3:『敵はボコる。それだけ』
その頃、マグナム・クラックス────
「……おい、アイツら帰ってくるの遅くねぇか?たった2人殺ってくるだけだろ?」
「誰か確認にでも行くか?」
「それはそれでめんどくせぇんだよなー。ま、ハッパでも吸って気長に待とうぜ」
「そうだな!おーい!ヤク持ってこーい!」
お気楽な奴らだった。
一方、デイブたちは、マグナム・クラックスの本拠地のすぐ近くに来ていた。道の脇に車を止めて
「さーて、まずグレン、お前は俺と来い。ってか、お前先頭行け、後ろから援護する」
「まぁ、だろうと思ったぜ。了解」
「ショーン、お前は近くのビルで降ろすから、高所から狙撃で援護……できるか?実弾だと敵さん殺すことになるけど」
「……人殺したことは無いから……」
ショーンは銃を握り締めて俯く。
「……まぁ、そりゃそうだよなぁ……。ま、無理すんな。とりあえず、一応援護できる場所には居てくれ」
「……分かった。ありがとう」
車はまた動き出すと、ここ近辺では高い方のビルの前で止まった。
「ショーン、ここの屋上からならあのヤク中共のアタマが狙えるはずだ。……とにかく、無理はすんな。生きること優先だからな」
「……ありがとう。行ってくる」
ショーンは車を降りてビルの階段を上がって行った。
マグナム・クラックスの集まる場所から少し離れた所で車を止め、降りて歩いて向かう。
「……しっかし、こんな所で発砲なんて大丈夫なのか?」
「グレン、お前もよく知ってるだろ?この地域の警察はダメな奴が多いの。ギャングの事には銀行強盗やらそんなのでもない限り、首を突っ込もうとすらしねぇ。一般人撃ったりしなきゃ問題ねぇよ」
「それもそうか」
「それじゃ、行こうぜ。あ、無線機着けるぞ」
「おう。周波数は……183.25だったな」
無線機を装着し、ショーンに連絡を取ってみる。
「もしもーし。ショーン、準備はいいか?」
『一応……』
「OK。じゃ、俺らはおっぱじめるぜ」
『……分かった』
俺はデイブの少し前を歩き、バットを構える。近くの車の陰に移動し、マグナム・クラックスの連中を見る。数は見た感じ12人。建物の中にも数人はいるだろう。デイブが小声で話しかけてくる。
「よし、『3』で行くぞ。……1……2の……3!おらぁ!」
デイブはAK47を見える敵目掛けてバンバン撃ちまくる。弾丸は下っ端らしき奴らを3人程捉え、動かなくなる。
「んなっ、おいどういうこった!?なんでアイツらがこんな所にいやがるんだ!」
「えぇい!ぶっ殺せ!撃て撃てぇ!」
敵も臨戦態勢に入った。
「うぉおらぁ!」
俺は遮蔽物に隠れながら裏へとまわり、背後からバットで相手の1人の頭をかち割った。
頭かち割った奴の隣にいた奴はナイフを取り出したが、距離が近かったのでナイフを弾き飛ばして殴り倒す。それを繰り返して3人撃破。敵を倒しながら進み、デイブと合流する。丁度角材が積んである所があったので、そこに身を隠す。
「ホント、お前よくバットで戦ってて生きてるよな……」
「慣れてるっていうか、身体にしっくりくるんだよ」
「そうかい。リロードするから援護頼む」
「あいよ」
俺は腰の拳銃を抜いて近付いてこようとする奴に弾丸を御見舞する。
「そういやショットガンは?」
「あ、忘れて来た」
「ばーか。まぁ、この際しょうがねぇ。リロードは済んだか?」
「OK」
デイブはまた遮蔽物から顔を出して撃ちまくる。
すると敵の方から
「アレを持ってこい!」
などと聞こえた。十数秒後、数メートル離れた所にある車のサンルーフが開く。すると、ごっついマシンガンを持ったマグナム・クラックスの下っ端が出てきた。そいつはマシンガンを二脚でしっかり構えると、引き金を引く。けたたましい破裂音が連続で鳴り響く。
「うおっ!?」
デイブは咄嗟に顔を引っ込めて角材の山に隠れると、角材に大量の弾丸が当たり、小気味いい音を鳴り響かせる。さらには周囲への流れ弾が窓を割り、壁に2センチほどの穴をあけ、そこら辺の車を貫く。
「はぁ!?おいおい、フルオートってのは違法……っていうかあんな銃買えるのか!?」
「知るかよぉ!とにかく、これじゃ動けねぇぞ!」
「くっ……こんな時に狙撃援護があれば────
一方、ビルの屋上にて。
「…………」
状況はスコープ越しに見えている。今、俺がやらなければ、2人は死ぬかもしれない。……でも、俺に人が殺せるのか?
「…………」
いや、やるしかない。俺を助けてくれると言った人たちがピンチなのに助けないのは人としてどうかと思う。
一度、深呼吸する。
「……よし」
覚悟を決めた。Kar98kのボルトを引き、弾を装填する。しっかりとライフルを構えて、狙いを絞ると、息をゆっくり吐いて、手ブレを落ち着かせる。
そして引き金を────引いた。
轟音が鳴り響き、肩に衝撃が伝わる。放たれた弾丸は、一直線に飛んで行き、マシンガン野郎の頭を吹き飛ばした。
「やった!」
マシンガンの射撃が止む。
「おっ、ショーンだな!」
デイブは無線をショーンに繋ぐ。
『大丈夫か?』
「おう、サンキュー。ナイス狙撃」
『覚悟決めた。これからちゃんと援護する』
「ありがとな。頼むぜ」
デイブは俺の方を見る。アイコンタクトで合図して、角材の山から身を乗り出し、周囲の奴らを撃つ。狙撃によって混乱してたのか、2人で5人も仕留めた。
「さーて、ショーンの親父さんは何処だ?」
「さっきヤク中共が出て来た建物あったろ?あの中じゃねぇかな?」
「なるほど。よし、じゃあ乗り込むぞ」
「あいよ」
壁伝いにドアへと向かい、中に乗り込んだ。まだ結構連中残ってたんだな。中には5人ほどいる。幹部っぽいのも混じっている。
柱の陰に隠れると、こちらに気付いて銃を撃ってきた。しかしその直後窓が割れ、1人が吹っ飛んで動かなくなる。多分ショーンの狙撃だろう。
向こうの隙を突いて拳銃で1人仕留める、デイブはライフルで2人仕留めた。
ラスト1人はショーンの狙撃で吹っ飛んだ。
「よし、ショーン、こっちに来れるか?」
『分かった。すぐ行く』
数分でショーンが到着した。
「多分親父はこの先だろうな。行こうか」
ショーンはコクリと頷く。俺たちは建物の奥へと歩き出した。
部屋を一つずつ確認しながら進む。残る部屋は1つになった。扉を開けると、口を塞がれ、縄で縛られて痣だらけになった男が転がっていた。
「父さん……!」
ショーンは血相を変えてその男を抱き起こし、口を塞ぐ布を外す。俺とデイブも部屋に入る。
「ぐっ……ショーンか……?そこの人たちは……?」
「僕たちを助けてくれたんだよ。さ、帰ろう。歩ける?」
「あ、ああ……」
ショーンが出口に背を向けて父親を助け起こしていると、出口から男が1人入ってきた。多分マグナム・クラックスの生き残りだ。
「死ねぇっ!」
男は拳銃を出してショーンに向けた。
「危ないっ!」
銃声が鳴り響く。しかしショーンは無傷だった。ショーンの父親が盾になったのだ。デイブはマグナム・クラックスの生き残りをAK47で射殺した。
「父さん……っ!?なんで……」
「……息子を守るのは親の勤めだろう……?」
「は、早く病院……っ!」
ショーンの父親はショーンの頭を撫でる。
「俺はもう長くない……。もうお前だけでも生きれるだろう?もう18になるんだから。強く生きるんだ。いいな?」
ショーンの父親は俺たちの方を見る。
「うちの息子を助けてくれてありがとう……これからも仲良くしてやってくれ……」
ぶっちゃけ俺たち初対面なんだけどな。まぁ、そんな野暮なことは言わない。
「ありがとう……」
ショーンの父親はそう言い終えて力無く崩れ落ちた。
「父さん!?父さん!」
ショーンは父親の体を揺するが、反応はない。
「やめとけ。……もう息がない」
「…………」
「行こう。親父弔ってやらなくちゃ、だろ?」
ショーンはコクリと頷く。動かなくなった父親を抱えて、車へと向かった。
途中
「これ貰っていこ」
デイブはマシンガンを拾って行った。
その3日後。俺たちはショーンと一緒にショーンの親父さんの墓にお参りに行った。その帰り道での話。
「……んで、ショーン、お前はこれからどうすんだ?」
「その話なんだけど、いいか……?」
ショーンは急に改まって話し始めた。
「なんだよ、急に改まって。いいぞ、言えよ」
「俺を仲間に入れてほしい」
「はぁ!?お前それ本気か!?」
「もちろん。どうせこれからどうしたら良いかも他に思いつかないし。……ダメかな?」
「…………どうする?」
俺はデイブに話を振る。
「別にいいんじゃねぇ?ショーンは良い腕してるし、仲間が増えるのはいいことだろ」
「まぁ、それもそうだな。敵はボコる、仲間は守る。ルールはそれだけだ。お前がいいならついて来な」
「…………!ありがとう……!」
「おいおい泣くなよー」
仲間が一人増えた。これからはもっと賑やかになるぞ。
そんなことを考えながら、ワイワイ騒ぎながら帰った。