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第七章 秘密⑨


       *


 鬼助にとっては、五郎兵衛やフウの身上に、このようないきさつがあったことなどは露知らずにいた。

 彼らが山で逼塞ひっそくしているのには、やはり相応の理由があったわけである。

 しかし一方で、鬼助にはまだ合点がいかないことがある。


「和尚、でも五郎兵衛さんたちとおらと、一体なんの関係があるのですか?ベニさんもおらのことを昔から知っているような口ぶりでいました。フウのことを頼むとも言っていたし、おらにはさっぱり分からないことばかりです」

「む、それは…」


 これまで滔々(とうとう)と語り続けていた久安が、急に口籠くちごもった。

 重苦しい沈黙があった後、

「それについては未だ時期尚早(しょうそう)。おまえがもう少し大人になったら話すことにしよう…」


 言葉に出す久安の表情からは、苦悶くもん逡巡しゅんじゅんが読み取れる。

 鬼助が知りたい部分は、正に自らの身の上である。

 それがこの場で明らかにならないのでは、肩透かしを食った格好になる。


 そのまま意気消沈して俯いていると、久安は厳しい口調で言葉を続けた。

「鬼助よ、いずれにせよおまえはフウを守ってやらねばいかん。フウは己の風貌ふうぼうのせいで一家が人里離れて暮らしていると思っているが、元々はそうではない。あの子が自分を責めているのが、わしには不憫ふびんでならん」


「それはおらも分かっています。なら和尚、今度フウを村祭りへ連れて行ってもいいでしょうか?フウはまだ里にも降りたことがないっていうから、祭を見せてやりたいんです。いや、何も祭でなくたって構いません。隙を見て、鬼無里の里を案内してあげるだけでもきっと喜ぶでしょう」


「ばかもん。里の者がフウのことを見かけようものなら、連中は神の使いだなんだとして大騒ぎするぞ。祭はおろか村の案内すら断じて許されるものではないわ」


「でもフウは怪我をしたおらのことも見つけてくれたし、本当に不思議な力があるのかもしれませんよ」


「たわけ者。フウはおまえと何ら変わりはない、ただの娘に過ぎん。だがな、おまえも紅葉伝説は知っているだろうが、白髪の少女は紅葉の生まれ変わりと信じる者もおるのだ。そういうやからがフウの噂を聞きつけて、いつ山へ入って来るかも分らんから、おまえに警護を頼んでいるわけだ」


「白髪の少女が紅葉の生まれ変わり……?」

「なんだ知らんのか。なら話してやろう」


 溜息交じりに久安がしたのは、次のような話である。

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