エピローグ ~二人きりの日~
「……こうか?」
「そうです。真ん中を開けたら、その中にミルクを少しずつ入れてください」
隣りで座っている妻に言われた通りに、粉とミルクを混ぜていく。
誰かが作らなければ食事ができないことは知っていても、どうやって作るのかは見たことがない。
それをまさか、自分が作ることになるとは。
「あ、もういいですよ。全部を一つにまとめたら、均等に切り分けてください」
「切り分ける……」
ナイフは危ないからと、渡されたカトラリーを受け取っても。
それでもここから、どうすればいいかわからない。
「こうやるんですよ」
「そうか」
目の前で見ても、なぜそんなに簡単にできるのか不思議に思う。
「そりゃあ小さい頃からしていますから。でもわたしが家事をしているとき、シュトレリウス様は国を守ってくれていたんでしょう?」
そっちのほうが誰にもできることじゃないと言って、いつものように微笑むけれど。
なんでもないことのように、いくつも作り出していく妻のほうが魔法使いみたいだ。
「ほら、しっかり混ぜたから美味しいでしょう?」
「……メイリアのほうが美味しい」
同じ材料のはずなのに、どうしてここまで違うのか。
初めて自分で作った料理を口に運びながら、やはりメイリアの料理は違うことを知る。
「リュードとユイシィにも食べてもらいましょうね」
小さく笑いながら、楽しそうに二人にも食べさせようと言っていく。
これを出されたときの二人の反応は、きっと初めて卵とトマトの料理を出された自分と同じ気持ちになるだろう。
「食べ終わったら洗いましょう。食器を洗い終わったら暖炉に火を入れて、部屋を暖めている間に簡単な掃除をしたら休憩です」
「わかった」
同時にこなさなければいけないことが多すぎて、城での仕事が簡単に思えてくる。
初めてのことばかりで目まぐるしく、こうして二人だけの半日が過ぎていった。
昼食は作り置きしておいたものを焼くだけで、デザートも昨夜のうちに用意していたらしい。
いつも飲んでいたコーヒーからハーブティーに切り替えた妻の手元を見ながら、あと四日もどうすればいいのかと途方に暮れる。
「最初はこんなものですよ。初心者は基本を丁寧にしたほうが、覚えも速いし失敗も少ないんです」
だから時間が掛かるのも仕方がないし、落ち込むことでもないと。
少しずつ夫婦になったみたいに、ゆっくり親になればいいと言っていく。
「……そうか」
「そうですよ」
魔法を使わずに火をおこした暖炉を見ながら、小さく息を吐いたら。
刺繍の次は毛糸で編み物だと、何かを作っていたメイリアが、暖かくなったことで眠くなったらしい。
「少し眠ればいい」
「はい……」
椅子から落ちないようにと抱えて座り直したら、すぐに眠りに落ちてしまった。
最初はこのまま起きないのではと心配になるくらい、深く眠ってちっとも起きない。
それでも静かに聴こえる寝息と、もう一つの心臓の音。
「一人……いや、二人も本当に入っているのか?」
まだ小さい腹に触れながら、もっと大きくなるのだと言う言葉に首を傾げる。
そうして別な人間として産まれて、それが自分の息子か娘だとは。
すでに母になっているメイリアの頭を撫でながら、自分はいつから父になれるのかと不安になるけれど。
季節をいくつも跨いで夫婦になったように、ゆっくり親になればいいかと瞳を閉じた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
かなり長くなってしまいましたが、『冬編』も今話で終わりです。
この先はおまけとして、子供が産まれる前後や何年か後のお話を投稿する予定です。
もう少しだけお付き合いいただけたら幸いです。




