中編
後日談ではなく、『本編』を前編として、中編、後編の3部作になりました。
「で、彼とはどうなってるの?」
「今まで通り、特に変わったことはない。」
友達の茉莉とお昼を食べていると、そう突っ込まれた。そう、衝撃的な告白をしてくれた礼二さんだけど、それまでと特に変わったことはない。いつものように、うちに料理を差し入れてくれたり、二人で出かけたり、うちの家族をお勧めのお店に連れていってくれたり。
「ところで、和香、なにしてるの?」
「え?ピーマンといんげんと玉ねぎを茉莉のお皿に移してる。結構真剣。」
「あんた、食べられるようになったって言ったじゃない。」
「ああ、礼二さんの作ったものならね。お店のは無理だった。」
呆れてる茉莉の皿にせっせと乗せる。よし、全部取り除いた。これで食べられるぞ。
「もう、完全に胃袋掴まれてるじゃない。」
「う、確かにそうだけど、でも、私だけじゃないよ!両親もだもん。」
「・・・橘家の胃袋は攻略済みかぁ。どこが変わってないんだか。」
「え?何か言った?」
「いや、お一人様届、取り下げる気になったら言ってね。」
「だから、まだそんなんじゃないんだよ!」
「ふーん、まだねぇ。」
そりゃ長野課長って呼んでた時よりは、礼二さんとの距離は凄く近くなってると思うけど、でもそれが結婚に結びつくかどうかはよくわからないんだよ。
「ああ、そう言えば加奈子がとうとうお一人様届出すって。」
「そうなの?結構頑張ってたのに。」
「やっぱりね、重婚は推奨されてても、個人的にはちょっと、嫌だよね。」
「加奈子がいいと思う人って大体重婚希望の人だったらしいね。」
加奈子、他の人と旦那さんの共有なんてできないって言ってたもんな。私の友達ってほとんどの人がお一人様届出してるよなあ。茉莉もそうだし。重婚推奨って本当に日本人の人口を増やすのに役立ってるんだろうか。
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女子更衣室に入ろうとすると、中から結構大きな声の会話が聞こえてきた。それはいつもの事だけど、今回は内容に驚いて外で聞き耳を立ててしまった。
「この間、長野課長に美味しいお店に連れてってもらったの。」
「ええー。いいなー。」
「嘘!二人っきり?」
「そうよ、二人っきり。すごいおしゃれなレストランだったの。」
「もしかして、脈アリなんじゃない?」
「橘さんと同期なだけで付き合ってる感じじゃないし、告っちゃいなよ~。」
「例え付き合ってたって、関係ないじゃん、重婚オッケーなんだし。」
「でも、橘さんと一緒ってのがねえ。」
ああ、なるほど。私はその話を聞いて凄く納得した。礼二さんと二人っきりで食事に行ったていう女子社員の言葉じゃなくて、その話を聞いてあおっていた他の女子社員の『橘さんと一緒』という言葉。誰かと一緒に礼二さんと過ごすってことを考えて、無理だと思った。というか、礼二さんは私が一人占めしたいのだと気づいたのだ。なるほど、これが人を好きになるということで、結婚したいという気持ちになっていくものなんだと。
とはいえ、やっぱりムカムカするよね。礼二さんが女性と二人きりで食事とか。いや、でも会社の後輩連れてお昼に行ったりもしてるし、いや、それは何人かいるよね、いや、でも・・・。うーん、グルグルと考えが止まらない。
礼二さんに直に聞けばいいんだろうけど、なんていうタイミングだか、礼二さんは出張であと3日は帰って来ない。かといって、電話やメールで聞くのはなんか、私、彼女じゃないんだし、そんなことを聞ける立場なのかと思うと、聞きづらい。
よし、礼二さんと会えるのは週明けだ。その時にきちんと告白をしよう。それで、礼二さんにこのことを聞こう。そう決意して、私は仕事に頭を切り替えた。
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今日は日曜日。明日は礼二さんに会える。仕事が忙しそうだったから、携帯にメールとかしてないんだよね。でも、出張に行く前に、月曜に一緒にご飯を食べようって約束してあるから大丈夫だと思うんだけど。さて、いざとなったらなんと告白すればいいんだろうか。
『好きです』?『好きだと気づきました』?『礼二さんを独占したいです』?
いや、なんかどれも恥ずかしいけど・・うん、ネット小説でなんかいい告白の言葉がないか探そう。いつも通りネットを開いて、ニュースの見出しをざっと見る。そこにあった言葉に首をかしげる。
『恋多き女優、〇〇。3度目の結婚も失敗か。離婚間近の噂』
あれ?この人、旦那さんが二桁いったって人だよね?重婚推奨してるから、離婚は禁止されてるのかと思ってた。まあ、結婚してみてわかることもあるんだろうし、さすがに離婚禁止はないか。でも、おかしくない?3度目の結婚って、この人、10回は結婚してるはずだけど。3番目の人との結婚ってことかな?
まあ、所詮他人事だしな、と思って小説サイトに飛ぶ。あれ?小説の話数が変わってる。まどかちゃんが何人もの男の子と逆ハーを築くのが嫌だったんで、読むのやめてたんだけど、確か、100話以上あった話が、最新が90話になってる。削ったのかな?
とりあえず、しおりがしてあった所の話を読んでみる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ごめんなさい。二人の気持ちは嬉しいけど、私は明音くんが好き。明音くんが誰を想ってても、明音くんだけが好きなの。』
『俺はあいつよりまどかを幸せにできると思ってる。』
『今だって、まどかはあいつに泣かされてたじゃないか。』
二人がまどかに詰め寄ると、上から声がした。
『悪いけど、まどかちゃんを幸せにするのも、泣かせるのも、僕だけだから。』
驚いて3人とも上を見上げると、木に登っていた明音が飛び降りた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
え?何で明音くん、木の上にいるの?・・・いや、そうじゃない。あれ?話が変わってる?これは、あの日、私が読んでいた話の続きだ。明音くんの浮気疑惑があって、そこに瑠偉くんと恭介くんが付け入る隙を見いたして、まどかちゃんにせまった続き。
慌てて私は居間に下りた。そこにはいつも通り母がテレビをつけてお茶を飲んでいた。やっぱりやっているのはあの女優のニュース。
「お母さん、この女優さん」
「あー。3度目の結婚も駄目っぽいわねえ。まあ、3回もしてればいいと思うわよ。まだ一回もして無い娘がどこかにいるものねぇ。」
「それって私の事?」
「そうよ。あんた、いつまで一人でいるつもりなの。そろそろ結婚してもいいんじゃない?」
「私、ちょっと部屋にいる。」
どういうことなんだろう。ううん、もう予測は付いてる。ネットで重婚を検索する。やっぱり重婚は禁止されている。私は元の世界に戻って来たんだ。慌てて日にちを確認する。そこには11月の文字が。昨日の次の日が表示されていた。礼二さんと過ごした4、5ヶ月がきれいさっぱり消えてしまった。
礼二さんと仲良くなったのは、あの重婚のせいでジューンブライドが多発したおかげ。ということは、こっちの世界じゃそんな現象は起きなかったはず。そうだ、何か礼二さんとのやり取りが残ってないだろうか、慌てて携帯を探す。携帯、どこに行ったんだろう。あっちの世界では、携帯を見ると礼二さんに連絡を取りたくなるから見えないところにしまってたんだよね。
やっとバッグの中から探し出して、二つ折りの携帯を開く。うわ、充電切れてる。充電器を探そうと慌てた私は、携帯を落とし、尚且つそれを踏んでしまった。真っ二つに割れた携帯は、若干線でつながってるっぽいけど、確実に壊れた。何でこんな時に限って!!今からショップに行っても、日曜ですごく混んでるだろう。それに、メールの履歴や電話の履歴もわかんないだろうし。
両親に聞くことも考えたけど、もし、こっちの世界で礼二さんとの接点がなかったらただの妄想娘だ。頭の心配をされるだろう。もしかして、結婚結婚て言いすぎたからとか母が自分を責めるかもしれない。そうだ、友達だったら、茉莉だったらこんな話しても笑い飛ばしてくれるかも。茉莉に聞こう、と思って、携帯を・・・壊れたんじゃん!!電話番号もメアドもわかんない。結局私は月曜日を待つしかなかった。