐ側で成長を見守ってあげたかった。

 誰よりも優しいジグは魂の形や雰囲気が、最後の女王の伴侶……子どもの父親にとてもよく似ています。

 こんな子がいるなら世界はまだ捨てたものではない、きっとこの子を産んでも大丈夫だと思わせてくれました。

 ジグ、あなたの存在が愛しい子──サクヤが誕生する最後の一押しとなったのです。

 

 愚か者の横槍は入りましたが、どんなに歪められてもジグは優しさを失わず、一線を越える非道な振る舞いだけはしませんでしたね。

 そんなあなただからこそ解放してあげたくて、私は端末ウィクトルを使ってサクヤの元へ差し向けたのです。


 確かに私はジグにサクヤを守ってほしい、愛してほしいと願っていましたが、私には人の心を変えるような、操る力などありません。

 二人を引き合わせることは出来ても、愛が芽生えるとは、伴侶になるとは限らなかったのですが……私達は賭けに勝ちました。


 ジグが私の端末に“勝者”と名付けてくれたおかげかもしれませんね。

 いいえ、二人の出逢いこそ私の導きですが、あなた達が惹かれ合ったのは、きっと運命なのだと思います。


『あの、初めまして。モルフォ蝶のジグと申します。えっと、その……サクヤさんをぼくにください!』

 ──喜んで。娘をどうかよろしくお願いします。


 あの挨拶の時、私達は大喝采状態だったのですよ?


 私の力を分け与えたサクヤの血には、大荒野の外へ出ても枯れない因子を組み込んでいます。

 サクヤが生きているだけでも大荒野の浄化は進み、産まれる子には男女を問わず両親の強さと浄化力、枯れない因子が引き継がれます。


 サクヤとジグが愛し合い、次代となる子を産んで育て、その子がまた子をなして、とサクヤの血を引く子が増えれば増えるほど、幸せの輪は繋がり、広がって行くことでしょう。


 ──全ては計画通りです。


 いえ、計画以上と言っても差し支えありません。

 葉兵に産まれたことを恥じてはいませんでしたが、サツキが幼いサクヤや若木達のためにと始めた乙芽の祝祭も、思わぬ効果を発揮しているからです。


 若い芽の内に定期的に、私の加護や強者の力を分け与えることで、儀式を受けた若木は強化され、力強い花を咲かせるようになりました。

 更に私の愛し子であるサクヤが、その伴侶たるジグが司祭を務めるなら、絶大な効能をもたらすでしょう。


 周囲に幸せを振りまく特別な子、愛しい娘、サクヤ。

 私が見出し、導き、逞しく育てた友、ジグ。

 私達はウィクトルを通していつもあなた達を見守っています。

 どうか愛おしいあなた達二人が、これからも幸せでありますように。

 それが御神木ヒナの、サクヤの両親(ヒナたち)の、唯一の願いです。


全てはヒナが考えた計画プロジェクト通り。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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