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姫、武闘派の一面。

「邪魔かな?」

 村の外れにあるテントに私は寄った。

 錬金術師のユイが煙管きせるで一服しながら、とろんとした眼で私を見た。

「微妙ね」

 そうですか、微妙ですか。

 ユイはこの村に来てから半年ほどになる。残雪の頃に来て、雪崩に巻き込まれて危うく死にかけたところを、悠々とスキー板で遊んでいたおとうさんに保護されて、全財産無くなったが、代わりに一目惚れしてしまい、何度も断られたが、諦めずにずっと村にいる迷惑な女である。帝都の大学を卒業した頭の良い人なのだが、異性の嗜好は筋肉質な人が好みのようだ。

「うっ、何この臭い」

「ああ、これ。煙草なんだけど。色々試してみてさ。これ吸うと無感覚になって楽しいのよね」

 ユイはへらへらと笑った。

 大変だ。ユイが知らない間に薬中になっていた。

「なによ。変な目で見ないでよね。これはね。麻酔の元になる大変な発見よ。ただ、ちょっとだけ、くせになる。うー、これでウィルさんに滅茶苦茶にされたいわね」

 ……大丈夫かな、この人。

「ところで、麻酔って何?」

「感覚を麻痺させる薬よ。人体から弾丸を抉り出すときを見たこと無い? 凄い痛そうでしょ。そうすると、弾丸を短刀で抉り出そうにも暴れて傷口を増やすばかり、だけど麻酔をすれば痛くないから暴れることも無い、自分の体で実験して試しているところよ」

「へー、痛くないんだ」

 うりゃ。私はユイの頬を殴ってみた。

「まだ……試している途中だって言ったじゃない……痛いわよ」

「ごめん……」

 ユイは頬をさすりながら、眼を赤くしていた。


「ウィルさんはもう行ったのね」

 ユイは黒色に染めた外套を風になびかせながら、テントの外へ出た。

「今日は、台所で料理する姿を見れないのね」

 ユイは頬を赤く染めて、おとうさんの裸を思い出しているようだ。

「心配している訳じゃないんだ」

「一応、傷に効く没薬もつやく葡萄酒ワインと蜂蜜を混ぜたものを用意したわ。ウィルさんが傷付いて帰ってきたらお香を焚いてあげるけど、怪我して帰ってくるのはウィルさんについていった連中ね」

「確かにそうかもね」


 森から鳥が飛び立ち、悲鳴が聞こえた。

「狼?」

 私は家から持ってきていた回転式銃リボルバーの弾丸を確認した。回転式銃リボルバーと首飾りは本当のおとうさんの形見だ。猟では使わないが、護身用には十分すぎる品だった。

 村の周りの柵を直している途中なので、発見が早かったのだろう銃声が数発聞こえた。私たちは流れ弾に当たらないようにその場で伏せて音が聞こえるのを待った。

 樹が倒れるような音がして、道の角から煙が上がった。

「来たわね」ユイは余裕の発言をしたが、武闘派ではないので木の幹を足をかけて登りしがみついた。

「あれは、狼じゃないね」

 私は銃を両手で構えて、近くに寄ってくるのを待った。彼我ひがの距離長し、弾丸が描く軌道には横風あり、このまま撃ってもあたらないので引き付けて撃つ事にした。

「猪? というか人間!」

 猪が暴れ回り、体にしがみついている人間を振りほどこうとしていた。手には短刀を持っており、しがみつきながら刺そうと足掻いている。猪の足は怪我をしており血を流しているが、致命傷ではないようで暴れ馬のように跳ねていた。

「銃は駄目だ」

 私は短刀を抜いて、猪にじりじりと近づいた。

「危ないわよ」

「分かっているけど、放っておけないよ」


 私はそうは言ったが、暴れまわる猪の隙を狙うのは用意ではなかった。

 猪にしがみついている人も、意地で抱きついているように見えた。

「セシル、危ないってば」

「分かっているよ」

 猪は暴れるのを止めて、近くの樹に体当たりした。しがみついていた人はとうとう手を離してしまい、地面に転がって悪態をついて、力尽きたように仰向けに転がった。猪は自由になり、一路猛突進した。

 ユイのテントへと。

 ユイは半年前の雪崩で無一文になって、どうにかこうにか経済的に立て直してきたばかりだった。

 ユイは枝を折って、木から飛び降りると、猪へ向けて走りながら叫んだ。

「待たんかいっ!」色気の欠片も無い叫び声でした。

 枝を投げたが、慣れていないのであさっての方向へ飛んでいった。

 猪はユイの声と奇行に反応して、突進を小休止した。

 私は猪に飛びつき、腕を首に絡めながら、短刀で動脈をかき切った。猪は血を流しながら暴れたが、血の噴水がんで絶命した。私は顔に血を浴び、暴れる体を押さえ込んだので地面に足を引き摺られた跡が残った。


「ありがとう、セシル。私の財産は守られた」

 私の両手はユイにがっしりと握られた。

「それよりも、あの人大丈夫かな」

 私たちは猪に吹き飛ばされた人の所へ向った。

 顔を覗くと疲れたようで、ぼーっと空を眺めていた。

「お腹減った……」

 雀斑そばかすと分厚い眼鏡をつけた私と同い年くらいの女の子だった。掌を傷だらけにして、服が血で汚れるのも構わずにお臍あたりを撫でていた。私と同じで黒髪だが、彼女の髪は長くて丁寧に手入れされており、騎士の馬のように艶やかだった。

「大丈夫ですか?」

「空腹以外平気」

「そんな訳無いでしょ。手当てしてあげるよ。立てる?」ユイは女の子の体を手で触って傷を確認した。

「腹が減って動けない」

 私とユイは彼女の肩と足を持って、なんとかテントの中へ運び込んだ。

没薬もつやくだけでも鎮痛薬だけど、作中では葡萄酒と蜂蜜を混ぜています。これは、キフィというものですが、他にもサフラン他をまぜなけらばキフィにならないので没薬としています。薬というより香料なので良い匂いがしそうですね。

 錬金術師は科学者的な意味合いで使っています。

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