十七話:聖夜の贈り物
「こんばんは、メイリアさん」
「帰れ」
ニコニコと、いつもの微笑みを浮かべた白金の髪の魔法使いがなぜここにいる。
もう日が沈んだ夕方なのに、相変わらず髪と笑顔がまぶしい。
今はわたしからの視線に、ほうっと艶のある溜息を吐いてさらに輝いている。気持ち悪い。
「シュトレリウス様の誕生日を祝うことと一緒にクリスマスもすると聞きまして」
「じゃあ、遠慮しろや」
さすがに採寸のときみたいに、国王様と王女様はいないけれど。
だから代わりに自分が来たのだと、大量の箱と一緒に馬車から降りた。
「国王様は出掛けられますけど、先日の王女様は特例でしたからね」
何か色々と面倒くさいことをして、やっと塔から出れたのだと話していった。
本当は来る気でいたってことは、産まれたと連絡したら飛んできそうだな。
それなら落ち着くまで絶対に教えないことにしよう。
白けた視線を向けたら、何かに気が付いたのか慌ててしまった。
それでもグッと親指を立てて、「さすが!」とか言わなくていい。そんな世辞はいらんわ。
「……じゃなくて。いえ、その視線は最高ですけどそうじゃなくて。産まれたばかりに押し掛けたりしませんから、ちゃんと教えてください!」
「当たり前だろうが。そんな時期に来たらぶん殴るぞ」
お産というものを知っている母親なら助かるけど、他人が来る時期はもっと後だ。
それこそ遠慮しろ。
なのにわたしが殴ると言ったことで、来ない予定にしていたデーゲンシェルムが躊躇い始めた。
おい、産んだばかりのわたしに何をさせる気だ。
期待した碧い瞳を向けるんじゃない。気持ち悪い。
二度と来させないようにしようかと思っていたら、隣りから異様な気配がして。
チラッと見上げたら、シュトレリウスがローブ越しでも何をする気かわからない気配をしていた。怖い。
「……」
「……」
わたしよりも、ものすごい殺気を放っているシュトレリウスに気が付いたらしい。
今までにないシュトレリウスの本気に、ぱあっと顔を輝かせるデーゲンシェルムの弱点て本当になんなんだろう。不死身か、こいつ。
しばらく無言で睨む、シュトレリウスの殺気を堪能したのか。
満足そうな顔になったと思ったら、「何が起こるか楽しみだから来たいけど、死ぬわけにはいかないから来ない」という、意味がわからないことを言って帰っていった。
「……塩、まきますか?」
「戻ってきて直接ぶつけてくれとか言いそうだからしない」
「ですね」
こういうストレスも、前よりくる気がする。
……産まれて一年くらいは来ないでほしいかも。
下の弟妹はデーゲンシェルムに引いているから、変な影響は受けていないみたいだけど。
産まれたときから会っていたら、妙なことになりそうで気持ち悪い。
来ても中には入れないで、門で追い返そう。
よし、決定。
はーっと疲れ切った溜息を吐き出したわたしに、静かにシュトレリウスが頭を撫でていく。
もっと撫でろ。
っていうか、連れてこないでって頼んだじゃん。
「……すまん」
じとっと恨めし気に睨んだら、国王様と王女様も来ようとしていたところをデーゲンシェルム一人にしてもらったとぼそぼそ呟いていく。
その二人よりはマシだけど、マシってだけだからな?
結局いつもは無視するのに、こういうときは無視しきれないんだよね。
強気なんだか押しに弱いのか、よくわからないシュトレリウスだな。
さっきは気配だけでも危険だったのに、今はしょんぼりと項垂れている。
やっぱり大きな黒犬みたい。
そのかわいさに免じて、しょうがないから許してやろう。
「それで、あの大量の箱はなんですか?」
「誕生日とクリスマスのプレゼントらしい」
「……シュトレリウス様への?」
「いや、クリスマスプレゼントはみんなでと言っていた」
食べ物ではないらしいけど、何が入っているんだろうか。
まさか今度こそ、変態が出てこないよね?
デーゲンシェルムが持ってきた箱は、何往復かに分けてリュードが運んでくれた。
一気に談話室が埋まって、せっかく掃除をしたのに意味がない。
プレゼントだとは言っていたけど、無条件にこんなに贈られると不安しかない。
まさか一番乗りしようと、大量の子ども服とか入れてきたんだろうか。
性別も、人数さえもまだわからないっていうのに。
軽く着替えて食堂に集まったら、さっきのことは脇に置いておいて。
楽しい誕生日兼クリスマスパーティーを始めようっと。
買ってくるよりも作ったほうがいいと言われた言葉通り、昨夜から仕込んだりして頑張った料理を並べていく。
「いただきます」
四人で並んだ夕食後は、談話室でケーキを食べながら、それぞれの箱を開けてみることに決めた。
リュードとユイシィへの、クリスマスプレゼントも渡さないと。
……喜んでくれるといいんだけどな。
もぎゅもぎゅとメインもサラダもスープもと、いつもよりも豪華な食事を口に運ぶ。
今日はお祝いだもん。カロリーなんて気にしない。そう、気にしない。
「美味しいぃぃ、ユイシィ天才!」
「えへへへ……」
例によってわたしはあんまり手が出せなかったから、ほとんどがユイシィの手作りだ。
タンドリーチキンだけは、なんとリュードが焼いてくれた。意外過ぎる。
焼き上がって艶のある、美味しそうなお肉にスッと綺麗にナイフを入れて、リュードが手際よく切り分けていく。
色も綺麗だけど、中のお肉がとってもジューシーでパサついていない。プロか。
「奥様が来るまで、誰が食事を用意していたと思っているんですか?」
「そうだった」
作っている最中の動きは、経験者そのもので無駄がなかったもんね。
シュトレリウスも久しぶりのリュードの味が嬉しいのか、いつもよりも口の端が上がっている。
ん?つまりシュトレリウスのおふくろの味的なものって、リュードが作った料理になるのかな?
……今度、何をよく出していて、よく食べた料理は何か訊いてみようっと。
それもなんだか、とてもいまさらな気がするけれど。
和やかに夕食が進む途中で、苦手だと言っていたトマトをサラダの中に見つける。
小さい頃から一緒で、食事の支度をしていたのなら。
シュトレリウスの好き嫌いも当然知っていたはずなのに、これは教えてくれなかったんだよね。
「教えることで、出さないように加減をされたら困るじゃないですか」
執事で庭師のリュードは、やっぱりシュトレリウスのお母さんみたいだな。
「今なら奥様のことを知っていますから、その程度で出さなくなることはないとわかりますけど」
「うーん……そうだね。聞いたら逆に出しまくるかも」
「しかし教えていないのに、まさか毎日のようにトマトと卵料理を出すとは思いませんでしたよ」
あれはほら、だってさ。……シュトレリウスのせいだもん。
自業自得なんだと顔を逸らしたら、シュトレリウスも妙な顔になってしまった。
まあいいじゃん、今は食べられるようになったんだからさ。
時々、二人は給仕をしながら。
それでも同じテーブルで、四人で同じ料理を食べていく。
これはこれで家族だよなあと思いながら、そういえば子供部屋ってあるんだろうかと気が付いた。
「子供部屋?」
「そうです。ありましたっけ?」
掃除をしているから、一通りこの家の中は把握している。
両親と双子たちが泊った部屋はお客様用の部屋だし、執事とメイドの部屋もまた別だ。
暖炉のある部屋に、採寸をしてもらった別な部屋と数えていって、余裕があるようでなさそうな我が家の部屋事情に気付いてしまった。
シュトレリウスも首を傾げているから、産まれる前に増築しないといけなかったりするかな。
「ありますよ」
「はい、ありますよ」
「え、どこに?」
リュードもユイシィも頷いて、子供部屋はきちんとあると教えてくれた。
でも今ので全部のはずなのに、わたしのまだ知らない部屋があったのだろうか。
「旦那様と奥様の寝室の奥ですよ」
「ん?……ああ!」
わたしが嫁に来たときの荷物とか、シュトレリウスの小さい頃の服とか。
そういう細々としたものが押しこめられている、納戸みたいな部屋の存在が子供部屋らしい。
「あの部屋にあった荷物は、すべて屋根裏に移動すると話したでしょう?」
「そうだったかも」
わたしの妊娠が発覚してから、一気にあちこち片付けていたから忘れていた。
年末の大掃除も一緒にしていたし、何よりあの部屋にわたしの荷物はほとんどないから入ってないんだよね。
「普通はもっと上等な服があるものなのに、奥様の持ってきた服は汚れてもいい服、でしたもんね」
「掃除は日常ですることだし、苗を植えかえたりする時は汚れるじゃん?」
「はー……」
もっと普段からいい服を着てくれと、旦那様よりもメイドがガッカリと呟いていく。
いいじゃん、また着るんだもん。……産まれてお腹が引っ込んだら、だけど。
大量の箱を開けながら、中身を見ながらお茶をして。
二人にもクリスマスプレゼントを贈ったら、せっかくだからと早めに眠ることにする。
「残りは明日、開けましょう」
「箱の中にいくつも箱が入っているとか意味がわからん」
「まったくです」
シュトレリウスに頼んだ、二人へのプレゼントは喜んでもらったからと。
じゃあ次はこの大量のプレゼントの中身を見ようと、勢いがあったのは最初だけで。
「これ以上あの箱たちに触れると、おかしくなりそうです」
「わかる」
一つ一つ丁寧に包装されていて、リボンは金縁で包装も上等な布張りの箱とか。
さらにデーゲンシェルムが持ってきた中で一番大きな箱は、箱の中にいくつもの箱が入っていた。
「意味がわからん」
「王様になっている人ですから、常人では理解できないんですよ」
箱の中の小さな箱たちの、中身までは辿り着けなかった。
今日はもう見ないってことにして、ふかふかの毛布に包まれることにしよう。
文字通り、残りの箱たちは部屋の隅っこに置いてそのまま扉を閉めることにする。
バタン
「はー……さっぱりした」
まだそんなにお腹は大きくなっていないのに、髪くらいは洗うと頑固なシュトレリウスが譲らない。
頭を撫でるよりも、わしゃわしゃとするシャンプーは気持ちよさが段違いだ。もっとしろ。
いつもと同じく、シュトレリウスの頭も拭こうとタオルを手に取る。
……でも、このタオルはいつもと違うんだからね。
「なんだ?」
「だって誕生日プレゼントは何がいいのか、何度訊いても教えてくれなかったから」
「?」
デーゲンシェルムに言われて、買ってきてくれた花束だけれど。
わたしにとっては初めての贈り物なんだから、わたしからも最初にしたんだよ。
「押し花にしたでしょう?あれを見ながら、タオルに刺繍をしたんですよ」
「刺繍?」
普通ならハンカチなのかもしれないけど、どうせならいつも確実に使っているものがいいなって思ったんだもん。
タオルなら毎晩、髪を拭くときに使うから、使ってくれているってわかりやすいし。
まあ髪を拭いているのはわたしだから、シュトレリウス自身はタオルの刺繍なんて見ないだろうけど。
「もらったと言ったはずだが?」
「何をわたしからもらったのかは、教えてくれなかったじゃないですか」
わたし自身は贈った記憶がないんだから、シュトレリウスがもらったって言っても、何をあげたのかわからない。
「いいから。……たくさん使ってください」
「わかった」
ちょっと困ったような、よくわからない複雑な顔で微笑んで。
何かを噛みしめるような顔でもあるから、何を想っているかはよくわからないけれど。
とりあえず嬉しいみたいだから、いいってことにしておこう。
「誕生日、おめでとうございます。シュトレリウス様」
「……ありがとう」
来年は、新しい家族とも一緒にお祝いしようね。




