表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/84

第七章 秘密⑦

 この日からしばらくして、ベニは鬼無里の村から姿を消した。


 ある里人(いわ)く、いなくなる前日ベニは、一夜山の登山口で一人呆然とたたずんでいたという。

 その姿は、まるで狐にでもかれているかのような様子だったそうである。


 その後、村人総出で山を捜索したところ、裾花川へ落ちる断崖の樹に、ベニの帯が引っかかっているのが見つかった。

 ベニは五郎兵衛と結ばれぬ運命を悲観して、裾花川へと身投げをしたのだろうと、人々は鬼無里小町の最期を憐れんだ。


 そして五郎兵衛は、山見の役目を甥に譲るという形で突如辞して、山へ籠って生活をするようになってしまった。

 あれだけ仲睦まじかったベニを失った哀しみで、役目にも身が入らず職を捨てたのだろうというのが、大方の見方であった。


 だが無論これは、五郎兵衛たちが仕組んだ狂言である。


 ベニの消息が知れなくなって数日も立たないうちに、松代から小隼人の用人が、血相を変えて鬼無里村へと現れた。

 喜左衛門の座敷に上がり込むと、口角泡を飛ばして膝を詰め、


「おい喜左衛門、ベニじょがいなくなったとはどういうことじゃ?」

「さあ…。それがしに問われましても一向に分かりかねまする。ですが村の者が言うには、いなくなる前日に、思いつめた様子で山に向かって立っていたとか…」


「それでおぬし、むざむざ娘を山へとやってしまったというのか?」

「それがしはその場にはおりませんでしたので、ベニのことを止めようもございません。いなくなってからは村総出で探したのではございますが、帯が川岸にて見つかるのみで、もはやこれまでかと…」


「よくもまあ落ち着きおって。小隼人様は大層ご立腹であられるぞ。聞けば娘は、あの大日方五郎兵衛に想いを寄せていたというではないか。もし奴と駈落ちしたとあらば、許されることではないぞ」

「その様な噂があったのは、それがしも存じてはおりますが、駈落ちなどは致さぬようしっかりと釘を刺しておりました。今となってはそれがあだになったかもしれませぬが…」


「では娘が行方知れずになった責めは、おぬしにあると言っても言い過ぎではあるまい。この責めどのようにして負うつもりじゃ!?」

「それがしも元は武士なれば逃げも隠れも致しますまい。如何様いかような責めをも受けましょう」

「ではおぬし直々に松代へと参り、小隼人様へ申し開きをせよ。そこまでせんと、この儀もはや収まらんぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ