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前編

ジューンブライド肯定派な方にはすみません。

『ごめんなさい!瑠偉くんも、恭介くんも、二人とも大好きなの!!だから、私、二人のうち、どちらかなんて選べなくて・・・』

『なんだ、そんなこと。』


恭介が呆れたようにそう言った。その言葉にカチンとくるまどか。


『そんなことって』

『だから俺達から離れようとしてたのか。』


瑠偉は恭介と顔を見合わせると、ため息をついた。


『言ってくれれば良かったのに。まどかが悩む必要なんてなかったんだよ。俺たちは二人ともまどかの夫になるつもりだった。』

『まどかなら、きっと俺たち以外にも夫ができるだろうけど。覚悟してるさ。いい女だもんな。』


二人の気持ちに驚いて、まどかはもう一度聞いた。


『いいの?本当に?』


二人は頷くと、まどかに近づき、二人でまどかを抱きしめた。


『ああ。みんなで幸せになろうぜ。』



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



・・・ってそんな話あるかい!!まどかちゃんは幼馴染みの明音くん一択だったでしょ!?どんなイケメンくんたちが言い寄ろうとも、びくともしなかったじゃない。


ネット小説を読みながらツッコミをいれる私。おかしい。やっぱり書き直されてる訳じゃない。コメントだって随分前の日付だし。一体、どういうこと?


今日は会社が休みでごろごろしようと思ってた。で、ゆっくり起きて、まずネットを立ち上げたのだ。トップページは大手の検索サイト。ニュースの見出しにひかれるものがあれば、まず先にそっちを読んでからネット小説にどっぷり嵌まるのがいつもの私の行動パターン。


ニュースの見出しをざっと見ていくと、そこには『重婚率が上がった』とかおかしな文字があった。


はい?えーと、確か、重婚って認められてないですよね?あ、もしかして今日ってエイプリルフールとか・・・ないわー。


パソコンの右下の日にちは6月を表示している。うん、わからないことはグーグ〇先生に教えてもらおう。・・・ええっと・・・うん、ウィッキー先生の方がいい?・・・じゃあ、別の先生で・・・


あちこちのサイトを見てみるけどみんなほぼ同じことが書いてある。



‟日本は少子化対策として重婚を認め、推奨することになった”



それが私の調べた結果だった。まあ、問題は丸投げして、いつも通り小説サイトに飛んだのだけど、そこにあったのは私が読んだことのなことのない話だった。


ネットに上がった日にちを変えることはできないだろうし、コメントしてる人の名前も同じなのに、コメント内容は全然違ってる。ウイルスにしたってこんな動きはしないよね。釈然としないまま、私は居間へ下りていった。


**********


「おはよー。」

「おそよう。あんた、いくら休みの日だからってだらだらし過ぎよ。」


居間には母がいたから、朝の挨拶をしたのに、そう返された。解せん。まあ、12時になりそうだけどね。自分の席に座ると、母がつけていたテレビ画面に、さっきニュースの見出しで見た『重婚率』の文字と共に有名な女優さんのウェディング姿があった。


「あれ?その人、結婚式って随分前にやったんじゃない?」

「また昨日結婚したんですって。とうとう旦那さんが二桁になったのよ。恋多き女優って言われてるけど、本当に多いわよねえ。」


二桁・・・。旦那さんが10人いるってこと?そんな気力があることがあっぱれだ。こういうニュースを見ると、決まって母に、それに比べてうちの娘はとか、お前、結婚したいと思わないの、とか色々言われる。だから、こんなニュースや重婚が推奨されてるなら、もっと強く言われたりすると思ったんだ。一人くらい分けてもらえば?とか言われると思って、身構えていたけど、いつまでたっても母は無言でテレビを見てる。


「お母さん、私に何も言わないの?」


耐えきれなくなり自分から話を振ってしまった。そうすると母は呆れたように言った。


「何を?うちの娘も一人でいいから結婚してくれないかなとか?今更じゃない。あんた、誕生日早々お一人様届け出すんだもの。」


お一人様届けって何!?結婚しませんってことかな。とりあえず朝昼ごはんを食べてから、ネットで調べよう。



調べた結果、国民は結婚できる年齢になると国から異性のデータが送られてくる。要はお見合い写真みたいなものだ。で、そのリストの中から、週に一度デート相手を決めなくちゃいけない。人気のある人は順番待ちらしいけど、順番が来るまでは別の人とデートしなくちゃいけない。


データには住所、氏名、年齢の他、職業や年収なども入ってる。個人情報は!?と思ったら、個人情報保護法は廃案になったそうだ。それにしても、週一で知らない人と会うなんて、人見知りする私には無理だ。


そんな人のための救済措置なのか、『お一人様届(生涯独身届)』という物を申請すると、そのお見合い攻撃から逃れられる。その代わり独身税という物が課せられるのだそうだ。大体の場合は、何人かとお見合いをして、「自分、結婚ムリっす。」という結論に達した人が出すらしいけど、私は誕生日早々提出したらしい、ぐっじょぶ私。


どうも、一晩寝てちょっと違う世界に来てしまったらしい。とは思うのだけど、特に困ったこともないし、明日は普通に仕事だし、ダラダラ休日を満喫しよう。



**********


今日は大好きな小説の発売日。異世界の話だから、重婚関係ないし、今までの巻の話も変わってなかったから違和感なく読める。残業なんてしてる場合じゃないので、コンビニおにぎりを用意して昼休み中に仕事を進めておく。今日はおにぎり100円デーだった。ラッキー。ついつい買いすぎちゃって、余ったおにぎりは夕飯だな。


そんなことを考えていると、ガラガラっとドアの開いた音がする。昼休みはまだあるし、今頃誰が入って来たんだろうと思ったら、長野課長だった。長野課長は私と同期で一番の出世株だ。営業で外を回っているので、あまりこの時間に会うことはないんだけど、どうしたんだろうか?


「お疲れさまです。」

「ああ、橘さん、お疲れ・・・」


そう言うと、じっとこっちを見て固まってしまった長野課長。もしかして、仕事しながらおにぎり食べてたのが良くなかったか?まあ、お行儀良くはないけどさ。禁止ともいわれてないから、大丈夫かなぁと思ってたんだけど、アウトでしたか。


「その、そのおにぎり・・」

「すみません。今日、早く帰りたかったのでご飯を食べながらやってたんですけど、駄目でしたか。」

「食べ、終わったの?」

「ええ。今日おにぎり100円デーで買いすぎちゃって、余っちゃったんですよ。」


いつもこんなにおにぎりを食べるわけじゃないんだよと、遠回しに言っておく。


「余ってるの?」

「ええ。余ってます。」

「橘さん、そのおにぎり」


ぐーっと長野課長のお腹が鳴った。もしかして、財布を忘れちゃったのかな?そう言えば、長野課長の目線はおにぎりに固定されていた気がする。


「食べますか?」

「もらう!!!!!」


長野課長はものすごい勢いでおにぎりを食べ始めた。とりあえず、お茶を用意して席に置いたんだけど、気付いていないような夢中っぷり。どれだけお腹すかせてたんだろう。気づくと残っていたおにぎり5個、全て長野課長のお腹に納まってしまった。夕飯に食べようと思ってた150円おにぎり、サーモンイクラも食べられてしまった。帰りに買い直そう。


「あー。3日ぶりにまともな飯だったー。」

「え!?3日ぶりって長野課長、どうしたんですか?」

「ご祝儀貧乏真っただ中なんだよ。今月、結婚式が多くて。」

「あー、ジューンブライドってやつですか。」

「そうそう。なんで梅雨時期にやるかねえ、蒸し暑くてじめじめしてんのにな。」

「別に結婚式なんていつやっても同じだと思いますよね。」


特定の月にまとまるのは呼ばれる側としてはきついよねえ。あ、そう言えば重婚推奨があったんだっけ。じゃあ、結婚式の数ってもっと多いってこと?


「今月、毎週土日結婚式で、平日週2日くらい、二次会だけ呼ばれてんだよ。」

「えっと、つまり何回お金が出ていってしまうんですか?」

「17回。」

「うわっっ・・それは厳しい。」

「昨日のは3人目の奥さんだったんだけどさ、やっぱ式とか普通にやるのな。前の奥さんたちと平等にってのはわかるんだけどなあ。」

「呼ばれる側はきついですよね。やる本人たちも出費がかさむでしょうけど。」

「まあ、なんにせよ、助かった。ありがとう橘さん、生き返ったよ。これで今月を乗り切れる。」


いやいや、まだ、今月あと半分ありますよ?


「長野課長は自分で料理とかする派ですか?」

「ああ、自炊するよ。材料がないけどね、ははは。」

「・・・あの、長野課長、今日うちに来ませんか?」


**********


本屋で待ち合わせをしていたら、思ったより長野課長が来るのは早かった。金欠の人の前で、趣味の小説を買うのはどうかと思ったんだけど買ってしまった。長野課長は車で通勤しているので、助手席に座らせてもらって、家までの道案内をする。


「橘さん、本当にいいの?」

「ええ。うちは農家の方が近所に多いので色々いただくんですが、食べきれないんですよ。長野課長がもらってくださると助かります。」


正直長野課長なら、女子社員が色々くれると思うんだけどな。凄くモテてるし。そう言うと、長野課長は苦笑いをして、


「あんまり会社でみっともない姿は見せられないから」


と言った。それから、5分もしないうちに家に着いた。事前に母には連絡してある。野菜とか色々袋に詰めておいてくれてるはず。


「いらっしゃい、どうぞ上がってください。」


母の顔が輝いている。上司を連れてくるとしか言わなかったから、男性なのに驚いているのはわかるが、長野課長がイケメンなのが嬉しいんだろう。面食いだな、母よ。


「いえ、食べ物をいただきに来たのも図々しいのに、そんな」

「いいんですよ、うちじゃ誰も食べないんですから、むしろ押し付けちゃってごめんなさいねえ。」

「長野課長、上がっていってください。もしかして、忙しいですか?」

「いや、大丈夫だけど。」


ちょっとお茶を飲んでもらっている間に、長野課長に確認する。


「レタスと、枝豆と、キュウリ、いんげん、トマト、ピーマン、ジャガイモ」

「え?ちょ、ちょっと待って。そんなにもらっていいんですか?」

「多すぎて困ってるのと、うちじゃ食べないものとあるからね。もらってくれると助かります。」


うん、うち、いんげんとピーマン食べないから。母の言葉に私も頷く。


「長野さんは魚介類とか、缶詰とか平気?」

「何でも食べますが、缶詰なら長持ちしますよね。」

「うち食べないから。何か珍味?とかお中元にもらったんだけど、困っててねえ。」


そう言いながらがっさがさビニール袋に詰め込む母を、ちょっとおろおろして長野課長は見ている。なんか、新鮮だ。


「この魚は焼いてあるから。何の魚かは知らないけど、友達が焼いて来てくれたのよね、でも、生臭いの嫌だから困ってたの。ああ、あとお葬式のもので悪いんだけど、果物の缶詰、賞味期限が近くてごめんなさいね。あ、そうそう、カップ麺。これ、辛いしネギがたくさん入ってて食べたくないのよ。福引で一箱当たっちゃって、ああ、辛いと言えばレトルトのカレー、うち、頑張っても中辛までなのよね。辛口とか食べられないわ。」


母の口はとどまることなく、ビニール袋から、紙袋へと広がり、ついには段ボール箱にまで広がった。長野課長は驚きすぎてて口をはさめないらしい。車で来てもらってよかった。そして、うちで食べられないものを押し付けちゃって本当にすみません。


長野課長はひどく恐縮しながら帰っていった。長野課長、一人暮らしだって言ってたのに、随分と生ものを渡しちゃって、逆に迷惑だったんじゃと今更ながらに思った。



**********


「いや、全然迷惑なんかじゃないよ。ほんと助かった。こうして弁当も作れるから、出費がないし。」


昼休みに食堂で長野課長はそう言って、お弁当を広げた。どうも、私にお弁当を作ったと報告してくれるために、私の前に座ったらしい。目ざとい女子社員が割って入ってきた。


「えー、長野課長、お弁当男子ですか?うわぁ。美味しそう。私も手作りなんですよ、レシピとか教えてほしいなぁ。」

「長野課長、彼女に作ってもらったんじゃないですか?」

「急に、お弁当なんてどうしたんですか?」

「課長が飯おごってくんないんで、俺、コンビニ弁当っすよ。」


その人を筆頭に他の社員や後輩たちも続々と集まってくる、正直居心地が悪い。ってか奢ってくれるのを当たり前と思うな、そこの新入社員。そっと席を離れようとしたら、長野課長は爆弾を落としてくれた。


「今月、結婚式が多くてピンチでね。橘さんにいっぱい食材を恵んでもらったんだよ。」

「ええー何で橘さん?」

「長野課長が困ってるのなら、私、毎日お弁当作りますし、おうちにもご飯を作りに行きますよ?」

「食材だけ渡されたんすか?どうせなら料理作ってもらえばよかったんじゃないんすか?」


悪いな、新人君、私に料理というスキルはないのだよ。それにしても、女子社員から、何でこいつが長野課長に近づいてんだ、的な目線が怖い。


「橘さんとは同期だから、話し易かったんだよ。ほら、皆さっさと食べないと、時間なくなるぞ?」


長野課長はそう言って平然と食べ始めた。まあ、多分今回だけだろうし、痛い目線を受けながら、私はさっさと食べ終わることに専念した。


**********


6月が過ぎても、長野課長、礼二さんとうちのやり取りは変わらなかった。うちで食べられない食材を引き取ってもらい、礼二さんが料理して、うちの家族でも食べられる味にしてくれたり。変わらないというより、深まってる気がする。休みの日には礼二さんが美術館とか、ゲームセンターとかに連れていってくれて(幅が広い?二人の共通の趣味なのです)上司というより、同期の友人みたいな感じだ。


ある日、家に送ってくれた礼二さんが私にコンビニの袋をくれた。何だろうと思って中を見ると、あの日食べ損ねたサーモンイクラが。


和香のどか、これ、好きなんだろう?お母さんから聞いたよ。好きなものは後で食べる主義だって。横取りしちゃってごめんな。」

「いやいや、むしろなんでこんなの覚えてるの?」

「そりゃ、好きな子からもらった最初のもんだし。」

「・・・・へ?」

「確かにあの時、金がなくて困ってたけど、和香のだからもらったんだよ。他の女子社員とか、何を交換条件にされるかわかったもんじゃないし。まあ、俺、そこそこモテるからね。」


ああ、確かにそれは不安があるよね。交換条件とか平気で出しそうだもん、彼女たち。いや、そこじゃない、そこじゃないぞ、なんかすごい言葉を聞いたような。


「和香、誕生日早々お一人様届だしたんだって?俺もそうすればよかったよ。仕事忙しいのに、週末はお見合いで休めなくて、3年くらいたってやっとお一人様届だしたんだよ。」

「ああ、うん。お見合いとか無理だなあって思ったから。」

「正解だったと思うぞ。今はパソコンにデータで送られてくるらしいけど、あの頃は紙だったからなあ。重いし、お見合い相手を探すのも一苦労だった。」


うん?話がずれてきた?さっきのは私の聞き間違いかな?


「和香、二人でお一人様届を取り下げないか?俺は和香と、和香のうちの雰囲気が好きだ。俺にはもう家族がいないから、和香のうちに行くとホッとするんだ。」

「・・・ええ!?あ、あの、その」

「和香が俺の事ただの同期で友達だと思ってるのはわかってる。でも、考えてみてくれないか?」


まさかの告白に私は気が遠くなった。驚きすぎると頭が真っ白になるんだなと思いながら


「アリガトウゴザイマシタ、オヤスミナサイ」


だけは何とか口にして、部屋のベッドに倒れこんだのだった。

後日談ではなく、中編、後編の三部作になります。

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