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没落令嬢の旦那様  作者: くまきち
第三部:深まる秋
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エピローグ ~秋晴れの日に~

「……おかしい」


 今はとっくに朝日が昇って、さらに気温が少しずつ上がってきた時間なのに。


 いつもならメイドのわたしよりも先に厨房にいて、朝食を作っているはずの奥様が来ない。




 昨日は確かに、朝からずっと嵐で荒らされた庭を片付けていたから疲れているのかもしれないけれど。

 旦那様だって、いつもよりも高度な魔法を使ったのか、ぐったりと疲れ切って帰ってきた。


「だからって、もうかなりいい時間なんだけど」


 腕を組んで、すでに出来上がっている朝食の数々を眺めながら考えこむ。


 これはアレか、起こしに行ったほうがいいんだろうか。

 それとも春に結婚してからこっち、まったくなかったことでも起きたんだろうか。


「どっちだろう……」


 選択を見誤ったら、絶対に一生許されないと思う。


「どっちだ……」


 そもそも旦那様と奥様のお子様を心待ちにしている人の中には、この国の王様だっているのだ。

 だから迂闊に選択を誤ると、ちっぽけなメイドの命が危うい。


「デーゲンシェルム様も迎えに来ないということは、今日は休みなんじゃないですかい?」

「よし、じゃあ無視で!」


 触らぬ神になんとやら。

 それにもういい加減、待ちくたびれてわたしのお腹も限界だ。


「というわけで、いただきまーす」

「いただきます」

「あー、ちょっと冷めちゃったか」

「それは仕方がないでしょう」


 今日も渾身の出来のスープが冷めてしまっているけれど、それでも美味しいからいいやと、厨房でリュードと二人で朝食をいただいていく。




 ……あれ、なんだかここも夫婦みたいじゃない?

 いや、そんな、まさか。


「ユイシィ」

「はいっ!?」

「今日は別な木に絡まった薔薇を切るから手伝ってほしいんだが」

「あ、ああ、はいはい。わかりました」


 ああ、ビックリした。




 あんな嵐なんてなかったかのように、外は今日も良い天気で。

 まだちょっと庭は荒れているから、お客様なんて呼べないけれど。いつも勝手に来る人ばかりだし、そもそも身内だからいいかと思い直してパンをちぎっていく。


「今日も晴れそうですな」

「……そうですね」


 同じく外を見ていたリュードが、今日も晴れそうだと穏やかに呟いていく。


 春になって夏が過ぎて、秋が来たと思ったら、もうすぐ冬になる。


「来年は、もうちょっと賑やかになりますかな」


 食べ終わった食器を持ちながら、悪戯っぽく笑ったリュードがいまだに起きてこない二人をからかうように呟いた。


「そうだと良いんですけど」


 ニヤリとわたしも呟いて、まだ若い夫婦を今まで通りにこっそりと見守ろうと頷いた。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

今話で【第三部:深まる秋】は終わりです。

続きは【第四部:賑やかな冬】になります。

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