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没落令嬢の旦那様  作者: くまきち
第四部:賑やかな冬
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十八話:ゆく年、くる年

「うーん」


 またちょっとだけ大きくなったお腹を撫でながら、本当に太ったんじゃなかったんだなあと不思議な気持ちになりながら。


「うーん……」


 秋じゃなくて、妊娠がハッキリしたのは冬だから。

 指を折りながら、まだ二か月くらいだよなあと首を傾げる。


「どうした」


 秋には先に起きていることが多かったのに、寒くなるにつれてシュトレリウスのほうが遅くなっている。

 わたしがベッドでうなっていたら、細い目をこすりながらシュトレリウスが起きて尋ねてきた。


「すみません、起こしましたか?」

「そろそろ起きる時間だろう。問題はない」


 それでも頭がフラフラとして、さらに布団をかぶり直しているから起きてないな、これは。

 今日も寒いから、わたしもちょっと潜りこもう。


 頭から布団を被るように潜ったら、薄く紫色の瞳が開いていた。




「それで、どうした?」

「ああ」


 寒くて寝直せなくなったのかと思ったら、気になっていたらしい。

 もう一度、尋ねるシュトレリウスに、チラッと下を見ながら答えていく。


「あのですね、まだ二か月にしては大きくないかなと思いまして」

「大きい?」

「お腹です、わたしの」


 まさか本当に太って、脂肪分が多いってことならマズい状況なんだけど。

 そうではないみたいなのに、なんだか大きすぎやしないか?


「一人にしては大きいので、もしかして二人以上入っているのかな、と」

「二人以上……」


 じっとシュトレリウスもわたしのお腹を見つめて、そもそも妊婦を見たことがないからわからないと首を傾げてしまった。


 この家に来てから、弟が産まれたって言ってたもんね。

 お城で妊婦さんは働かないようにしているし、何かあると悪いからと立ち入り禁止にもなっている。


 というかお城に勤務している人は、もれなく自宅待機を言われるらしい。

 らしい・・・なのは、わたしは常に自宅待機のようなものだからだ。


 専業主婦も、もちろん多いけど。

 こっちの専業主婦は、家事一切メイド任せだもんなあ。わたしは違うけど。




 うーんとやっぱり考えこみながら、お腹を撫でる手にもう一つ、大きい手のひらが重なった。


「二人だとして、どちらも魔法使いだったらどうする気だ?」

「え、別に?」

「”別に?”?」


 うかがうような、探るような。

 ビッミョウな顔でのぞきこむシュトレリウスに、前にも言った言葉をそのまま伝える。


「だって魔法が使えても使えなくても、わたしたちの子供なことには変わりないでしょう?」


 何をいまさら心配しているのか知らないけど。


 魔法使いだったら、シュトレリウスと同じくお城へ永久就職が決まったようなもので。

 そうじゃなくても何かしらの仕事には就くんだろうから、どっちでも変わらないでしょ。


「違うとするなら……名前の長さかな?」


 魔法使いはやっぱり決まっているみたいで、ちょっと他の人よりも長めの名前になるらしい。

 それ以外でも色々あると、この前来たときに国王様直々に教えてもらった。


 そんなことよりも三日放置してもピンピンしている、不思議野菜の謎を解明してくれ。




「あ、でも女の子はそれほど長くはなさそうですよね?リュレイラですし……って長いか」


 もしもわたしの下の弟妹きょうだいみたいに、男女の双子だったのなら。


「男の子が魔法使いで、女の子が普通だったら。んー……やっぱり似ているけど、長さの違う名前が良いですよね」


 わたしの父親が今までに考えて書き出した孫の名前一覧は、なんと総勢五十人分だった。

 一体、わたしが何人産むと想定しているんだ。あれか、孫の孫まで考えてこれなのか?


 それでも最初の子供なんだからと、丁重にお断りをして、わたしたちで一から考えることにした。

 だからって、二人目も簡単に名付け親にはさせないけれど。


「女の子が魔法使いで、男の子が普通だったら”ロミオとジュリエット”が浮かぶんですけど」


 でもこれは悲劇の恋人たちの名前だから、兄妹につける名前ではないか。

 かわいいしシュトレリウスと似ているから、ちょっと気になっているんだけどな。


「でもとにかく、どっちも魔法使いでも一人だけでも、どっちも魔法が使えなくても関係ありませんよ。計算が得意とか、かけっこが得意とかと同じです。ただの個性ですから」


 それでも親のわたしたちよりも寿命が短いとされるのは、魔法使いの困ったところだ。


 まだ変な顔をしている、シュトレリウスをじろっとにらむ。


「変なことを気にするのなら、長生きできるように気を付けてください」

「……わかった」


 小さく頷くシュトレリウスに、まだ産まれてもいないけど、孫も楽しみにしようねと言ってやる。

 勝手に先に死んだら、引きずってでも現世に戻してぶん殴ってやるんだからな。覚えておけ。




 雪も深まって年末が近付いてくると、普段は気にもしないのに。

 国中がそわそわしているからか、なんだかこっちも急かされるような気になってくる。


「ん?」

「誰か近付いてきたようです」


 雪が降るのに晴れの日が多くて、そうすると運動がてら畑を見に行くことが日課になっていた。

 そんなわたしに今日も付き添うリュードが、閉じられた門に向かって鋭くにらむ。


「……」

「……」

「なんにも声、掛けてこないね?」

「そうみたいですな」


 義弟が来てから閉められることが当たり前になった門扉は、今日も二重に閉められたまんまだ。

 そもそも誰も近付けないからって、今までが無防備すぎたんだよな。


「わたしの家族だったら、そもそも馬車で乗りこんで来るよね?」

「ついでに普通に声も掛けてきますよ」


 馬車の音はしないけど、人の気配はしている。

 なのにちっとも声を掛けてこないということは、配達の人ではないらしい。


 この家に近付けて、でも声を掛けることは躊躇ためらっていて。

 そんな人物に心当たりはあるけれど、わざわざ門扉を開けることはないか。


「無視でいいね」

「そうですな」


 ベルが付いているんだから、用があったら鳴らすでしょうと。

 門扉の前でウロウロする人物は、華麗に無視をすることにした。




「……ん?」

また・・、来ているみたいですな」

「だよね」


 今日で三日連続だ。ストーカーか。

 っていうかシュトレリウスもストーカー一歩手前だったから、血筋なのか?嫌だな。


「塩、まいておきましょうか?」

「開けないし、もったいないからいいよ」


 義弟が来たらしいと話してから、ユイシィは常に塩が入った壺を持って門扉をにらむようになった。


 もちろん細かい粒子の塩粒ではなく、当たったら痛い岩塩だ。

 大きさは拳大だから、冗談じゃなくてかなり痛いと思う。


「本気ですから」

「その時はよろしく」


 そのまま今日も無視をして、何日か吹雪いた日が続いたと思ったら二人が実家に帰る日になってしまった。


「さすがに吹雪の日は来なかったみたいですけど、絶対に開けちゃダメですからね!」

「わかってるってば。気を付けて行ってらっしゃい」


 お城の馬車に乗りこんだ二人をシュトレリウスと見送って、まだ気にしている二人にしっかりと岩塩の入った壺を持って頷いた。


 次に会ったら拳大のこの岩塩じゃなくて、本物の拳をぶつけるから大丈夫だよ。




 手を振って見送りながら、そういえばシュトレリウスが誰かに「行ってらっしゃい」と言ったのは初めてじゃない?


「そうだな」

「リュードがビックリしていましたもんね」


 そもそも春に挨拶をしなかったシュトレリウスが、今では普通に挨拶をしていることも、いまだに不思議そうな顔をしている時があるもんなあ。

 あの時のわたし、よく頑張った。うん。


「何度も背中を蹴られたくないからな」

「挨拶をしないのが悪い」


 だからシュトレリウスの自業自得だと、手を繋ぎながら家の中に戻ることにする。

 挨拶は基本なんだから、嫌いな人にもしっかりしないといけないんだよ。


 そう言いながら門扉を閉めようと手を伸ばしたら、馬車がこちらに近付いてくる姿が見えた。




 ……早速、嫌いな人っていうか殴りたい人が向こうからやってきてくれたらしい。

 いいだろう、今さっき挨拶の重要性をシュトレリウスに話したのはわたしだもんね。


 シュトレリウスも誰が来たのか気が付いて、サッサと無視して門を閉めようとするけれど。


「今年の汚れは今年のうちにとよく言いますし、挨拶は大事って言ったばかりでしょう?」

「今のメイリアに何かあったら、何をするかわからない」

「物理的でも魔法も何も使うなって言ったでしょ」


 シュトレリウスを隠すように門の中に入れて、すぐに閉められるように準備だけしておけと言って待機をさせたら。

 わたしは門のかなり先に止まった馬車から出てきた人物に向かって、ニコリと微笑みながら拳を握りながら声を掛けた。


「あらぁ、お義父様。ご機嫌よう」

「や、やあ、シュトレリウス。……メイリアさん、その拳は何かな?」

「挨拶ですよ、大事でしょう?」

「そ、そうか……」


 ヘラッと微笑んだ顔を引きつらせながらも、ニコニコと近付くわたしの拳から視線を逸らさない。


 両手を挙げてどうどうとなだめるようにしながらも、わたしから距離を取ろうと同じ分だけ後ろに下がっていく。おい、逃げるな。




「も、もう一人の息子がお世話になったようで」

「多大な迷惑は掛けられましたけど、世話をした覚えはありませんね」

「その節は大変申し訳なく……」

「いいですよ、もう。わたしもその分、キッチリとやり返しましたから」

「知っています」


 顔を殴ったのに音沙汰がないから知らないのかと思ったけれど、二回目は気付いたと話していく。


 ふぅん……シュトレリウスが母親に髪を切られたときは、すぐに気が付かなかったクセに。

 リュードが真っ先に気付いて、もうこの家にはいられないと言ってからとか遅くない?


 喧嘩売ってんの?それなら高値で買い取って差し上げますけど。


「それより、何しに来たんですか?」

「孫ができたと」

「あ?」

「……子供ができたと国王様に聞いて、その」


 なんだ、お祝いでも持ってきてくれたのか。

 そのわりには手ぶらだなあ、おい。……やっぱ喧嘩売ってんの?




 下からにらみつけるようにしたからか、何歩も下がっていくファウム家のご当主様。

 おいコラ。かわいい息子のかわいい嫁から、なに逃げてんだ。


「拳を握りながら近付く嫁は、普通に逃げたくなるだろう?」

「ああ」


 ギリギリと握り過ぎて白くなっている拳を見下ろして、一旦開いたらもっとぎゅっと握り直す。


「安心してください、お義父様。顔は狙いませんので仕事にも行けますし、他の人にも気付かれませんよ」

「ちっとも安心できません」


 雪道でも関係なく一気に距離を詰めたわたしに、固まった義父は無防備に殴られて、無残に雪の上に投げ飛ばされた。


 宣言通り、顔は狙わなかった寛大な嫁に感謝をするように。


「はあ……スッキリした」


 やっぱり、今年の汚れは今年のうちにスッキリ綺麗にしておくのが一番だ。

 早速、畑周りを毎日歩いていた成果が出たね。やっぱり運動って大事だな。


 パンッと一つ手を打ったら、お別れの挨拶もしてやろう。


「それでは、お義父様。よいお年を」


 サッサと門扉を閉めて鍵も掛けたら、シュトレリウスと手を繋いで家に入ろうっと。


 バタン


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