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没落令嬢の旦那様  作者: くまきち
おまけ
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魔法使いの家族たち

「すー……すー……」

「ぷすー……ぷすー……」

「……」


 寝息を立てている二人の横で、一人はとても静かで動かない。


「息、してんのかな」


 静かすぎる一人に近付いて、心臓がちゃんと動いていることを確認する。

 息はしていたね、良かった。


 今朝も日の光に反射して、とてもまぶしい銀の髪を見ながら。

 それが二人に増えて、さらにわたしと同じ薄い茶色の髪もいるとか。


 もうすぐ一年が経つけれど、今日も意味がわからんな。




「ふぁ……、眠い」


 それでも夜泣きもぐずりもなく朝を迎えたことに安堵しながら、ゆっくり支度をすることにしよう。


 眠い目をこすりながら着替えて、相変わらず同じ格好で眠り続ける三人を見やる。

 なんだこれ、天使か。天使の集団がわが家にいるとか、ここはいつから天国になったんだ。


 まぶしい銀の髪でも薄い茶色でも、変わらずに今日もかわいすぎる。

 それでも一番かわいいのは、この中で一番年上の旦那様だけど。


「ふ、ふふ。残念だったな、子どもたち」


 それでもウチの子が一番ということを確認したら。

 厨房へ行く前に、畑の様子を見て収穫してこよう。




「んんー……、っはあ」


 もうすぐ夏になるからか、最近は早朝でもすぐに暑くなってくる。

 冬は長くて雪が深いのに、夏は暑いとか意味がわからん。


「おはようございます、奥様」

「おはよう、リュード」


 パチンと軽快な音を響かせながら、とっくに起きていた執事で庭師は今日も庭の手入れに勤しんでいる。


 そろそろ薔薇の季節だもんね。

 お客様は特にいないわが家だけれど、それでもこうして花が見事だと嬉しいな。


「お子様たちは、まだ眠っておられますかな?」

「うん。今朝は三人並んでいるよ」


 わたしも庭の端っこあるトマトや葉物を収穫して、水をやりながら答えていく。

 梯子から降りたリュードが、下に落とした葉をかき集めながら、わたしが話した姿を思い浮かべているらしい。


「それはまた、国王様が喜びそうな様子ですな」


 クッと小さく微笑みながら、実の父親よりも父親っぽい、国王様が喜びそうだと言っていく。

 実際、身内以外で一番最初に抱っこしたのは国王様だしね。




「ああ。……あの時は奥様のお父様だということを、すごく実感いたしました」

「え?」


 少し遠い目をしたリュードが、「ウチの初孫だ」と国王様を押しのける父親に、心底驚いたと呟いた。


「あれはほら。国王様は全然関係ないのに、新しい孫ができたって喜ぶから」


 これは絶対にウチの父ちゃんの主張が正しい。

 そうでしょとリュードを見返したら、それもそうかと納得してくれたみたいだ。


 大体なんだよ、新しい孫って。

 国王様とは血も何も繋がっておらんわ。


「それでも国の代表に体当たりとか、普通はしませんからな」

「昔、リュレイラ様と同じ頃にウチの弟妹が産まれたときも、どっちがかわいいかという喧嘩をしたらしいよ」

「……なるほど」


 他のみんなは、国王様をヨイショして絶賛する中で。

 『ウチの子が一番かわいいに決まっているでしょう!』なんて、堂々と外で言うんじゃない。


 少し顔を引きつらせて遠い目をしていたリュードが、そこは賛成できるところだと軽く頷いた。


「親としてなら正しいと思いますよ。……その後に取っ組み合いの喧嘩をしなければ、ですが」

「……」


 何してんだろうね、ウチの父ちゃんは。

 けれどわたしもやりそうだと気が付いて、ひとまず脇に置いておくことにする。


 だってわが子が一番かわいいのは真理だ。

 絶対に揺るがないところなんだから、相手が誰でも譲ってはいけない。




「国王様まで殴らないでくださいね」

「時と場合による」


 拳を握ったわたしを横目で見ながら、静かにたしなめる冷静な執事。


 負けられない戦いというものがこの世にはあるんだから、相手が誰でも遠慮をする気はまったくない。


「その調子で、お子様たちは無事に独立できるんでしょうか?」

「大丈夫じゃない?」


 何も食事の支度から着替えまで、逐一手を掛けるつもりはまったくない。

 一人でも生きていけるように、きっちり教育していくつもりだ。


「下の弟妹のときは嫁に行くのが急だったから、あんまり教えられなかったけど。食べられる山菜とか、きのこの種類とかは叩きこませたよ」


 それでもお湯が沸かせないとか、基本的なことはすっ飛ばしすぎた。

 手が切れない包丁みたいな便利グッズはないだろうから、もう少し大きくなったら一緒に切る練習をすればいいかな。


 採った野菜を見ながら、朝食のメニューを組み立てる。

 立ち上がったらリュードが梯子を肩にかけて、野菜の入った籠をつかんで運んでくれた。




「年の始めのお二人しかいなかったとき、旦那様も厨房に立ったのでしたよね?」

「うん。だってわたしが何かするのはダメだって言うし、床にも足をつけない徹底振りだったし」


 少しだけ実がなっていた果物を持って、正月は大変だったなあと思い出す。


 妊娠がわかってからのシュトレリウスは、とにかく忙しかった。

 わたしをベッドから食堂の椅子へ、椅子から暖炉のある部屋へと次々と運んで。


 さすがにトイレまでは恥ずかしいから、丁重に断ったけれど。

 お風呂ではわたしの頭まで洗い始めて、移動は常に浮いている状態とか。


 これで外に出たいと言っていたら、きっと靴も履かせてくれたんじゃないだろうか。

 さすがに、させないけど。


「あんなに城に行くことを渋る旦那様は、初めてでしたからなあ」


 厨房のテーブルに野菜たちを置いたら、リュードが思い出して呆れた溜息を吐いた。

 熱を出したときの、三日くらいの休みでも死にそうになっていたデーゲンシェルムが迎えに来なければ、きっと産まれた後も城には行かなかっただろう。




「休みを作るために国王様を使うのは、さすがにどうかと思いましたよ」

「それで自分の孫だとかほざいたのかな?」

「かもしれませんな」


 国王様も金の髪の持ち主だからって、シュトレリウスの代わりを頼む相手としてはおかしくない?

 嬉々として受け入れる国王様も、国王様だけれども。


 野菜の皮をむきながら、まだゆるい食事しか摂れない子供たち用にと細かく切っていく。

 リュードは粉を混ぜながら、しっかりとこねていった。


「国王様が受けたのは、王女様と一緒に仕事ができるからではありませんか?」

「ああ、そんなことを言っていたかも」


 採り過ぎた野菜を厨房の隣りの部屋に運んでいたユイシィの言葉で、一緒にいる時間が増えたと喜んでいた国王様を思い出す。


 それならウチの子がもう少し大きくなってお城に通い出したら、シュトレリウスも嬉しいのかな。


「銀の髪は一人ですけど、双子ということで一緒に通うことになりそうですからね」

「もう片方も使えるようになったら、無詠唱の魔法使いよりも珍しいかな?」


 まだベッドで眠っているだろう二人を浮かべながら。

 朝食を完成させて、とっとと起こさないと。




「すー……すー……」

「ぷすー……ぷすー……」

「……」


 起きたときと同じままで、三人が仲良く眠っていた。

 ちょっと寝返りをうったみたいで、一人はうつ伏せになっていたけれど。


 これは今度こそ、息をしているんだろうか。

 顔ごと枕に突っ込んで、静かに眠るとかこっちの心臓が止まりそうな光景だ。


 慌てて脇を抱えるように持ち上げたら、とっても間抜けな顔で眠り続けていた。

 いや、起きろや。


「んん……」


 抱えられて、ぶらんと足が宙に浮く。

 けれどちっとも起きないし、何ならもっとガクッと頭が落ちた。


 これはアレだ、熟睡中だ。


 ベッドで眠り続けている二人を見やったら、同じ格好で眠っているし。

 なんだか起きているわたしのほうが、おかしな気分になってくるくらいの熟睡っぷりだな。


 まあ、起こすけど。




 抱えていた、わたしと同じ薄い茶色の髪の男の子をベッドに下ろしたら。

 布団にくるまれるように眠っている、銀の髪の二人を叩き起こすことにする。


「ゴルァ、いつまで寝てんだ!!」


 つかんでいた布団をがしながら、大きい声で起こしにかかる。

 バチッと瞳を開けた二人は、それでもボーッとしながら起き上がった。


「……おはよう、メイリア」

「おはようございます、シュトレリウス様」


 サラリと顔にかかる銀の髪をかき上げながら、紫の瞳の旦那様が挨拶をしていく。


おあよう・・・・

「おはよう、ジュリエラ」


 まだ半眼の、蜂蜜色の瞳をこすりながら、ふぁぁ……と大きなあくびをしながら女の子が挨拶をした。

 寝相が悪いからか、同じサラサラの銀の髪なのに、あちこちはねている。


「……」

「……」


「う?」

「こっちはまだ寝てるの。……起きろっ」


 ガシガシと頭をかきながら、眠っているもう一人をジュリエラが見やった。

 そっちにはもっと容赦なく、耳を引っ張って起こしてやる。


「ん!?……おあよう・・・・

「はい、おはよう。お父様とジュリエラにも挨拶をして、レミリオ」

「あい」


 ピッと手を挙げて元気よく返事をしたレミリオは、そのまままっすぐ布団に顔を突っ込んだ。


「……」

「……」


「寝てるな」

「寝てますね」


 この寝起きの悪さは、絶対にシュトレリウス似だ。

 起きろや。




 もう一度、耳を引っ張られたレミリオが今度こそ起きて。

 まだヨタヨタしている二人を着替えさせたら、一緒に食堂へ向かうことにする。


「今日はリュードがパンを焼いてくれたんだよ」

「たべやえゆ?」

「柔らかいから、食べられるよ」

「わぁい」


 ちょっと垂れ目な目元をくりっとさせて、紫色の瞳のレミリオが見上げて尋ねてきた。

 ふわふわとしたパンだから食べられると言ったら、ジュリエラが喜んで両手を挙げる。


 クルクルと表情が変わって、歩けるようになったらますます目が離せなくなったところも。

 とってもかわいくて大変で、それが二人もいるとか。


「あ、でも一番かわいいのはシュトレリウス様ですからね」

「……急になんの話だ」


 ウチの子がかわいすぎると見つめていたら、視線を感じて見上げたついでに一番かわいい人の名前を教えただけなのに。

 眉間をぎゅっとしたシュトレリウスに、意味がわからないと言われてしまった。そりゃそうか。




 食堂に着いたら並んで座って。

 まだカトラリーをつかめない双子には、二人で交互に食べさせていく。


 ふわふわすぎるパンを、同じくらいにふわふわな頬いっぱいにつめて食べたり。

 採れたばかりの果物は、ジュースにして食後に飲もうかな。


「今日は暑くなりそうだから、庭で遊ぼうか」

「「あい!」」


 ピッと手を伸ばした双子たちが、仲良く同じ返事をしていく。


 少し釣り気味の目元に蜂蜜色の瞳、銀の髪の長女のジュリエラと。

 ちょっと垂れている目元に紫の瞳、薄い茶色の長男のレミリオ。


 そうして銀の髪をまぶしく輝かせながら、双子を見つめている旦那様シュトレリウス


 うん。今日もいい日になるんじゃない?


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