とある冬の晴れた日に
お久しぶりです。
なかなか続編がまとまらないので、思い付いた新年のお話を投稿させていただきました。
前話から少し経った日のお話です。お楽しみいただけたら幸いです。
「お母様ぁー!早く早くぅー」
日の光の下でまぶしく反射する銀の髪を揺らした女の子が、わたしを『母親』と呼びながら手招きする。
少しツリ目がちな目元を嬉しそうに細めて、早く来いと手を振る姿は大興奮そのものだ。
……うーん。この様子だと、今夜はなかなか寝てくれないかも。
「父上も、早くっ!」
わたしと同じ薄い茶色の髪を少しはねさせた男の子が、わたしの隣りの真っ黒いローブに包まれた男性に声を掛ける。
こっちもこっちでつられてなのか、やっぱり楽しみなのか、珍しくはしゃいだ声を出していた。
「……いつもより興奮してないか?」
「ですねえ」
いまからこんな調子で大丈夫なのかと、シュトレリウスが不安そうな声で呟く。
ローブを頭から被っていることで表情は見えないけれど、声の様子から不安そうなことが伝わった。
まあシュトレリウスがどんな顔をしているかなんて、いまさらわかりきっているけどさ。
何年の付き合いだって話だよ。
眉間を寄せた不機嫌そうな顔をしつつも、内心はハラハラソワソワしているはずだ。
まとめて落ち着け。
「……にしても、はしゃぎすぎ」
何をそんなに興奮しているのか、わたしにはサッパリわからんわ。
双子の子供たちの後ろ姿を見やりながら、いまから会う予定の人物を思い浮かべて首を傾げる。
だって別に、有名人でもなんでもないよ?
ただの陰気臭いオッサンに会うことが、そんなに嬉しいの?
はしゃいで飛んで跳ねてる双子は、この世界の可愛さがすべて集結したようにも見える可愛さだ。
うん、今日もウチの子はとっても可愛い。
もちろん一番可愛いのは、わたしの隣りにいる人だけれども。
「おじい様、元気かなあ」
「ジュリエラは、また泣かしたらダメだからね」
「泣かせてないもん!」
自分の孫にあたる双子を見に来たシュトレリウスの父親、わたしの義父、つまり双子の祖父が、なんでだか突然泣き出したことをレミリオに突っ込まれてむくれてしまった。
一時、完全にストーカーだったもんね。
通報寸前だよ、まったく。変態か。
門の向こう側にいることは気付いても、こっちからは声を掛けない。
そう簡単に幼いシュトレリウスを放置したことは許さんと無視していたら、開いていた門扉から飛び出したレミリオが会ってしまったらしい。
ジュリエラも出ていったと思ったら、庭師で執事のリュードに「薔薇をちょうだい!花束にして!」ってレミリオが戻ってくるとか。
あれはまあ、前から「おばあさまのお見舞いは、ウチの庭の薔薇がいいんじゃない?」って二人で話していたからだろうけど。
っていうか、あの時も興奮してたな。
おかげで全っ然眠らなくて、次の日は超・寝不足だったんだから。……やっぱり無視なんてしないで、殴って追い払っとけば良かった。チィッ。
その双子の気持ちがこもりまくった花束は、ちゃんと受け取ったのかな。
受け取ってなかったり、そもそも渡してもいなかったら、問答無用で殴り倒して金輪際、絶対に近付けさせないからな。
壁越しでも許さん。今度こそ殴る。
フンッと一息吐いたついでに握った右手の拳を左手で受け止めたら、ちょっとだけ頭を揺らしたシュトレリウスが口を開いた。
「挨拶代わりに殴るのか?」
「……殴りませんよ」
向こうの出方次第では、殴るかもしれないけれど。
「それより、あの二人をいい加減、捕まえましょう」
「そうだな」
ずいぶん前を歩いている小さな背中を指差して、そろそろ本当に落ち着かせないと、お茶会が始まる前にくたびれてしまうと付け加える。
距離が離れているというのに、きゃあきゃあと話す声が段々大きくもなっている。おい、落ち着けや。
そんな双子を見やりながら、シュトレリウスがまたビッミョウに頭を揺らしている。
「そんなに嬉しいものなのか?」
心底不思議だとでも言うように、わたしと同じ疑問を呟いた。
いまも二人は楽しそうに何かを話しながら、繋いだ手をブンブンと振り回して大興奮だもんね。そりゃあ不思議にもなるか。
二人はいい加減、本当に落ち着け。
「シュトレリウス様こそ大丈夫ですか?」
今日のお茶会の話が来た時も決まった時も、シュトレリウスが父親に会うことを嫌がる様子は見られなかった。
ここで少しでも嫌がったら、絶対に今日のお茶会は無期延期にしてやったんだけど。
真っ黒いローブを下から覗きこんで、無理はしていないのかと確かめる。
暗い中でもハッキリわかる銀の髪と紫の瞳と目が合ったら、きょとんとした顔をされてしまった。
そうして小さく微笑んで、わたしの頭にそっと大きな手のひらを乗せて言う。
「メイリアこそ。無理ならすぐに帰るぞ」
「嫌なら最初から来ませんよ」
ちょっとだけ唇を尖らせたわたしに、フッと口元を緩ませる。
なに笑ってんだ、この野郎。
「またイチャイチャしてるー」
「仲良しって言うんだよ、ジュリエラ」
いつの間に戻ってきたのか、双子がわたしたちを下から覗きこんでいた。
「イチャイチャしてない!二人とも、少しは落ち着きなさい」
「「はぁーい」」
息ぴったりに手を挙げて返事をする双子を睨みつつ、はしゃぎすぎて乱れた髪と服を整えてやる。
パタパタと自分でも直したら、わたしとシュトレリウスの間に入って手を繋いだ。
「お茶会ってあれでしょ?いつも王女様としてるやつでしょ?」
わたしと同じ蜂蜜色の瞳をくりっとさせたジュリエラが、お城のお茶会とおんなじだと言う。
「王様も、王女様と同じで甘いものが大好きだよね。……おじい様は好きかなあ?」
少しタレ目な紫の瞳を輝かせながら、レミリオが手土産の心配をする。
「文句言ったら殴るからいいの!」
繋いでいないほうの手をぎゅっと握りながら言うわたしに、呆れた視線が突き刺さった。
「おじい様は殴っちゃダメ!」
「ジュリエラだって殴ってないんだからね」
双子は窘めるのに、真っ黒いローブはまっすぐ縦に揺れていた。おい、どういう意味だ。
「……」
賛同してくれてありがとうなのか、自分の父親が妻に殴られるっていうのにいいんかい、と突っ込めばいいのか謎の頷きだな。
まあ、殴ったことはあるけどさ。
我が家の庭に咲いている、庭師で執事のリュードが手入れしている薔薇と、メイドのユイシィと一緒に作ったケーキとクッキーを入れた箱を揺らしながら、馬車にも乗らずに四人で歩いていく。
「はい、到着!」
「わぁー、大きいお家だね!」
「お部屋がいっぱいあるねぇ」
それではシュトレリウスの実家、国で有数のファウム家の門扉を叩くとしようか。
ぎゅっと拳を握ったら、そのまま門扉に向かって振り下ろす。
「「「たーのもー!」」」
ドンッと一つ叩いたら、三人で声を掛けていく。
少し間が空いた後に、ドタバタと名家らしからぬ騒々しい物音が続いていった。
「や、やあ、いらっしゃい。……殴りに来たわけじゃないよね?」
ちょっとだけ開いた門扉の隙間から、品の良い服装の当主が情けない声と顔を出す。
可愛い息子と可愛い妻と、その可愛い子供たちが来たと言うのに、開口一番それかよ。
門扉を叩くために握った拳をそのままに、ニコリと微笑みを向けていく。
「ご機嫌よう、お義父様。殴られたいのなら遠慮しませんけど?」
「……遠慮してください」
微笑みの顔を引きつらせながら、ついでに三歩、後ろに下がるファウム家の当主。
おい、逃げんなや。
下がってできた隙間がもっと開いて、ようやく門扉が開かれていく。
「改めて……ようこそ。いらっしゃい、シュトレリウス、メイリアさん、レミリオ、ジュリエラ」
客人の前で大きな深呼吸をしたら、ようやくこっちも落ち着いたのかニコリと微笑んだ。
「はい!お邪魔します、おじい様」
「お邪魔します!」
はいっと双子が手を挙げて、門の中に入っていく。
わたしはシュトレリウスの手をぎゅっと握って、引っ張るように一歩、足を前に出した。
「心配するな」
わたしが握った手の甲を軽く撫でたら、少しだけ口元を緩ませて呟いた。
シュトレリウスにとって、この家は帰る実家でもなんでもなくて。
ただ、嫌な思い出があるだけの産まれた場所ってだけで心配していたけれど。
「帰る家は、もうあるからな」
ジュリエラよりもツリ目なのに、眠る時と微笑む時はレミリオよりもタレ目になるの。
そんな瞳を柔らかく細めて、むしろ、わたしに落ち着くようにと言ってくる。
「……そうですね」
それなら、一緒に入ろうか。
伸ばしかけた足を戻したら、二人一緒に門の中に入ることにする。
空は快晴。
先に入った双子はまたしても大興奮だけれども、二人に挟まれたオッサンは戸惑いながらも嬉しそうだから、まあ、手を繋ぐくらいは許してやろう。
双子が繋いでいることで、両手がふさがっているオッサンの顔はだらしなく緩みまくっている。
懐いてくれていることが嬉しいからって、調子に乗ったら許さんからな。
お茶会の間も両脇に双子をはべらす気だったら断固拒否だ。そこまでは許してない。
図々しいことを言い出したら殴ろうと拳を握ったら、双子がくるっと振り返った。
「お父様ぁー」
「母上ぇー」
遅いよと双子が呼んで、さっきと同じくわたしたちに向かって手を振ってくる。
「いま、行くよ」
シュトレリウスと小さく微笑みながら、ウチとは別の花が咲く庭園を歩き出す。
さて。シュトレリウスの実家で初めてのお茶会を始めようか。




